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四十話

二十二年前...。


剣獅が生まれるおよそ二十二年前、その年のブレイドヴァルキュリア学園、あるいはクレンシア王国全土がその一大ニュースに疑問と驚きに騒動を巻き起こした。

その騒動というのが男子禁制である学園に男が入学するというのだ。


しかもその男は王国の第二王子であるアーサー・クレンシアというではないか。

当然国から非難の声が相次いだが、それでも入学を許したのは彼が継承権が二番目とはいえ王子であるからだろう。

アーサーには上にひとり兄がいた。兄には剣姫の力は現れず、アーサーにだけその力が現れた。

当時の王室ではそのことで内分し、アーサーはある意味忌み子として扱われ疎まれる存在となった。


だが、アーサーはとにかくモテた。その淡麗な容姿は女を虜にし、口々に愛の言葉を口にするほどに心酔するほどだった。

そして後に妻になる沙織も後にそうなるひとりだった。


(男?なんでここにいるんだろ。ここ女子校なのに)


沙織のアーサーに対する第一印象はまず変な人だった。

周りに女が近づいて挨拶しても素知らぬ顔で花や動物たちを愛でるという奔放ぶり。

何よりこれから入学式だというのに、地面に寝転がり普通に動物たちと寝ているではないか。


明らかに変な人間だった。

だが、沙織にはそんなアーサーに少し興味が出てきて、寝ているアーサーに近づいた。


「あなたこれから入学式でしょう?そんなところで寝ていていいの」


なかなか高圧的に話しかけた。それこそ責任感の強いクラス委員が生徒を注意するような物言いだった。

仮にも王室の王子として育てられたアーサーは基本的に怒られたことがない。

せいぜい女中に困ったように言われるだけで親からもなにかをして怒られたことが一切ない。


だからアーサーは沙織を見て少々驚いたような顔をして、ふんっとまた偉そうな顔をして目を閉じて寝ようとする。

こうなると沙織もだんだんと意地になってくる。


「あなたわかってるの?今日は人生でたった一回の入学式なのよ?」


「そうだな。一回やっちまえばただの過去の腐った思い出の日だ」


アーサーはふてくされたように言う。


「それでいいの?あとから後悔しないの?」


「うるせえな。どっかいけよ女」


段々アーサーのほうもイライラしているのが口調からわかる。

ここからは売り言葉に買い言葉だ。


「私の名前は樟葉沙織よ。いくらあなたがサル並の知能でもそれぐらい覚えられるでしょう」


「んだとっ!!。誰がサル並だこら」


もはや言葉に王子の風格もなにもあったものではない。まるで子供の喧嘩である。


「あら野蛮。紳士がそんな言葉を使ってもいいのかしら」


「俺は紳士じゃねえ。ただの男だ」


「あら?ただのサルでしょう」


「てめえ殺されてぇのかっ!!」


アーサーはその手に二本の聖剣エクスカリバーを握る。

白と黒で対照的な色をした刀身と、煌びやかな装飾の目立つ美しい聖剣だった。

本来二本はありえないのだが、このアーサーにだけはそれが可能であった。

まさに異例中の異例のイレギュラーだった。


だが。沙織はそんなイレギュラーを剣も出さずに軽くひねってみせた。

一瞬のうちに、立ち上がったアーサーの体は地面にまた倒されていた。

なにが起こったのかわからず、アーサーは目を慟哭させる。


「誰を殺すって?甘い甘い。私に悔しかったら私に勝ってみることね」


アーサーは歯噛みした。今まで誰にも負けたことはなかったのにまさか初日で、しかも異界人の女に負けるとは思いもしなかった。

それは屈辱以外の何物でもない感情だった。生まれて初めて味わった感覚のやり場をどこにやっていいかもわからなかった。そしてそれは然るべき対象である沙織へと向けられることとなる。


