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十八話

休日、普段なら寮でごろ寝したいところであるが、剣獅は十夜芽との戦いに備えての特訓と称したピクニックに出ていた。

なんでも森のなかに、超危険種の原子生物が現れるというのでそいつを倒して腕をあげようという話だ。


噂によると、その原子生物はトカゲのような姿と蛇のような顔に鰐のような鱗を持ち合わせるという。

近隣の村に被害が出ていて、学園に討伐依頼がきていたところを

剣獅が腕試しにちょうどいいと勝手に引き受けてしまったのである。


剣姫の職業というのも色々あり、護衛から今回のようにモンスター退治、日本のSPのなかに一人だけ女性が混じっていたりするのもそれだ。

しかし、まだまだ剣姫の希少性と相まって就職先が決まらずにいる生徒もいないわけではない。

そんな生徒は自分で企業を立ち上げたりする。


もちろんこれだって立派な依頼なので、報酬も少なからず出る。しかし剣獅の目的はそんなところにあらず、完全に強い敵を追い求めてといったところである。

それについていくのは、相棒のクロアはもちろんのことエレンとアミリアまでがランチバスケットを片手についてきている。

剣獅はそんなつもりはないが、これはもうピクニック気分でいるのが否めない。


「お前ら、本当についてこなくていいんだぞ?」


「剣獅だけそんな楽しそうなところにはいかせない。本妻のカンがそう言ってる」


最近ませたことをいうようになったなこいつとか一瞬声に出かかったが、この楽しそうにしているところにそんな言葉を浴びせるほど剣獅も無粋ではない。

普段感情を表に出してこないエレンが今日だけはわかりやすく嬉しそうなのだ。邪魔してはなんだかエレンに悪い。


一方のアミリアはというと、なぜか剣獅がバスケットのほうに目をやるとサッと後ろに隠してしまう。

おそらくだが、お嬢様なので初めて作って出来が気になってみせるのが恥ずかしいのだろう。

そんなことをしなくても剣獅はちゃんとわかって食べるつもりでいるのに。


「剣獅ーー!!遅いぞー!!」


一応整備されている山道を、クロアは楽しそうに先々と走っていくので必然的に剣獅たちが遅れている構図になるのだが、クロアの幼女然とした元気さが少々羨ましい。

これから戦闘をしにいくのに、体力を使い果たしては元も子もない。


「あんまり走るなよー!!」


このセリフだけ聞くと保護者の父親か兄貴のようだと、自分で聞いて呆れる剣獅。


それはエレンとアミリアも前半部分は同じようで、先をいく幼女を羨ましげな目で見ている。


「剣獅って...母性ならぬ父性を感じるよね」


「絶対託児所とかしててもおかしくないレベルですわね」


そこまでか。

自分のあの一言がまさかそこまで言われるレベルのことだとは、露ほどにも思っていなかった剣獅はそこそこにショックを受ける。

別にいいじゃないかとも思うのだが、二人にはどうにも気に入らないようだ。


「剣獅ーー!!いたぞーー!!」


いたなら静かにしてほしいものだ。気づかれて襲われたらどうするつもりだと、怒鳴りたかったがそれをやってしまっては一人コントになりかねない。

気づかれないように、剣獅は指を口元に当てて静かにするように合図を出す。


クロアもそこそこに目はよく、頭もいいのですぐにわかってくれた。

そして剣獅たちも、気づかれないように足音を殺しながらジリジリと近づいていく。

いままで楽しそうだった雰囲気が一変、そこは戦場の雰囲気さながらの世界である。


「クロアどこだ」


「あそこだ」


クロアが指さした先、距離は目測で五百メートルほど崖下にいる。

今回剣獅たちが討伐にきた危険種は長く岩山に住み着いているせいか擬態機能を持っている。

今はまだ目視できるが、目指できなくなれば向こうのものだ。一瞬にして体のどこかを持っていかれるだろう。


「よし、あいつは後ろには目がないはずだ」


剣獅は後ろからの奇襲を考えた。

だが、爬虫類というのは夜行性が多く目より皮膚やピット器官と呼ばれる蛇の舌などのほうが発達しているためあまり効果はない。

むしろ気取られる可能性のほうが大きい。


そのことを思い出した剣獅は、慌ててその案を放棄して別の作戦を考える。

新しい案は結構すぐに思いついた。目が悪いならいっそのこと目を見えなくさせればいいという考えにいたった。


「よしいくぞクロア。出てよ聖剣エクスカリバー」


いつもならかっこよく叫ぶところだが、そんなことで気づかれておじゃんにされても立つ瀬がないのでそこはカットとする。


「エレン、アミリア。危なくなったらすぐに知らせろ飛んで戻ってくるから」


「舐めないでいただきたいですわね、あんなのよりはマシなやつなら私だって倒せませすわよ」


「うん、信じてる」


プライドの高いアミリアは人の厚意に甘えるとかそういう感性を持ち合わせていないので、少々偉そうに聞こえてしまう。それに比べると、エレンはちゃんと人に対する接し方というものができあがっているので分かりやすい。

