表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/108

四十九話

剣獅の意識はまたあの綺麗な緑の草原へときていた。

どうやらあそこはあの世だったらしい。どうせ死んだならあの世というもので静かに暮らすのも悪くない。


ここは相変わらず吹き抜ける風と優しい太陽の光が気持ちいい絶好の昼寝スポットだ。

剣獅は目を閉じて寝ることにしたが、さすがにあの世で死んでいる人間が昼寝をする必要がなく一睡もできない。


「剣獅」


頭の上のほうから懐かしい声が聞こえる。それもほんの五分もしないような短い時間だったが、剣獅にはひどく懐かしく感じられた。

全身真っ白な格好をした少女、剣獅の相棒であるクロアだ。


剣獅は見るなり起き上がってクロアを抱きしめた。


「...っ馬鹿野郎」


「剣獅痛い...」


「お前生きてたのかよ...」


「いいや。私はもう消える。紋章を失くした私は世界にはいられない」


あのエリスの攻撃だ。あれのせいでクロアの紋章が消えてしまったのだ。

紋章とは主と剣を結びつけるものであり、同時に存在の依り代なのだ。


「やめろ...そんな冗談言うな」


「剣獅今までありがとう。好きだったぞ」


クロアの体が徐々に光に消えていく。

足先から少しずつだが粒子になって空へと散っていく。


消える。クロアが、剣獅が知らないうちにも長い間を過ごしてきたはずの、家族であるクロアが消える。

妹のように思っていたのに、死ぬまでずっといっしょだと思っていたのに、跡形もなく消える。


「待て...待てよ...行くな...」


飛んでいく光を掴みとろうとするも、するりと手を抜けて飛んでいくだけ。

クロアは完全に世界からいなくなってしまった。

剣獅は目の前が真っ暗になった。


なんだかんだで剣獅にとってクロアは一番大事なものになっていたのだ。

無くしてはいけない大切なもののなかに入っていたのだ。それを失くして初めて気づいた。


ではそうさせたのは誰だ。あの女だ。

殺そう。同じ目に遭わそう。無惨に跡形も残すものか。無様な死に様と絶望と悲鳴を与えてやろう。

剣獅のなかにくずぶっていた負の感情が今爆発した。

こんなところで死んでいる場合じゃない。あの女に復讐しなくては。


そのとき白と黒が反転した。






戦闘のあった地点に絢香はたどり着いた。だがたどり着いた時にはこの目でみた未来と同じ光景が広がっていた。

剣獅は横たわり、エクスカリバーは粉々に破壊されている。

絢香はすぐさま剣獅の元へと駆け寄る。


「剣獅しっかりしろっ」


触っても体に温かさも脈も鼓動も感じない。

剣獅が死んでいると認識するには十分過ぎた。誰がやったかなどはっきりしている。目の前にいるこの女だ。


「十夜芽絢香。そいつはもう死んでいる無駄だ」


なぜ自分の名前を知っているか、そんな疑問など頭にはない。あるのはただこの女に対する復讐心だけだ。

愛する人間を殺された復讐心。わかっていながら助けることのできなかった自分への怒りと後悔。

それをすべて刀に込めて女に斬りかかった。


「貴様ァッ!!剣獅になにをしたッ!!」


「私の能力は紋章を破壊する。紋章を失った剣姫は当然死ぬ、例外はない」


「なぜ殺したァッ!!」


「世界のためだ」


「人を殺して得る世界など私が壊すッ!!」


絢香は無意識のうちに村正の技の腕を顕現させていた。

しかもその腕たちは自立して攻撃している。

絢香の怒りに剣が応えた証拠だ。


「無理だな。世界とはそこまで甘いものではないぞ十夜芽二年生」


エリスは六本の刀からくる攻撃をすべて躱しながら、的確に攻撃を決めている。

対人戦闘ならメイガスをも凌駕するのではないかとも思ってしまう。


「お前もあの男の死を願っていただろう」


確かにデュエルで絢香は剣獅を殺そうとした。殺そうとしただけでなく本当に殺す寸前まで追いやった。

だが、剣獅はそんな自分でも救ってくれた。だったら自分も剣獅を救おうとしている今は同じであるはずがない。


「そうだ私はあのとき過去を斬るつもりだった。だが剣獅に変えられた。あのときとは違うッ」


「何が違うのだ?」


「お前には一生かかってもわからんッ!!」


