表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/108

二十八話

ヴァルキュリア学園生徒会、通称剣姫会。

そこは学園内の統制と管理を任されており、学園長に続く権力をもつ生徒自治組織である。

仕事内容はといえばデュエルの承認と執行や、生徒に対する罰則事項の取り決めなど多岐にわたる。

そんな忙しい生徒会はある一件に頭を悩ませていた。


一か月前の剣獅と絢香のデュエルの件についてだ。


「まさかああなろうとはな」


「樟葉はまだ一年だったはずだが、あの十夜芽に勝つか」


「早急に手を打たねば。学園内の上下関係に綻びができる」


「仕方ない。では樟葉剣獅には消えてもらうことにしよう」


こんな物騒な相談をしているにも関わらず、それを止める者はここには誰もいない。

なぜなら、現在生徒会長不在のなかで行われた密会なのだから。

よって、これは剣姫会の四人だけの行動となる。


「明日から二人は登校してくるのだったな」


「では」


「決行は明日だな」


四人の話し声はそこでパタリと消えた。






「剣獅!昼だいくぞ」


と、午前の授業の終わりと同時に絢香が教室乱入。

元々自分の授業には参加しなかったので、おそらくは終わるまで廊下で待っていたのだろう。

その横では村正が絢香の代わりに低頭して謝り倒している。

剣獅はそんな村正に頑張れと心のなかで応援した。


「ちょっと待てって...ぐえっ!!」


襟首を掴まれて椅子から引き摺り下ろされた挙句、襟首を持ったまま引きずられる破目になった。

剣獅は夏だからと第一ボタンは外しているが、それでも首は締まる。

剣獅は顔を青ざめさせながらズルズルと廊下を引きずられていく。

と、そこへ救世主が。


「待って先輩。剣獅は今日は私との約束」


エレンが十夜芽の肩を掴んで止める。

こういうときばかりはエレンも熱い。


「邪魔をするか一年。私と剣獅の昼を」


ちゃっかり呼び方が変わっていることに関しては剣獅は何も言わない。仲良くなったならそれでいいかとも思っていたし、そもそも知らない仲でもないからだ。

そして、今エレンに向ける絢香の視線は今にも切り殺しそうなぐらい怖い。そんな人間に引きずられている剣獅の身にもなって欲しいものだ。


「あんまりそういうことされると、私も本気。出てよシルバーファング」


エレンの愛剣の銀剣が顕れる。

その剣は絢香の首筋に突きつけられている。

いつでも殺す準備はできているという威嚇のつもりだろう。


「お待ちなさいな。エレンさんそんなに目くじら立てることありませんわよ」


第三の使徒悠々と降臨。どこか優雅さ漂うアミリアさんの登場である。

なぜこいつは修羅場に油を注ぎにくるのかさっぱりわからない。


「アミリア。あなたも邪魔する気?」


「邪魔なんてとんでもありませんわ。ただ別に食事くらいいいじゃありませんの、最終的に私を選んで頂ければそれで」


そう言ってアミリアはさすがお嬢様育ちの豊満な胸で剣獅の腕を挟む。

剣獅だって一応男なのでこういうことをされるとドキドキはする。


「あ、アミリア!?」


「なんですの剣獅さん。どうです私のものの感想は」


アブナイ子やー!。この子一番返しにくい質問投げてきたでー。

剣獅の答えは二つにひとつ。

「よかった」と答えるか、「う~ん」と茶を濁すかのどちらかだ。

片方は三人を敵に回す可能性もあり、もう片方はうまくいけば円満かもしれない。

剣獅はひどく迷った。どちらにしようか迷った末に、第三の選択肢で逃げた。


「俺ちょっと用事あるからダッシュ」


苦し紛れの言い訳にしかならないが、逃げ出すのは簡単だった。

村正さえいなければ。


「村正!やつを追うぞ」


「わかりました」


剣同士の経絡(パス)を通して互いの居場所を知ることは十分に可能であり、それが近距離に居る相手ならば姿が見えなくとも探すことはできる。

声については、剣を握っているときに剣を通して伝わる仕組みだ。


(やばい...どこに逃げようかな)