剣獅も二人の性格がわかっているからこそスルーするのだが。


「了解、じゃあアミリアしっかりな」


「ま、任せなさいな。でもちょっとくらい守ってくれても...」


「行ってくる」


アミリアの話を最後まで聞かずに剣獅は飛び降りてしまった。降りる途中でなにか言っていた気がするのだが、生憎と崖から降りる空を切る音で剣獅の耳にはまったくと言っていいほどに聞こえてこない。

ビュービューと風の音がするぐらいだ。


「よし、まだ気づかれてない」


『剣獅、お前どうやって着地するつもりだ』


そういえばと剣獅は思い出すのだが、自分の自己分析で五百メートルくらいの深さだと測ったことをものの数瞬で忘れてしまっていた。

このままでは敵にたどり着く前に地面という自然の力に潰されてしまう。


焦る剣獅。これは焦らずにはいられなかった、まさか試合前に死ぬことになるとは。


『しょうがないな剣獅、足に力をいれてみろ』


そんなことをしてもどうせとか思うのだが、こうなればやけくそである。

剣獅は足だけとは言わずに、保険をかけて全身に力を込める。

そのとき、肩の紋章が熱くなるのを感じた。これがクロアの与えたかった力だろう。


五百メートルという高い高い場所からのハイジャンプから見事に着地を果たした剣獅は、音を立てず逆に地面に足が突き刺さってしまっている。

これでは身動きができないので、強引に足を地面から引き抜く。

その際地面をいくらか粉々にしたが、まぁ気にしない気にしない。


「敵はどっちだったかな」


今の一幕のおかげで、完全に敵を見失ってしまった。擬態化されては剣獅の勝ち目は万にひとつあるかどうかというところだろう。

だが、危険種のトカゲは逃げてなどいなかった。剣獅の背中をチロチロという音を立てながらツーとなぞる感覚がした。


近くにいる。

そう思って、気配を探ることに全神経を集中させるが透明なモンスターが相手では空気を相手にしているようなものだ。そう簡単に見つかるものではない。


そのとき、近くの岩がガコンと音を立てて転がった。

間違いないそこだ。

剣獅は一瞬の判断で、そこに向かって剣を突き立てる。


狙いは(ビンゴ)たり、そこから緑の液体が飛び散る。普通の爬虫類とは違い血の色は赤ではなかったらしい。その緑の血を浴びたことによって、擬態しようと居場所はバレバレの上に弱点である傷口は目印つきである。


トカゲも怒り狂いながら、剣獅に向かって走ってくる。返り血で擬態は使えないと判断できるだけの(あたま)はあるようだが、怒り狂っているようでは剣獅の敵にならない。

剣獅は、怒り狂ったトカゲの頭を魚の頭同然に斬り落とす。


トカゲの頭は、ドスンと音を立てて地面に転がり落ちる。

剣獅はクロアにこびりついた血を服の裾で拭う。

こうしないといつもうるさいのだ。


と、そのとき上のほうで緊急を知らせる花火が打ち上がる。

あれはアミリアとエレンになにかあったということだ。


今すぐにでも行きたいが、剣獅には五百メートル高さを一瞬にして登るような技も能力ももっていない。


「くそっ!!どうすれば...」


『剣獅!こういうときの紋章術だ。紋章の力を足に集めて吸盤みたいにイメージしてみろ』


そんなことをいきなり言われてもピンとこなかったので、身近な生物のタコをイメージすると案外簡単にできた。

なにやら地面に足がはりついているような感覚を覚える。

これならばと、剣獅はほぼ垂直にそびえる崖をそのまま駆け上がった。


張り付いて普通の平地同様に走れるのであれば頂上までは約三十秒あれば十分だ。

これもすべては紋章術のおかげである。

そして、剣獅が頂上にたどりつくと、人間のものさしでは測れないような巨大さのドラゴンがその目玉をこちらに向けて睨みをきかせていた。














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