六本の剣が同時に斬りかかる。いかに強いといっても両側から六本もの剣に斬りかかられればひとたまりもない。

これで終わったかに思えたが、わずかに刀にかけている力を押し返そうとする力を感じた。


「そうだな確かにわからない。そしてわかる必要もない」


「まさかっ!?...」


「ここでお前は終わるからな」


なんと六本すべてを素手で掴んで防いだのだ。

奇想天外もいいところだ。その掴んだ両手からは血がダラダラと流れている。


「久しぶりに楽しい勝負だったよ」


ダメなのか。やはり肝心なときに私は弱い。

絢香は己の死を覚悟した。


しかしエリスの剣が絢香に振り下ろされることはなかった。

エリスの体は十歩分下がった場所まで飛ばれている。

絢香はなにが起こったかわからなかったが、前を見てすぐにわかった。死んだはずの剣獅が立っているのだ。


「樟葉剣獅。なぜ生きている?完全に紋章は消し去ったはずだが」


「黙れそれ以上囀るな。今すぐに殺してやる」


剣獅の目はいつもの穏やかなものではない。怒りと憎しみに満ちたギラついた目だ。


「もう一度殺してやる」


エリスは剣を構えて十歩の幅を足の蹴り出しだけで埋める。

肉迫した間合いで、エリスの頭を掴んだ。

と、次の瞬間エリスの体は地面へと叩きつけられていた。


「...ゲハッ」


エリスの口から空気がもれる。


「よくもクロアを...」


「お前は何者だ!?一体なんなんだ」


「よくもクロアを殺したな。許さねぇ」


剣獅の耳にもうエリスの言葉は入ってきていない。

そして、怒りとともに知らないはずだがその魂が覚えている名前を叫けんだ。


「来い黒の聖剣エクスカリバーッ!!」


倒れながら絢香は剣獅の持っている剣を見てこういった。


「黒い...エクスカリバー...?」


刀身から持ち手までのすべてが漆黒。シリウスと闘ったときにできたあの黒い聖剣が再び現れたのだ。

これこそ父アーサーの二本のうちの一つ、黒の聖剣エクスカリバーなのだ。

クロアに前に言われた思い切り怒ってみろというのが、クロアを失ったことでそれが可能になって発現したのだ。


「黒いエクスカリバーだと?そんなものがなにになる」


「殺す」


剣獅はもう型など気にしない。まるで野獣のように。狩りをする獣のようにただ本能のままに剣を振った。

不規則にあらゆる方向から飛んでくる剣に、エリスも対応しきれないで混乱する。


「さきほどより攻撃力があがっている?!」


「あの世でクロアに謝ってこいクソ女」


剣獅はまっすぐにエリスの腹を貫いた。

エリスの体から血が溢れ出る。

勝負はついたかに思われた。


「まだだ...」


剣獅はさらに刺し続けた。

死にかけている体にも一切の容赦はない。

殺してやる。殺してやる。肉の一片も残すな。そう思いながら何度も何度も息をいていなくてもエクスカリバーで刺し続けた。

そのあとしばらくのことは覚えていない。覚えているのは無惨にもぐしゃぐしゃになったエリスの体と、自分の体についた夥しい返り血だけだった。


「やめろ剣獅。もう死んでる」


止められるまで何をしていたかも思い出せない。ただ頭が真っ白だった。

そしてふと絢香の顔を見ると涙が溢れ出た。

おそらくだが、一生分の涙が出尽くしたのではないかと思うぐらいに泣いた。ただ泣き叫んだ。







学園から遠く離れた大陸にあるとある巨城。

そこにコードネーム紋章破壊の訃報が告げられていた。


「紋章破壊が死んだか...」


この男。イシュタム総帥ヴァルハラ・ドビッツ。


「はい。惜しい人材でした」


そして秘書ウォーリア・ハイエージェント。


「俺は行く」


甲冑に身を包んだドビッツは、ガシャンガシャンと甲冑の擦れる音を立てながら、どこかへ行ってしまった。

エリスの弔いにいったのだろうと、長い付き合いのウォーリアは察しがついていた。


「次は誰を送り込みますかね。剣騎は私たちが滅ぼしますよイディア様」


壁にかかる遺影のような肖像画を見て呟いた。























自分の書いた話を読んでみよう。ネタ同じってすぐわかる。

あんまり被らない感じにしたいですね。

あまり被りが嫌いな方は大変申し訳ありませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