表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/108

四十三話

五年になり、沙織たちは卒業。同時に結婚を決めていた二人は結婚するわけなのだが、なまじアーサーが王であるため当時の王(アーサーの父にあたる先代の王)はえらく反対していた。

しかしそこで諦めておとなしくしているような二人ではない。王族でありながら駆け落ち紛いに地球へと逃げ込んだ。

当然王も駆け落ちした息子のために地球まで兵を動かすわけにもいかず、必然的に二人の結婚を認めることになってしまった。


その後二人は、国会議事堂の警備、議員の警護などの仕事を中心として生計を立て、決して少なくない給料の中夫婦共働きで充実した生活を送っていた。

仕事はそれなりにハードだったが、その分休日に二人で過ごす時間がえらく愛おしく思えた。


そんな楽しい生活のなかに、五年後さらに楽しいものが加わることになる。

それは剣獅の誕生だ。

いつか子供がほしいと言っていた二人にとっては願ってもないことだった。


幸せがこれから続くのかと思われたその矢先、それはあまりに唐突に打ち砕かれる。

剣獅が生まれてから二年後、東京都内で起きた連続無差別殺人事件。その犯人としてあがった女はなんと剣姫だった。

当時、警備ではなく警視庁等からの要請もあり刑事事件に参加することになっていたアーサーは、その事件の解決のため、捜査に乗り出した。


すると、案外犯人は簡単に見つかった。というよりは自分からアーサーの前に姿を現した。


「こんにちは可愛らしい殺人鬼」


「こんにちは素敵な邪魔者」


まずは軽い挨拶。その時点からすでに結界でも張るように殺気が張り巡らされていた。

精神の弱いものなら、近づいただけで吐き気を催し心臓を押さえて気絶するだろう。


「お前は何者だ?」


「あなたこそ何者かしら?剣を使う男なんて聞いたことがない」


この時点で相手が剣姫の話をしているのがわかる。ついでに言うと、狙いはアーサーの気を逸らして逃げるつもりであるのだろう。先程からチラチラと時計を確認する仕草が見える。


「俺はアーサー。悪いがさっさと終わらせてもらう今日は俺の子供(ガキ)の誕生日なんでな」


「楽しくなりそう」


女は取り出した剣の鋒を舌でなぞる。

そしてアーサーの二刀と刃を交えた。

その戦いはすぐに決着がつくかと思われたが、実力は互角。戦いは丸一日続いた。

結果は相討ち。女は死んだか立ち去ったかどちらかだったが、刺し分けたせいでアーサーは重症。

そのまま病院に搬送されたが、あといくつもない命となる。


病院に運ばれたと聞くと、沙織はすぐさま走って駆けつけた。

もちろん剣獅もいっしょだ。


「アーサーなんで...」


「悪い..ちょっとヘマやった。気にすんなすぐ治る」


呼吸器をつけて笑っていても何の説得力もなく、逆に心配にさせるだけだ。それにすぐ治るというのが嘘だというのも沙織には見抜けていた。だが敢えてそこは追求しない。


「それよりよ沙織。剣獅に誕生日のプレゼント渡してねえよな...」


いまさらなにを言い出すのかと、沙織はかなり戸惑った様子でアーサーの顔を覗く。


「俺の剣。剣獅にくれてやる...」


「あなた何言ってるかわかってるの!?」


剣姫と剣は一心同体それは剣騎であっても変わることのない絶対のルールである。もし仮に壊れたりアーサーのやろうとしているように譲渡したりすれば当然所持者は死ぬ。

アーサーも自分の命が残り少ないことをわかってこんなことをいっているのだ。しかし、沙織の言いたいことは他にもあった。

剣獅に剣を渡すということは、剣獅を自分たちの死と隣り合わせの危険な世界へと引きずりこむということなのだ。


「わかってる全部わかってる。いずれ剣獅は俺たちのことに疑問を持つようになるし知ろうともするはずだ...だからこそ道しるべくらいは残してやりてぇ...沙織。もし将来剣獅が俺たちのことを聞いてきたらお前が話してやってくれ、俺の記憶も全部お前に 渡す」


