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三十四話

クレンシア王国王城内。現在真夜中の三時だというのにこの日ばかりは少々どころではなくパニックにも引けを取らないレベルで騒がしかった。

その理由というのが王国郊外に出現した超級危険種のドラゴン弩級(ドレッドノート)の存在が確認されたからである。


ドラゴンには三大最強種がいるとされており、竜王(バハムート)龍騎(ドラグオン)そして問題の弩級(ドレッドノート)である。

この三種は基本的には人里に姿を現すことがない。火山などの火口に生息し灼熱のマグマに身をさらして自らの鱗を鍛えているとされている。

だが、一度人里に現れればその被害は核兵器などでは到底足元にも及ばないようなものが出る。


そんなやってきた厄災に現国王であるクレンシア十四世は頭を抱えていた。

もはや王城にいる剣姫たちだけでは相手にもならない。過去に現れたときには姫夜叉と言われる剣姫一人で倒したという前例もあるが、その剣姫は現在行方不明。

世界五指に数えられるローレンも行方不明という報告が出たばかりで、ブレイドヴァルキュリアのメイガスは確実に参加しないだろう。能力が能力だけに無理かもしれないが。

となると、ものぐさな性格で知られる残りの五指のメンバーの暴帝と聖騎士に頼るほかないが、正直期待値は薄い。

要は即戦力で前線で戦うことのできる人間が一人としていないのだ。


「神よ慈悲をどうか我ら人に」


国王はただ国の行く末を神に祈って見守るしかなかった。






弩級出現の報告は当然ながらブレイドヴァルキュリア学園にも届く。

それと同時にけたたましいサイレンが鳴り響き、非常事態宣言が発令された。

真夜中の三時から一時間後であるため、現在は四時。

まだ朝日の昇らないうち剣姫たちはたたき起こされ、すぐに戦闘の用意をさせられ職員の指示のもと多人数移動用ポータルの前に集合させられる。


たまたまいっしょに寝ていた剣獅、絢香、アミリア、エレンの四人も同じようにポータルの場所まで走る。


「なんの騒ぎだこいつは」


弩級(ドレッドノート)だ」


情報の広まりは早い。おそらく誰かが話していたのを図らずも立ち聞きしたのだろう。

超級危険種の出現に皆一様に戸惑いながらも今最善と思われる指示に従うしかない。


「ふわぁ~眠い」


エレンだけは呑気に気の抜けるようなあくびをする。元からマイペースといえばそうだが緊張感とかそういうのはもちあわせてないのかと疑いたくなる。


「エレンもうちょい寝とくか」


「じゃあよろしく」


剣獅の言葉に甘えて意図せずエレンが剣獅におぶられる形になる。いかにも場違いだが、絢香とアミリアがじーっと羨ましそうな視線をエレンに向けていた。






「これより弩級(ドレッドノート)の出現に伴い、この学園を離れて安全な場所へと避難する」


ただの噂話でしかなかった弩級(ドレッドノート)の出現の知らせに全員がざわざわとし始める。

怯えて震えるものや気を失って倒れるものまで現れ始めた。

被害以上にその凶暴性は人々を恐怖に陥れるに十分な力を持っていた。


「こちらに弩級がやってこないとも限らない。今すぐに...」


と、メイガスは話している途中だというのに遮るように、教師がメイガスに耳打ちでなにかを報告しているようだ。

剣獅たちからでは話し声は聞き取れないが、メイガスの表情はなんとなくわかるのでかなりやばい情報ということはわかる。

たとえば...。


弩級(ドレッドノート)のこちらへの進行を確認した。到着は一時間程だそうだ今すぐに全員ポータルで移動せよ」


と、大声は張り上げ後ろのポータルを指差す。このポータルは王国から三つくらい国を跨いだ場所に作ってある緊急の避難所に通ずるもので、ポータルに足を踏み入れた瞬間そこまで自動で送られるようになっている。

