Mizugi and Girls
「海?」
それは朝食時に突然沙織が言い出したことだった。
全員揃って海に行かないかという提案だった。
正直海は嫌いではないが、入るのは遠慮したいところだ。海に入るとちゃんと処理しないと義手義足が全金属のため錆びてしまうのだ。
過去に水泳の授業など塩素をまともに浴びて全体が錆びたこともある。
剣獅はあまり気乗りはしなかった。
だが、この三人の行きたそうな眩しい顔を見たら間違ってもNOとは言えなかった。
「おふくろなんで海なんだ?」
夏だからというのはわかるのだが、車もない沙織が言い出すのは変だと思ったのだ。
基本的に海外にいる沙織はタクシーを利用するため自家用車を持っていない。
交通手段もちゃんと考えてあって言ったのだろうが。
「だって...」
沙織は剣獅の耳に耳打ちするように自分の顔を寄せる。
できるだけ三人には聞こえない声でこう言った。
「だってこんなに美少女がいるのに水着のひとつも拝まないのは男として勿体ないでしょ?」
「あんたは息子をなんだと思ってるんだ」
剣獅は呆れながら言う。
今の沙織からはメイガスと同じ匂いがした。剣獅と周りの関係を楽しんでいるやつの匂いだ。
何はともあれ、行かないと後で五月蝿そうなので結局は行くことになる。
そのためにはまずアレを買わないといけないわけで。
「剣くん水着選んであげなさい」
「待て待てなんで俺が...」
と、抗議しかけたそのとき両脇をガッと掴まれてそのまま連れて行かれてしまった。
有無も言わさぬ早業である。
「どうだ剣獅」
絢香が早々に決めて剣獅にポージングを見せつけてくる。
元からスタイルのいい絢香がスタンダードなビキニでポーズを取ると、煽情的で艶かしい肢体から大人の品というのが否応なくさらけ出される。
というわけで、今剣獅たちは家から三駅ほど電車を乗り継いだ先にあるデパートの水着売り場にきている。
デパートといってもかなり大規模なもので、元から店舗数が多いのにさらに夏場ということで水着フェアなるものをやっている。
来て早々に、三人揃って水着の選定を初めて絢香が一番乗りで剣獅に見せつけてくるのだが、気乗りしないのに連れてこられてどうだと聞かれても似合ってるという流し文句しかでてこない。
「剣獅さん私のをご覧ください」
バっと試着室のカーテンを開けてアミリアがその水着姿を披露する。
その姿を見て剣獅は言葉を失った。それで恥ずかしくないのかというほどに露出が多いというか
布の面積が小さい折り紙程度しかないものすごい際どい水着をチョイスしてきた。
ほんの少し顔が赤いことから察するにアミリアも少々の恥じらいはあるようだが、恥ずかしがるぐらいならなぜ着たのだろう。
「ど、どうですか剣獅さん」
「今すぐ代えてこい」
アミリア決死の特攻作戦は剣獅の一言で瓦解した。
アミリアは泣く泣くほかの水着を選ぶために着替え始めた。
「フッ...勝った」
なぜか絢香は勝利宣言。
なんの勝負だというべきなのか迷ったが、個人で何かの勝負をしているのだろう無視するのが一番だ。
そういえばエレンがでてこないのでエレンの入っている個室に向かって呼んでみる。
が、返事もない。ただしくは返事はあるがかなり小さい。
そして顔だけ出てくる。
「どうした?」
「剣獅...ちょっと恥ずかしいていうかかなり恥ずかしい」
そんなことを言われるとどんな際どい水着なのか変な意味じゃなくすごく気になる。
ここで止めるべきだろうかどうかひどく迷ったが、まだ際どいと決まったわけではない。
「は、恥ずかしいなら無理しないでいいぞ」
なぜか剣獅のほうが恥ずかしくなってくる。
「大丈夫。い、いくよ」
「お、おう」
どんどん心臓の鼓動が早くなって止まらない。心臓の音が聞こえてくるようだった。
そしてついにそのカーテンをバっと開いた。
出てきたエレンは水着の布面積は普通で、特に際どくはないだが、致命的なことがひとつあった。
布が透けていたのだ。エレンの見えてはいけない部分が見え隠れしている。
後ろを見ると【透け水着今年流行間違いなし。透けた水着で男共を誘惑しろ。特価4899円】とものすごい触れ込みの札がかかっていた。
「ここの店はなんてもん売ってんだ!」
剣獅は悲鳴をあげた。
まさかこんな水着が後ろにあったとは完全に盲点というか眼中にも入れていなかった。
「ど、どう...?あんまり恥ずかしいから見ないで」
「エレン今すぐ着替えろ。それは普通に危ない」
これはさすがに必死になって止めた。
意図していなかったとはいえ、エレンのが一番ヤバイ水着だった。
「剣獅さんこっちはどうですか?」
アミリアは着替えてきたようだが、着ているのはまたも際どいいわゆる紐水着と言われるものだ。
隠れている部分などもはや無きに等しい。
「お前わざとやってるだろ」
「バレましたか?」
「今すぐに着替えて来い」
二度目のダメだしである。
次に同じことしたらアミリアには鉄拳制裁の苦痛を与えてやろうと心に誓った。
この数日でブロッコリーが苦手なことはわかっている。
「剣獅。今度は大丈夫」
今度は自分から出てきた。
出てきたエレンは赤いパレオを着ていた。清純な感じでこれはこれで絢香とは違った良さを感じる。
「似合ってると思うぞ」
「ありがと...」
そういうエレンの顔は真っ赤だったが今度は嬉しそうだった。
残るは問題児アミリアである。
「アミリア終わったか?」
「ええ今回は自信がありますわ」
三度目の正直とばかりにカーテンを勢いよく開けてアミリアが飛び出してくる。
そして着けていた水着は大胆にもV字に胸元が開いた際どいといえば際どいのだが、有りといえば有りの判定の微妙なところな水着だった。
「どうですか?」
アミリアは胸を強調するポーズをしたことで、大きな双丘が揺れる弾む。
もちろんこれもわざとやっているのだろう。
どうせならばこのまま痛い目に逢えばいいと剣獅はOKを出す。
どうもそれが嬉しかったようで、水着のままはしゃぎ始める。
会計も済んでいないのに破いてしまいそうで剣獅は見ていられなかった。
「剣獅。私も選んできたぞ」
いつの間にかクロアまで選んできていたらしい。いつもの服装のままなので、着替えずに持ってきたのだろう。
どれだろうとクロアのほうを向くと、手に持っていたのは伝説の旧スクだった。
なぜこんなものが置いてあったかはさておき、これを着たクロアは正直破壊力は抜群だろう。
そういうケのある男なら失神してもおかしくはない。
「ど、どうだ?」
「いいと思うぞ」
ウチの女たちはどうしてこうなのだろうと、剣獅はため息がもれるばかりだった。
ちなみに村正もクロアと同じチョイスだった。




