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六話

そこに確かにあったのは地球にある剣獅の家そのものであった。


「それはそうだろう、これは君の家をそのまま忠実に再現した寮なんだから」


手間のかかっていることこの上ない。

誰がやったのかは明白だが。


「ちなみに家具まですべてが再現されているぞ、もっともこっちで使えないものはあらかじめ消してある」


そこでふと思い出す。まさかあれまで再現されていないだろうかと。

剣獅は普段ではありえないような速度で自室へと向かい、壁にかかったあれを確認する。


案の定、それはかけられていた。

剣獅の大好きなアイドルのグラビアポスターが。

誰かに見られないうちに剣獅は一瞬のうちに丸めて、台所のコンロで火を点けようとするが、生憎なことにIHだったので火などは起きない。

現代科学の悲劇である。


「そんなことをしてももう遅い、ばっちり見たよ君の趣味は」


スレイが家、もとい寮に上がってきていた。

剣獅はグギギと音がなりそうに、ぎこちなく首を回す。


「見ちゃいやんっ!!」


反射的に気色悪い声をあげてしまった。

完全に二重の意味で黒歴史である。


『残念だったな剣獅、ジ・エンドだ』


クロアも追撃してきた。

もう逃れることはできなかった。


「まぁ思春期男子の傾向は弟で研究しているがね...」


「いやもうそれ以上はやめてください」


剣獅は土下座した。剣獅の完敗である。


「冗談だ、ほれ貸してみろ」


貸せば絶対にコピーかなにかされて、校内にばらまかれると思ったので剣獅は断固として離さない。


「ちっ強情だな...」


スレイは手のひらに小さな炎を作り出して、その炎のなかにポスターを投げ入れて燃やしてしまった。

これが紋章術というものだろう。


「便利ですねそれ」


「授業でやることだ。よく覚えておけ」


と、リビングのソファにどっかりと座る。

何気にこの寮は女子寮と比べると広いので、心とスペースにゆとりが出る。

それにあやかって、ちゃっかりくつろいでしまっているのだ。


「なんで寛いでるんですか先生」


「まぁ座るといい」


「いやここ俺の寮!俺の家!」


剣獅が激しく抗議するが、胸ぐらを掴まれて対面側に座らされる。


「どうだ?気に入ったか」


「気に入るもなにも...これ俺の家そのままですからね」


「これはすべて学園長が直々にお造りになった。他にもトイレとかバスルームとかも作ってあるぞ」


すべては剣獅のためだけに成されたことだった。剣獅がこの学園にいるためがだけに、こうして色々と増築を繰り返しているのだ。

あの学園長は、飄々としているようでちゃんと仕事はこなしているようだった。


『剣獅、私も外に出せ』


いきなりクロアが勝手にキーホルダーから顕現した。

出せと言ったくせに、勝手に出るとはどういう了簡だろうか。


「ほーほー。ここが剣獅の部屋か」


「君は何者だ?」


スレイもいきなり現れたクロアに少なからず驚いているようだ。

普段よりも言葉に抑揚がある。


「俺の聖剣です...すみませんこんなやつで」


「こんなやつとはなんだ無礼な。私は高貴なる聖剣エクスカリバーなるぞ」


と、こんな幼...お子様に言われても威厳の欠片も感じない。

だが、スレイにはなにか通ずるものがあったようで。


「君があの伝説上の聖剣エクスカリバーか。前の剣騎はよほどの幼女好きとみた」


クロアが幼女ではないと、抗議するが説得力がないのでただ虚しいだけである。

暴れるクロアをどうにか剣獅が押さえつける。やはり子供のようだ見た目だけでなく中身も。


「先生」


「ん?」


「異界人ってなんのことですか」


それはあのアミリアという少女が口にした言葉。彼女は確かに異界人と馬鹿にしたような発言をした。

それを聞いた奏という少女が怒って喧嘩になったのだろう。


「この学園には君たちのいた空間と、こちらの空間から剣姫の力をもったものたちが集められている。

だから、この世界へわたってきたものを異界の者として、そのまま異界人と蔑むような悪しき風習が残ってしまった」


それは消えることのない烙印でもある。自分は周りとは別の存在だと。


「下らないことだが、こればっかりはどうすることもできないんだよ」


「そうですか」


あの奏という少女は名前からして、日本生まれだろう。つまりは剣獅も同じようにそう呼ばれる存在なのだ。

心配するところではないが、なんにしてもそういう差別的発言はあまり気分がよいものではない。


「案ずるな剣獅、私がついておる。私の力をもってすればあんなヒヨっ子など一瞬で消し飛ぶぞ」


心強いのだが、発言のひとつひとつがあまりに物騒なので、なにを為出かすかわかったものではない。

剣獅はこいつの扱いだけは気をつけるようにと、心のなかで思っておく。


「随分気に入られたようじゃないか。人型の聖剣などなかなか御目にかかれないからねぇ...どれどれ」


スレイがじっくりと上から下、下から上と舐めまわすように見つめ続ける。

あまりジロジロと見られるのは好きじゃないのか、俯いてなにやらモジモジし始めた。


「樟葉、これもらっていいかな」


「ダメです」


「じゃあまた明日...」


「日を変えればいいってもんじゃないんですがっ!」


どうしてもこの教師のまえだけはツッコミに回ってしまう。

固そうな雰囲気とは裏腹に、かなり弄り慣れしていてやりづらい。


(ん...あの人誰だ?どっかで見たことある気がするんだけどな)


剣獅は窓の向こうに、長い黒髪の少女が校庭を歩き回っているのを目にする。

しばらくなにをしているのか眺めていたところ、スレイも同じようにその少女を目撃する。


「あいつまた...」


スレイはいきなり飛び出していったので、剣獅もあとからついていく。


「こらそこの不良生徒、授業はどうした」


「授業?受ける意味がないですね。あんなゴミたちと戯れるほど相手に困っているわけでもありませんし」


黒髪の少女は、スレイの方には向かず興味なさげにそう返した。

その態度にカチンときたのか紋章術を使おうとするが、そのときにはすでに喉元に刃があった。


「先生、いい加減にしないと殺しますよ」


その目は冗談やハッタリなどではなく、本気の殺意がこもっていた。

殺意の込められた刃がジリジリと迫る。


「おいあんたやりすぎじゃないか」


と、スレイの後ろから剣獅が声をかける。屈んでいたので少女からは誰かはわからない。


「なんだお前、噂の新入生でよかったか?」


「噂かどうかは知らないけどそうだよ」


「なら敬語を使え、私はお前より一つ上だ」


少女は剣の矛先を剣獅へと向ける。

間にいるスレイなど鼻から眼中にないといった様子だ。


「払えない人間に敬意を払えと言われても納得できないなぁ

来い、エクスカリバー」


家から窓ガラスを突き破ってクロアが飛んでくる。

クロアがまだ家のなかであることを完全に忘れていた剣獅のミスだ。

あとで学園長に頼むことにする。


「お前私とやる気か」


「さぁ?あんた次第だ」


少女が振り下ろしてきた日本刀、それが戦闘開始の合図となった。









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