結局どこに逃げようと同じことだ。逃げ場の定番トイレもあるのだが、あの遠慮のない十夜芽のことだごく普通に通路のように入ってくるに違いない。

つまり逃げ場などどこにもない。

後ろから迫る三匹の獣と探知機からは逃げることは不可能に近かった。


「クロア助けてーっ!!」


頼れる相棒に助けを求めたが、その相棒はというと。


『眠いから寝かせろ。あと今日は約束のバーベキューだ』


そういえばそんなことを言っていたような気もしたが、今はそんなところではない。ヘタをすると剣獅がバーベキューの具材にされそうだった。


「クロアお願い、なんとかしてくれ」


『次に安眠妨害で一週間口をきいてやらんからな』


一週間は困る。授業で剣を使うというのに剣なしなど笑いものの極みだ。

クロアは寝ぼけながらも、剣になって顕現。


『ほい、経絡(パス)の力を限りなく少なくしてやったから。離れれば見つからんだろう』


『サンキュー』


『次起こしたら本当に斬るからな剣獅』


クロアがまさかこんなことをいうとはかなり機嫌が悪いのが顕著に現れ出ている。

とにかく、捲けるようになったのであればあとは振り切るだけだった。

剣獅は義足に施した改造のひとつのよくわからない機能を使う。

実際使ったことはなく、内容は知らないが昔空を飛べるとか真面目に訳のわからないことを言っていたので、そこはもう運任せに空へと跳躍すると、もはや空を飛んでいるかのごとく高く跳んだ。


(こりゃすげえ...)


初めて使った改造に感動しながら三人から遠ざかっていく。


「見失いました」


「ちっ...しらみつぶしに探すか」


絢香は剣獅が飛んでいったと思しき場所へと向かって走り去った。






現在中庭近くの森の木の下。


「ここなら一安心か...でもこれからどうしよ」


大変なのはこのあと。教室に戻ったタイミングで待ち伏せされていては逃げた意味はまったくない。

剣獅は一番それが怖かった。


「終わるまで昼寝でもするかと思ったんだがな...」


木陰から突き出してきた槍の穂先を右腕で受け止める。

どうやら槍使いは剣獅のてから引き抜こうと力を入れているらしいが、その実動く気配すらない。

剣獅の義手の握力九十の前では人の力はあまりに軽すぎたのだ。


「どこのどちらさんかなっ!」


剣獅は掴んだ右腕を振り回して槍を掴んでいた人間を自分の目の前の地面へと叩きつける。

倒れているのはブロンド髪の少女。制服を着ているからにはここの生徒だろうが、剣獅は恨まれるようなことをした覚えもないので襲われる理由も皆無のはずである。


「あんただれだ」


「死ね」


目の前の槍使いに目がいっていたせいで、上からくる二人への反応が遅れる。

二人はすでに剣獅の頭に剣が届きそうな場所まで肉迫していた。

剣獅は一人の剣を掴んでもうひとりのほうに向かって棒のように振り回した。

空中では避けることもできず、二人まとめて地面へと振り落とされた。


「三人?何人でもいいけどあんたら誰?」


「上級生には敬語だ一年」


「生憎と、木陰で休む下級生を襲うような先輩に持っている尊敬なんて微塵もないから返答はノーだ」


三人はそれぞれ槍と剣を構える。

だが、どうも勝ち誇ったような顔が気になる。

そして、その視線の先が。


試しに、剣獅はその視線の方向に裏拳でも打ってみたところ、乙女の顔にクリーンヒット。四人目の刺客一発KO。

勝ち誇っていた三人の顔も、口を開けてポカンとなにが起こったのかまったく理解していないらしい。


「え?なにごめん適当にやったら当たった。無関係ならすみませんでした見知らぬ人さん」


剣姫会書記ローズ・M・コルビン戦闘不能。


「ローちゃあああああんっ!!お前女の顔に裏拳って鬼っ!!悪魔っ!!鬼畜っ!!」


どうやら仲間だったようだが、そこまで言うなら最初からやめておけばよかったのにと半眼になりながら剣獅は思う。


「面倒だな...要件だけ先に言ったらどうだ」


本当のところは要件だけさっさと言って消えろだが、口に出して言うほど馬鹿じゃない。

状況はちゃんと見極める。


「樟葉剣獅。貴様に三体一のデュエルを申し込む」


「狡いな先輩。俺がひとりって?俺一年だぜ」


「あの十夜芽に勝つぐらいだ。申し分ないと思うが?」


ただの詭弁だが、剣獅は実力を見せてみろという意味として受け止めた。


「わかったわかったどこでやんだ。日を跨ぐのは無しな」


「闘技場で行う」


一か月前に剣獅と絢香の戦ったあの場所であり、死亡回避システムのない真剣勝負となる。


「了解」


「待て」


その場にいた全員が歩き出したタイミングで全員に聞こえる十分なレベルの声が響き渡った。

しかも全員が聞き覚えのある声だった。


「私もそのデュエル参加する」


村正とともに現れた絢香だった。















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