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五話

突然二人の攻撃の間に割って入って、槍とレイピアを素手で受け止めた男に、そこにいた全員がなにが起こったのかわからずに、ただ剣獅を見つめている。

レイピアも槍もかなりの力で振り回されていたので、間に入った剣獅を貫通していてもおかしくはない。


「男っ!!どういうつもりですの!?」


槍を構えていた少女、アミリアが剣獅に向かって指差して怒鳴る。

喧嘩の邪魔をされたのが頭にきたのだろう。


「喧嘩するなら素手でやれ、こんなところで剣とか槍なんて振り回したら危ねぇだろ」


確かに、この学園にはちゃんと演習場も用意されている。

時と場所を選んでいないのはこの少女たちのミスだ。

正論を叩きつけられて、二人は歯噛みする。


『お~剣獅かっこいいな』


「もっと言っといてくれ、これからなにが起こるかわからんからな」


その言葉通り予想だにしない展開がやってくる。


「...エル」


「え?」


「デュエルですわ男!!私と一体一(サシ)で勝負なさい」


デュエルとはその名のとおり、一個人もしくは団体同士の決闘のことである。

デュエルの結果がすべてであり、負けた側は勝った側の意向に従わなければならない。

よって、汚くても勝てばそれでいいのである。


「デュエル?」


『あのねーちゃんとお前がバトろうぜってことだ』


クロアの解説でなるほどと理解する。

しかし、剣獅にはこのデュエルを受ける理由がない。

当然断るつもりだった。


「冗談じゃないわ、私だって喧嘩の邪魔されてめちゃくちゃ怒ってるんだから。私も参加するわ」


レイピアを構えていた少女空野奏も参加表明してきた。

ここで剣獅が出ないでいると、さきほどの喧嘩の続きになりかねないので参加するしかなかった。


「わかった、俺もデュエルに参加す...」


「させませんっ!!」


いきなり後頭部を出席簿のようなもので叩かれた。

なにかデジャヴを感じるので、叩いた犯人は目視しなくてもすぐにわかった。


「先生、生徒虐待で訴えますよ」


剣獅の後ろ、そこには出席簿を片手に必死の形相のエリスが立っていた。

叩きすぎた出席簿は若干縒れてしまっている。


「なにをあなたたちは入学初日からデュエルなどと...」


「先生、止めないでください。揉みますよ」


「ひゃんっ!!」


可愛らしい声とともに自分の胸を隠すエリス。

それに伴って「けだもの」と蔑む声が女子から多数寄せられる。


『はっはっは!!あの先生はお前が天敵らしいな』


なぜか得意げなクロア。

絶対この後何かさせそうな予感がする。


「先生。この学校には生徒の私闘は認められているはずですが?」


アミリアがエリスに向かって反論する。

デュエルという制度がある以上、当然その権利は全員に認められている。


「そのとーりっ!!!」


どうやってきたのか、窓ガラスを突き破ってメイガスが飛び込んできた。

その場にいた全員が唖然とした顔で、メイガスの着地までの瞬間を眺めていた。


「が、学園長!?」


エリスがはっとして驚きの声をあげる。


「そのとおりだよアミリア・バーンズ。確かにデュエルは認められてるよ、でもそんな小さい舞台よりもっと大きな舞台での勝負といこうじゃないか」


そう言って、エリスの出席簿に挟まっているプリントを引っこ抜いて一枚一枚丁寧に渡し始めた。


「これは私が自作した」


丁寧に配っていたのは、単に自分で作ったものを汚すのが忍なかったからだろう。

ギャグに事欠かない学園長だ。


そして渡されたプリントに書いてあったのは。


「ランク戦?」


ランク戦とは学年対抗で行う剣姫としての実力を図る、学期末に行われるバトルロイヤルのイベントである。

このランク戦の結果が、学年内の位置づけに関わっており、またクラス分けの基準にもなる。


「どうだい?こんな小さな舞台より大きな舞台で敵を倒しながら、この憎っくき剣獅くんをぶちのめしては」


煽るにしてもこの言われ方は不本意である剣獅は半眼でメイガスを睨めつける。

その視線に気づいた上でやてるらしい、さきほどから横目で確認している。

どうやら、剣獅のやる気もだそうと考えているらしい。


「わかりました。まぁこれではっきりするでしょう、どちらが上か」


アミリアはしぶしぶといった様子で槍を仕舞った。

奏も同様である。


「さ、さぁ皆さんこれから校内を色々と案内しますよ」


新入生恒例の学校案内である。

敷地は広いので、案内にもそこそこに時間がかかる。


「樟葉君は別の先生についてもらいますね」


「えっ?俺は違うんですか」


「だって君は男ですから、他のみんなとは違うんですよ」


男だけが使うスペースも存在するということだろう。

その逆もしかりで。


「じゃあ俺の案内は?」


「私だ」


教室の入口から入ってきたのは、エリスとはまた違った感じに固そうなイメージをもった黒縁メガネに長い黒髪の女教師だった。

ここで絶対キャラ被りとか言ってはいけない。


「キャラ被り」


女子からは笑いが起こったが、言ったあと顔面にコークスクリューをお見舞いされたので、笑いは瞬時に冷めた。

うかつに人が気にしていることを言わないようにしようと、剣獅はまた一個学んだ。


「私が副担任を務めるスレイ・イシスだ。専門は紋章術、さきほどのような発言であればあれぐらいで済ませてやるから、どんどんと言ってくるといい」


やはり担任とのキャラ被りを気にしているようだ。

というか、あれを見せられてわざわざ火に飛び込むような真似をするやつは誰もいない。


「何を伸びている?さっさと行くぞ樟葉剣獅」


顔面を抑えてもんどり打っている剣獅の襟首を掴んで、引きずりながら連れて行くそのさまから、少女たちは理解した。

あの人Sだ。





「先生歩けますから離してくれませんか?」


「そうか」


引きずられていた途中でいきなり手を離されたので、床に後頭部を強打する羽目になる。


「なんだまだ歩けないじゃないか」


「あんたのせいだ、あんたのっ!!」


さすがにこれを何回もやられると、いつか記憶を失いそうなので気合で立ち上がる。


「なんだちゃんと立てるじゃないか」


「さっきからそう言ってるんですがっ!?」


この副担任は話を聞く気があるのかないのか微妙なところであった。

さすがはS認定を受けただけはある。


「今回案内するのは購買と、食堂と演習場と君の寮だ」


もっとがっつりやるのかと思ったが、別にそうでもなかったらしい。

もっとも、時間の関係もあるかもしれないが。


「保健室は案内しないんですか?」


「案内するとサボる生徒がいるから私はしない」


生徒のことをよくわかっているつもりだろうが、後々わからなくて困るとかそういうことは一切考えていないのだろうか。


「まずは食堂。君は寮に生活費がおいてあるからそれで好きなものを食べるといい。たまに私が給食係をしているからそのときは遠慮なく大盛りを頼むといい。

ちなみに、購買は隣接しているから」


大盛り=溢れるぐらいのなにかだろう。

購買をチョイスしたのも単にめんどくさかっただけだろう。


「次に演習場、ここでランク戦やらなんやらをやるからよく覚えておくように」


アバウトすぎて伝わらないのが悲しすぎる。

この人の残念な説明力はそうにかならないのかと、話し半分にそう思っていた。


「最後は寮かな、

寮はあれだ」


スレイが指さした先には、見覚えのある形の家が立っていた。

どこかで見たことがある、そうあれは。


「俺の家じゃねえかっ!!」


地球にある剣獅の家そのものだった。
















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