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二十一話

デュエルの会場に向けて十夜芽はやや急ぎ足で闊歩する。

その横を村正がなにかをいいながらついてまわる。

その表情から察するに、決して応援ではなく苦言や注意をしているといった様子だ。


「絢香様!あれを使うのはお止めください」


「うるさい黙れ。お前は私に従っていればいい」


話をまともに聞く気など毛頭ないように感じる。

だが、それでも村正は諦めずに説得に励む。


「絢香様。あのお方がそんなに憎いですか?この私の切れ味とあなたの力の乗った一撃を受け止めたあの方が」


そのとき十夜芽の眉根がピクっと少しだけ動く。

能面のような顔にもほころびがでた瞬間だった。


(わからない...私はなぜあの男にこんなにも執着している?

取るに足らん一つ下の下級生の雑魚相手になにをムキになっている)


それだけがずっと謎のままだった。なぜ自分はあのときその場の勢いでデュエルを申し込んだのか、確かに学園長にそういう風に仕向けられたということもある。だが、あの場はそれ以外にも収める方法はあったはずだ。なのになぜ自分はデュエルを申し込んだ。


(なぜあの男のことを思うだけで剣が鈍る?ここのところ私の心に乱れが出ているのはなぜだ)


それはほんの些細な乱れ、十夜芽流修行法でいうなら滝がほんの数度斜めに斬れるとかそういう言われなければ気にしないような次元での話だ。

それでもほんの少しの綻びも乱れも十夜芽は許さない。

どのみち今日デュエルで剣獅を倒せばそれで済む。

今度のデュエルは死亡回避システムのない文字通りの真剣勝負、そこで死ねば後はない果てて終わりだ。


そして今十夜芽の手には村正ともうひとつ剣が存在する。

万全の状態だ負ける要因などどこにあるだろうか、あるとすれば自分の奢りだけだがそれもすぐに排除した。もうすべての敗北要因は排除したこれで十夜芽の負ける可能性は微塵ほどがあるかないかというところだ。


だが、村正はそんな主を見てなにか言い知れぬ不安を感じると同時に、不謹慎だとは思いつつ剣獅の勝利を願った。

すべては主のために。





デュエルの舞台となるのは闘技場、別名コロッセオと呼ばれる円形格闘場である。

円形の会場には実に全校生徒が収容されるだけのスペースが用意されており、全方位全角度から試合を観戦できる仕組みとなっている。

この一戦はもはや授業のすべてを中止して行われる一大イベントであり、デュエルのたびに授業が止まるので教員たちは頭を悩ませるのだが、内心楽しみでもあるのだ。


入場開始前からまるでワールドカップの観客のように闘技場のいい席を取ろうと朝から並んでいるものまでいるほどに盛り上がる生徒もいる。

アミリアも剣獅のためにとその領域に踏みいった猛者のなかの一人であった。


「アミリア寝てないの?」


それがはっきりとわかるように目の下には隈ができている。

おそらくは昨日の晩から並んでいたとかそういうことをしていたのだろう。

乙女にとっては睡眠時間は大切だというのに、それを削るのは並大抵の精神力と剣獅に対してすべてを尽くす心がなければできないことだ。


「た、大したことは...」


気を抜くとすぐに寝ている。

謙遜していても大したことはあるのだ。


「それよりお見送りはしてきましたの?」


「うん...」


思い切り頬を張り飛ばしてきたのだが、あれを見送りと言えるのかといえば悩ましいところだ。


「さぁ、私の剣獅さんの実力の底を拝見ですわね」


「わ・た・しの剣獅の実力ね」


デュエルとは関係ないところで別のバトルが起こっていた。

そんなことは関係なく会場が埋め尽くされたころに、学園長が特別席についてデュエルが進行される。


「レディース!アーンド!ジェントルマン...はいないでしょう。お待たせしましたこれより二年生十夜芽絢香と一年樟葉剣獅の公式デュエルを行いたいと思います。ここを取り仕切るのは皆さんお馴染みの我らが生徒会長、五年生ケイミールクスです」


デュエル参加者より派手に突然の煙幕のなかから颯爽と現れたのはブロンド髪の綺麗な少女というよりは女性が現れる。

一切乱れのない服装だが、その大きなバストはどうしても砕けた服装にしてしまう。


「者共ーっ!!血を騒がせろーっ!!」


派手に登場したうえにさらに会場を沸かせる一言。これに合わせて会場のボルテージは最高潮まで高まっていく。これが生徒会長なりのコールアンドレスポンスなのだ。


「じゃあ我々の血をたぎらせるものたちをここに呼ぶぞーっ!!!

