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四十八話

影が剣獅の頭上から覆い被さった。

上を見上げた刹那の瞬間に、夜に差し掛かった暗闇とは一線を隔す白刃が、剣獅に向かって振り下ろされた。


斬られると直感で悟った剣獅は、とっさに地面を転がり軌道から逸れる。

剣獅を切り損なった白刃が地面を掠める。


「仕留め損なったか。今ので死んでいれば楽だったものを」


自分を斬ろうとした人間をよく見る。

白い仮面を被り、顔はわからないが女性的な膨らみは特徴的で、まるで誰かと同じだ。


「エリス先生」


「…」


仮面の女は答えない。ただのポーカーフェイスだろうが、仮面を被ってポーカーフェイスとは如何にも下手な人間のしそうなことだ。


「エリス先生ですよね、そんな面なんか着けて顔隠して表情隠すくらいに隠すのが下手な人」


「樟葉くん(・・・・)お前を斬ろう。それで世界は救われる」


樟葉くん。そんな言い方をするのは間違いなくエリスだ。

だが理由が見当たらない。なぜ朝まであんなおっちょこちょいで明るい性格でいたエリスが、今学校を出ただけで襲い掛かってくるのか。

さらに悪いことに、ここにはメイガスの結界は及んでいない。

増援は望めそうにない。


「剣を出さないなら勝手に行かせてもらう」


考えているうちに、エリスはどんどん迫ってくる。


「クロアッ!!」


剣獅もクロアの本体であるエクスカリバーを顕現させる。

エリスの剣と剣獅の剣が激しくぶつかり、火花が飛び散る。

つばぜり合いになるのだが、強化してあるはずの義手で競っているはずなのに一切動かずカタカタと音を立てて拮抗して動かない。


「絢香よりマシだな…」


絢香のほうが何倍も重かった。

紋章の力もあるだろうが、それ以上に研鑽を重ねた腕力もある。

それに比べればどうということはない。


「十夜芽絢香…確かに遅れは取るだろう。だが…」


言うよりも先に、行動が示して見せた。

素早さでは断然エリスのほうが速い。

素早い剣撃に、剣獅は完全に防戦一方になる。


次第に体にもダメージを負っていく。

服が破れ、肩に刻まれた紋章が顕になる。

そのとき、仮面の奥のエリスの顔がニヤリと笑ったのが剣獅にはわかった。

それが何かを狙っているということも同時に理解した。


「先生。俺の紋章がそんなにおかしいですか」


「樟葉。生きたければその紋章を大事に守ることだ」


剣獅は訳がわからなかった。

紋章とは本来聖剣の契約者と絶対に離れることはなく、死ぬか剣を破壊されるかでなければ紋章が消えることなどあり得ない。


「訳わかんねぇなッ!!」


素早く激しい剣撃の合間を縫って、剣獅の突きが伸びる。

エリスは卓越した身のこなしで、紙一重を体現したように避ける。

さらに、カウンターで頬に、重たい一撃を浴びる。


「ちっ…」


「そんな攻撃は当たらない。私は特殊な訓練を受けている」


「軍隊かよ…」


言いながら口に溜まった血を吐き出す。


「諦めろ。そうすればすべて終わる」


「それは正しい終わりじゃねぇっ!!誰かが無理矢理に周りを巻き込んで終わらそうとしてる間違った終わりだッ!!そんなの俺は認めない」


「認められるためにやっているのではない。大人になれ。世界は誰かが終わらせなければ永遠に荒んでいく」


「わかんねぇ奴だなどいつもこいつもっ!!」


剣獅は腰からエクスカリバーを振り抜いた。

相手の油断の隙をついた完璧な不意討ち、のはずだった。


「当たらないと言っている」


剣獅の攻撃は又も紙一重でかわされる。

何度剣を振ろうと、エリスの前には避けられる攻撃の一つでしかない。


「ふざけた体してんなっ」


「そろそろ終わりにするか。破壊せよジークフリート」


エリスの聖剣の白い刀身が、怪しい光とともにギザギザと刃こぼれしているのが丸わかりの刀身へと変化する。


終演(フィナーレ)だ」







絢香は森のなかをひたすらに走っていた。

街に行った剣獅を追いかけるにあたって、ドラゴンを借りていくということも頭に浮かんだがそんな時間は生憎となかった。

全力で薄暗い森のなかを駆け抜ける。