「だったらその役目は私たちにも手伝わせてもらいましょうか」


不意に聞こえたその声は、二人には聞き覚えのある声だった。

しかもその声ひとつではない。他にも三人アーサーが倒れたと聞き、いつもの四人が集まったのだ。


「久しぶり姉さん」


「どうして...」


「水臭いよ。アーサーの頼みだからきちゃった」


アーサーをみるとまるでわかっていたような顔でいる。

アーサーはすべてを最初からわかっていて、ここに四人を呼んだのだ。


「悪いなお前ら...始めてくれるか」


「ちょっと待ちなさい。一体なにをする気よ」


「私たち三人と引換に剣獅くんにエクスカリバーを封印する代償封印」


代償封印。確かに在学中に耳にしたことはあるし、実際にその文献も読んだことがある。剣姫三人の命を生贄として行う封印式のことである。

当然それは人の命の重さを考えるという意味で禁忌となっているが、それは使うことに関してはまったく法で定められてはいない。


「ちょっとそれでいいの?あなたたちにだって娘がいるんでしょう!」


「一度は愛した男のためにこの命捧げましょう」


「多分うちの娘は剣獅くんが責任取ってくれそうだから...ね」


「俺はただの付き添いだからな」


シリウスだけは離れた場所にいる。

本来はそうしているのが普通なのだろう。


「ありがとう姉さん心配してくれて。でも決めたことだからやるよ...じゃあね。代償封印」


その日、病室に剣を抜かれたアーサーと、封印のために命を落とした三人の剣姫が死んだ。









「と、こんな感じの話でよかった?」


「あ、ああ…」


剣獅にはどう反応していいかわからなかった。

シリウスの口振りからすれば、剣獅が三人の命を使ったように聞こえるが、実際のニュアンスはアーサーが剣獅に封印したのが正しかった。

あまりに食い違う話にどれを信じていいのかわからなくなっているのだ。


「ごめんね剣くん。母さんが悪かったわあのときやっぱりアーサーを止めるべきだったわ…」


と泣きながら今の話の意味を全否定。

託した側も浮かばれないというものだ。


「でもね剣くん。アーサーは何かを知っててその上で息子のあんたにそれを託したの」


「親父が俺に?」


「ぶっちゃけ私はアーサーの形見なわけだ」


と、いつものように何の前触れもなく現れるクロア。沙織が元剣姫だとわかっているので、隠す必要はないのだが、それでも出るときは一言言って欲しいのもいつものことだ。


「あら久しぶりね白ちゃん」


「あーっ!!貴様はアーサー泥棒の沙織か!」


アーサー泥棒という単語が新鮮過ぎて普通に笑えてくる。しかも白ちゃんというネーミングもセンス的にどうなのだろうか。


「黒ちゃんは?」


安●大サーカスにそんな名前の芸人がいたことを思い出して思わず笑いが溢れる。

わざとやっていたのか反応を確認して話を続ける。


「さぁなあいつはまだ寝ているんじゃないのか?」


黒ちゃんとはいつも夢の中に出てくるあの少女のことだ。

そういえばクロアそっくりの顔だった。同時に圧倒的に身長差というよりは成長差のあったのを思い出す。


「寝てるって俺の中にか?」


クロアがコクりと頷く。

全員の視線が剣獅に向けられるのだが、そんなに見つめられたところでホイホイ出せる訳がない。


「何も出ないぞ」


揃いも揃って「えっ!?」みたいな顔するなよ。なんか能無しみたいで視線が凄く痛いんだよ。

剣獅は滑った芸人のような間の悪さを味わった。


「そういえば女の子たちは泊まり?絢香ちゃんは家知ってるから送ってあげるけど」


さすが顔見知り。ここにいるメンバーの住所は沙織に筒抜けというわけだ。


「いえ。今日は泊まりにきたので」


「どれくらい?二週間?1ヶ月?」


いくらなんでも泊まり過ぎだろうと、剣獅が突っ込んでやろうと口を開くその瞬間に絢香からさらに驚きの言葉が出る。


「1ヶ月と言わず、夏休みの間泊めていただきたい」


「一日くらい自分の家帰れ」


キレ気味に言う。

夏休みの間はもはや泊まるではなく、居候に同じことだ。

さらにエレンとアミリアまでおかしなことを口走る。


「じゃあ私は一生でいいかな」


「お前住み着くつもりか。あと「じゃあ」でどこ妥協した」


「私は別に邸宅くらい一つや二つあっても構いません」


「お前に至っては別荘か何かと勘違いしてるだろ」


二人のおかしな発言にも正確に突っ込みを入れる。

ツッコミでスカウトが来ても問題ないツッコミスキルだ。


「ちょっと剣くん。皆の部屋用意してきて」


唐突に頼まれて「何故俺が!?」と抗議するのだが、いいからと押しきられて渋々部屋の用意のためリビングを後にする。


「さて、女の子だけになったところでガールズトークしようか』


おばさんと現役JCでは合う話もないと思われるのだが、沙織が良からぬことを質問しそうな予感が三人にはなんとなくでわかっていた。


「皆って剣くんのどこが好きになったの?」


三人とも顔を真っ赤にしたり青くしたり見ているだけで愉快な反応をする。

わかっていてやっているのが妙にいやらしい。


「そ、それは…」


「言及されると…」


「答えにくいですわね…」


親の前で堂々と誘惑する度胸はあるくせに、いざそこをつつかれると弱いのだ。


「おふくろ終わったぞ~...みんななんで顔赤いんだ?」


とそこへ思いの外早く剣獅が戻ってくる。

戻ってくるなり不自然に顔が真っ赤になっているのがどうにも理解し難かった剣獅は頭にはてなを浮かべる。


「なんでもないから。剣くんそれより夕飯よろしく」


「あれぇ!?帰ってくるなり俺の扱いが執事かなにかになっているのはなんでだろうか!?」


「久しぶりに剣くんの料理食べたいの」


そう言われてしぶしぶ台所に立つ。

一番大変な目にあっているのは剣獅の方かもしれなかった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