まずは去年ミスヴァルキュリアを私から奪っていった超美新星、その斬撃は女でも恋心を刻まれる十夜芽絢香ーっ!!」


これ以上なく出て行きにくい煽りだが、十夜芽は気にもしないといったように悠然と堂々と会場を歩く。

その後ろ村正もついてまわり、会場から可愛いとの黄色い声も聞こえたりする。


「続いてはこの学園唯一の男の剣姫、入学早々から問題を起こすので生徒会と職員室は困っているぞ樟葉剣獅ーっ!!!」


剣獅はなにもしていないのに恥ずかしい思いでいっぱいだった。

あと問題を起こしているのはあくまで巻き込まれただけで、自分から問題になる行動をした覚えはまったくない。

濡れ衣だと叫びたかったが、この歓声のなかでは掻き消えてしまうだろう。


村正に合わせてクロアも人型で剣獅の前を歩く。会場からはこっちも可愛いなどの黄色い声が向けられるのだが、同時に剣獅に殺意のこもった目が向けられる。

その半分は性犯罪者を見る目だ。


「どうした剣獅?もっとしっかりしろ」


そう言われても煽りと殺意の視線がありえなく辛い。

一番前の席にエレンとアミリアが見えたことで少しは落ち着いたが。


「両名誓いを」


「「我々は正々堂々と剣を振るい、剣姫の名に恥じぬ戦いをすることをここに誓う」」


これは大会等で選手宣誓をするようなもので、不正をしたり負けても不平不満恨み言の一切を受け付けない条約文でもある。

これもデュエルの作法のひとつだ。


「意気込みでも聞いてみようかー!!

どうどう十夜芽ちゃん?ミスヴァルキュリアは今回の意気込みは」


意外とこの先輩根に持ってる。

剣獅は半眼で十夜芽に顔先三寸のところまで迫る先輩を眺めながら思った。


「知らん」


こっちの先輩も負けてないな。

ある意味ここも修羅場だった。


「うんうんまぁ気合だけはわかったから良しとしようか。じゃあ樟葉くん、どう?好きな子とかできた」


「なんで俺だけそんな下世話な質問っ!?」


剣獅は悲鳴をあげて抗議する。


「じゃあこの十夜芽ちゃんとかどうかな?スタイルいいし私より美人ときた、もってけ泥棒っ!!」


「あんたちょっと黙っててくれませんマジでっ」


剣獅は直感的にこの先輩は苦手だとわかった。

苦手な先輩は無視して十夜芽へと視線を移す。


「あんたにひとつ言っとくことがある」


「なんだ?遺言なら聞いてやる」


物騒なことをいうものだ。およそ女性の言葉とは思えない。


「俺はあんたにたった一言いいたかっただから言わせてもらう。ありがとうっ!!」


会場全体に響き渡ったその場の雰囲気に合わないおよそこの会場において聞くことがない言葉に、会場がどよめきたつ。


「俺は、あんたがいなけりゃここに立ってすらいねぇっ!!だからずっと言いたかった、死にかけてた俺を救ってくれてありがとう」


剣獅はたった一言、あの十年前の目が覚めた病院のベッドの上で気づけば助けた女の子がいなくて後悔していた言葉を言いたかった。

相手がこれをどう思うのかなんてもうどうでもよかった。自己満足でもいいからただそれだけ言いたかった。


「そうか、お前はそんな腕と足になろうと私に感謝するのか」


「ああ、当たり前だ。俺は生きているだけでもう幸せなんだよ」


「ならば、その幸せを砕くことで私は幸せになれる。村正」


十夜芽はその手に村正を構える。

既に殺気がビリビリと張り詰めるように伝わってくる。


「その考えを俺が消し去ってやる。クロア」


クロアも人型から愛剣エクスカリバーへと姿を変える。そして剣獅も十夜芽に負けないほどの殺気を放つ。

これもあのドラゴンとの死闘の成果だ。


これで、二人が剣を構えて向かい合う形になる。


「それではデュエルスタートォ!!!」


戦いの火蓋は切って落とされた。







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