「樟葉沙織お前にはいつかリベンジする。俺の名をよく覚えとけ」


「はいはいわかったわよアンサー」


「アーサーだっ!!」


そう。沙織とアーサーの出会いはとにかく最低だった。






それからアーサーは沙織にリベンジするため、ひたすらに努力し研鑽し己の技を磨き上げた。

当然試験であっても負けるまいと勉学も同じだった。それはすべて沙織を見返すというたったひとつの、他人から聞けばなんだくだらないと吐き捨てられそうな目的のためだが、アーサーにとっては人生初の敗北を味わった相手なのだ、そう簡単には諦められない。


沙織はアーサーのことなど気にもしていないかのように、それでいて突き放すように常にトップを取り続けた。勉強も実技もすべてにおいて文句のつけようのないパーフェクトな人生だった。

決して慢心も、余裕も見せない。いつでも誰かの模範となり、いつしか彼女を慕う者まで現れた。


アーサーはそれでも必死になって沙織に追いつこう追い抜こうとした。

絶対に自分を認めさせると誓って。


その努力の成果をみせる場を一年の最後であるランク戦に懸けた。


「樟葉沙織。お前には絶対に負けん」


「ハイハイ言ってなさいよ。アッラー」


「アーサーだっ!!」


一年経とうが、沙織のわざと臭い言い間違いは一行に直らない。絶対わざとだろうが、それを改めさせるのもアーサーの目的のひとつであった。


そして願うべくしてそれは実現する。

走り回る森の中、残りの人数ももうそうは多くない。

せいぜい三十人くらいだろうと、沙織は一気に残りを叩くために動いた。


すると、走っていた茂みから飛び出してきたアーサーの飛び蹴りが眼前に飛び込んでくる。

沙織は苦もなくヒョイっと避けると、アーサーに向き直る。


「見つけたぞ樟葉沙織」


「めんどくさいのきた...」


「さぁ俺と戦え」


アーサーは二本の剣を顕現させる。

やる気は十分に満ちている。これまで研鑽し培ってきたものを披露したくて仕方ないまるで子供というかまるっきり子供だった。

王子といってもぬくぬくと継承権は二位だからと甘やかされて育ったアーサーはやはり精神年齢が子供なのだ。


その精神年齢に合わせて。沙織も子供の相手をしているような気分になる。

正直な話はやってられない。


「なんで私にそんなこだわるのかな?」


「お前は俺に初めて土をつけた無礼者だから。俺が自ら処罰してやるのだ」


ようはただ仕返しがしたかっただけである。

なんとも情けない理由に、沙織は呆れ顔で自分の剣であるグラディウスを顕現させる。


「あなたがなにをしようが関係ない。私は先へ進む」


閃いたグラディウスの剣閃がアーサーの頬を掠めて、後ろの森の木々をなぎ倒す。

その余波で、近くにいた剣姫たちも次々と消し飛ばされる。

アーサーも即座に反応して、沙織に向かって剣を振り抜く。

二対一の剣がぶつかる音が響く。


沙織は恐ろしく強かった。

二本で攻撃してもすべて見切って反応している。

今まで剣を使った勝負は一度もしていなかったが、沙織は単純な剣の力は素手の比ではない。


「くっそおおおおおおおおっ!!!」


冷静さを失って叫び声とともにアーサーはめちゃくちゃになりながらただ剣を振った。

だが、そこが勝負の分かれ目。

元から見切っていた沙織に対してむちゃくちゃに振ったところで勝てるわけはないし、躱されて反撃されるのが見えていた。

勝負有り。沙織の勝ちである。


「強くなったと思うけどまだまだ」


アーサーは二度の屈辱を味わった。

一度も相手に剣を当てることなく、たったの一撃の元に倒されたしかも女に。アーサーは怒りで血の涙を流した。

沙織にではなく、自分に怒りを滾らせた。


それがアーサーと沙織の何千にもおよぶ勝負の第一ページである。
















これよく見たら親子の馴れ初めを見ているだけではないんか。

まぁとりあえずこのまま進めます

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