空にはだんだんと雲がかかり、一雨きそうな天気だが気にする余裕はなかった。


「絢香様」


「わかっているっ!!」


声を荒らげて叫ぶ。このままのスピードで走っても間に合わないのは絢香自身もわかっていた。

だがこれ以上の速度で走る脚を絢香は持っていない。

それでも国体選手の短距離走なみであるのだが。


剣獅が学園を出たのが絢香が教室にたどり着いてからしばらくもしないうちであればすぐ追いつくはずだ。

しかしうかつだった。目を離した隙に外へと出てしまっていたとは。


次第に雨も降り出してきた。

ポツリポツリ落ちて体にかかる感覚がする。この降り方であれば、少々強い雨で追いつくのがかなり困難なものになる。

とにかく絢香は焦ってでも急ぐしかなかった。


しばらくしてようやく灯りが見えた。どうやら街にたどり着けたらしい。

しかし問題はそこではない。このそこそこに広い街のどこかにいるであろう剣獅を探さなければならないのだ。


そのとき、街のほうから煉瓦の破壊音がした。

おそらく戦闘によるものだろう。

悪い予感が的中した。

絢香は村正を手に握って街へと駆けていった。






「ジークフリート...暗殺された英雄か」


エリスの握る剣は英雄であったが、その後暗殺された伝説上の騎士の名前を冠する。

まさしく暗殺特化というところだ。


降り出しそうだった雨が降ってきて、視界がだんだんと悪くなる。

剣獅は視界を奪った雨粒を拭う。エリスが攻めてきたのはまさにそこだった。


一瞬反応が遅れた剣獅は体を反らし、さらに回転を加えて追撃を逃れる。

そして加えて反撃に背中目掛けて剣を振り抜く。


これはたとえ動体視力がよかろうと避けるられるものではない。

そう思って繰り出した攻撃は、背中に回した剣に受け止められる。

さらに後ろ蹴りを食らって剣獅は後ろの煉瓦の家へと体を叩きつけられ、さらに壁を壊して瓦礫のなかへと突っ込む。


「つっ!!...」


「そろそろいいか」


こちらへ近づいて来るのがかろうじて見える。

頭から血を流しているようで、ジンジン痛む。

痛みで、まともに思考することも考えることもままならない。


『来るぞ剣獅ッ!!構えろ』


クロアの激で我に還った剣獅はより一層剣に力を込めて握る。

エリスの剣に合わせてエクスカリバーを振り抜いた。

今度は間違いなく剣獅の力勝ちだ。大人といっても軽いエリスの体が跳ね返される。


「終わらせねえよまだ」


「あと一撃...」


さきほどからなにを言っているのだ。一撃とか紋章がどうとか意味がわからないことが多すぎる。


「決めるっ!!」


極限まで姿勢を低くしたエリスが、剣獅の懐まで肉迫する。そして剣獅の肩に刻まれた紋章を思い切り斬りつけた。

剣獅の肩から大量の血が溢れ出る。


「ぐっ...」


剣獅は肩を押さえてよたよたと後ずさる。


「終わりだ」


「こんなもんで...」


___ピシッ。


エクスカリバーが真ん中から亀裂を作って壊れ始めた。

パキパキと外側から壊れていく。


「おいクロアッ!!どうした返事しろッ!!」


返事はない。よく見ると肩にあったはずの紋章が消されている。

さきほどの一撃、あれはたまたま肩を狙ったのではなく初めからこの紋章を狙った攻撃だったのだ。


「紋章を亡くしたお前は直に死ぬ」


意識が遠のく。父アーサーもこうして死んでいったのかと思うと、これも因果なのかとも思う。

クロアが消え、そして自分も消える運命か。自分以外がなにかを失わないようにと思って生きてきた剣獅が失ったものは、あまりに重すぎた。


「剣獅っ!!!」


間の悪いことに絢香がこの場にきてしまった。

声が聞こえるような気もするが、よく聞こえていない。自分でも心臓が止まりかけているのがわかる。

鼓動が聞こえないのもそうだ。


そして剣獅は死へ近づく微睡みに瞼を閉じた。




















剣獅くん死にました。....物語はちゃんとご都合主義で戻しますけどね。

最近こういうネタ多いなと思いながらもやってみたかったのでやりました。


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