生徒たちは弩級の接近という報告に、とうとう今まで保っていた冷静さとかそういったものをすべてかなぐり捨てて我先にと走り出した。


ポータルの周りにはもはや肉の壁ができており、押しかけた生徒でポータルの周りは大混乱。全員が全員逃げようとするので統制もとれておらず、後ろはつっかえたままである。


皆が逃げようとする中、剣獅はメイガスの元へと走った。


「先生!!」


「剣獅くん早く逃げるんだ。ここはもうすぐ戦場になる」


「いや先生どうせ狙いは俺なんだろ。だったら俺も戦う」


今までの傾向からしてそうだ。なにが事件があるたびに狙われるのは常に剣獅だった。

剣獅ももうわかっていた自分が得体の知れないなにかであることを。

だからこそそのツケを払おうというのだ自分の命で。


「なおさら命を捨てるような真似はさせられないねぇ」


「頼むよ先生。嫌なんだ俺のせいでなにかを失うのは」


「先生私からもお願いします」


あとから来た絢香も頭を下げる。あの問題児とされていた絢香が頭を下げるのはそうはないことだった。

さらに多額の寄付をされているバーンズ家の次期当主の位置にいるアミリアにまで頭を下げられては正直断るのは難しかった。


「君はたとえ死んでもいいというのか」


「俺にはこいつら仲間がいるから大丈夫だ」


(アーサー...あんたの息子だねえ)


メイガスは呆れたようにため息をつく。


「わかった。ただし危なかったら強制的に離脱させる」


しぶしぶといった感じに承諾してくれた。

本当はメイガスも剣獅に期待していないわけではないのだ。


「じゃあ私も参加しようかな。生徒会長だし」


と、綺麗な金髪をなびかせて現れたのは現生徒会長のキルミー・ルクスだ。

しようかなでこられても正直どういう反応をしていいか困るのだが、増援は非常に嬉しい。


「生徒会長無理をしなくてもいいですからどうぞ逃げてください」


と絢香が皮肉交じりにキルミーに対抗する。仲が悪いというかウマが合わないのだろう。


「何かな十夜芽ちゃん。安心してよ剣獅くん横取りしようなんて気はないからだって最初から私のだし」


と、多分天然ものの豊かな胸の谷間に剣獅の腕を包み込む。

すると、絢香は村正を取り出しアミリアは槍を構え、寝ていたはずのエレンまでもが起きて頭上にシルバーファングを振りかざす。

そしてなぜか狙われているのは剣獅。


「剣獅。今すぐ離れなければ貴様を殺す」


「もしもし!?それ完全に俺が悪い提で喋っているよな!!」


「剣獅さんはゆくゆくは男の跡取りのいなかったバーンズ家の当主となるはず...」


「お前はなんの妄想を膨らませている!!?」


「背中から監視していたのに、不覚。こうなったら剣獅といっしょに私も死ぬしかない」


「なんだその無理心中怖すぎるわ!!」


こうしてギャーギャーと騒ぎながらも弩級(ドレッドノート)と戦う前の気休めにはなった。

文字通り気だけなのだが、剣獅にいたっては休まる気もない。





その頃、クレンシア王国郊外よりやや学園よりの森付近では。

黒い戦艦のようなフォルムのドラゴンともう一匹、同じように夜の帳に溶け込むような鮮やかな黒い龍驎が特徴的な典型的ドラゴンのフォルムをしたドラゴンがしのぎを削っていた。

この戦艦のようなフォルムが問題とされているドラゴンの弩級(ドレッドノート)、そしてもう一匹の黒い龍こそが竜の王とまで言われる最強種竜王(バハムート)である。


二匹が鉢合わせることなどほぼありえない。弩級(ドレッドノート)は火山に住み着き、竜王(バハムート)は凍てつくツンドラの大地に身を置く龍である。

この対局の地に住み着く者同士が出会うことがあるとすればたったひとつ。何者かが鉢合わせるしかない。

その証拠に、竜王(バハムート)の上に足を組んで座るものがいる。

二匹は激しく暴れまわっているというのにまったくふらつくことも振り落とされることもなく、平然と座っている。


「いいぜファフニール。押し潰せ」


上に乗る者の命令を実行するように竜王(バハムート)弩級(ドレッドノート)に対して爪の連撃、締めに口からの膨大な火炎を撒き散らす。

だが、火山で鍛えられた龍燐にドラゴンの龍炎も大した威力にはならない。

弩級(ドレッドノート)はいい加減にしろといわんばかりに咆哮を上げ、竜王(バハムート)をひるませる。

その瞬間、弩級(ドレッドノート)の背中にあるコブから火山の噴火のように灼熱のマグマが吹き出し、それが竜王の体に当たって燃え上がる。


凍土出身の竜王の体は熱さにはなれておらず、死には至らないものの与えられるダメージは大きい。

これがチャンスと弩級は大きな翼を広げ、その場を離れる。

そして目的地である学園のほうへと向かった。








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