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十七話

全学年がランク戦を終え、やっと一息ついた学園は一枚の張り紙によってその息を整えることなく次の事件へと歩を進める。

学園の昇降口には、部活動の勧誘から掲示連絡などの目的のために掲示板が設置してある。

そして、その掲示板に貼られていた一枚の通達書、と書かれた紙。生徒間ではその噂でもちきりである。


【通達書】


十夜芽絢香・樟葉剣獅両名の合意に基づき、下記記載の日時にデュエルを行う。

また、これは生徒会の認める正式なものとする


【対戦者】


十夜芽絢香


樟葉剣獅


【備考】


ブレイドヴァルキュリア学園生徒会の名において、この決闘の結果を遵守することを約束し、生徒会が全面的に協力の元行い、生徒会側はデュエルの結果に一切の責任等を負わない。


生徒会長ケイミー・ルクス



と、いう内容の紙が貼られていた。

朝から掲示板の前は、それを目にして立ち止まる生徒で溢れかえっている。

興味のない生徒からすれば、邪魔でしかないだろうがそれ以外の生徒(主に十夜芽ファン)は大注目のデュエルとなる。


十夜芽は授業には一切出てこず、ランク戦ややデュエルのときのみ姿をみせる謎の生徒だが、その実力はいわずもがな、全員を無惨に切り殺してから送り返すという噂もある。

処女皇帝と呼ばれるのは、学園長が勝手につけただけなのでその名前で呼ぶものは誰もいない。

その十夜芽がデュエル、しかも相手は噂の一年生ランキング一位となった剣獅だ注目されるのも当然の話だ。


だが半分勝負は見えているようなもので、一年が二年に勝てるわけがないと十夜芽がどうやって剣獅を倒すのかを面白半分で見ようという生徒もいれば、唯一の男である剣獅の実力が知りたいというものもいる。

そんな様々な思いをもった人間の集まった集団の最前列に二人、この通達書を見て驚愕の色に染まるものがいた。


「剣獅...!?」


「まさかあの十夜芽先輩と...」


エレンとアミリアは、剣獅の家から出てきたあとそのまま学校まできたのだが、掲示板に貼られていた紙をチラっと確認した際に、これを見てしまったのである。

当然二人はこんなこと知りはしなかった。エレンは一度十夜芽に会っているが、そのときは特にそんな素振りも見せなかったので、まさかぐらいに思っていた程度だ。


アミリアはそんなこと自分には一言も言わなかったのにという反応だ。


「お前らなに見てんの?」


集団をかきわけてエレンとアミリアの肩に手をかけた人物。

それこそが、今回の騒動の中心人物である剣獅だ。

そろそろ遅刻というタイミングで登校してくるのはいつものことだ。


周囲のギャラリーもまさかの人間の登場に、そわそわとしながらその場を離れていく。

かける言葉もないといった様子だろう。


「け、剣獅これいつから知ってたの?」


「入学式の日」


「結構最初からじゃないですかっ!!」


エレンが質問し、アミリアにツッコまれた。

そうは言われても入学式の日に喧嘩になり、突然のデュエルを申し込まれてそのままこういう流れになってしまったので、剣獅としてもいうことはそれしかない。


「剣獅、いますぐ棄権して」


いつもは無口というか抑揚のない喋りのエレンが、今回ばかりは若干語気を強めて目でも訴えてくる。

それはアミリアも同様だ。

二人が心配心配するのもごもっともなのだが、今回ばかりは引き下がるわけにはいかなかった。

命の恩人が勝負を望んだ。だったら恩のひとつくらい自分の剣で返したい。それが剣に強さを追い求めるようになってしまった十夜芽への恩返しなのだ。


「ダメだ。今回だけは逃げない、逃げたくないんだよ」


「そうだな、逃げてもらっては困る」


剣獅の言葉に勝手に答えを繋げてきた声の正体、それは剣獅の後ろにいる十夜芽だった。

その横には、いつもどおり愛刀村正がいる。

村正は行儀よくお辞儀するが、今はそんなことをしているような余裕はない。

いつ斬りかかられてもおかしくないような位置に村正(ぶき)と剣獅がいるので、剣獅もクロアを顕現させる。


「そう構えるな。今からやる気はない、デュエルの楽しみがなくなるからな」


そういう言われても安心などできない。

なぜなら目が異常なまでの闘争心むき出しの目をしていたのだから。

やる気がないとかいいつつ、今からでもやろうといいかねない。


「おい、貴様」


いい加減見ているのも飽きたのか、あろうことか十夜芽に向かって貴様とかクロアが言いいやがった。その場は一気に絶対零度のごとく凍り付いた。

十夜芽も、さすがに自分にこんなことを言う馬鹿はいないと思っていたので眉根を寄せてまぁ言わせておけばいいかという様子で見ている。


「調子に乗るのもそこまでだ。いいか、お前たちがどれだけ強かろうが関係ない。剣獅は勝つ、私がいて負けるわけがない」


「それは剣獅(こいつ)の力でなく、お前の力だけで勝つというのか?」


クロアの言い方からすると、そうとれなくもない。

クロアも違うと否定はするが、そこから先の言葉につながらない。


「そいつは違う、俺たち二人の力全部で勝つって意味だ

つまりは、全力でやって負けるわけがないって意味だ。そうだろクロア」


クロアはきょとんとした顔で、力なく頷いた。


「そうかそれならば私も久々に全力でやろう、完膚なきまでに叩き潰すために。私の剣を受け止めた男だ簡単には死んでくれるなよ」


十夜芽は踵を返してどこかへ立ち去った。村正は一礼して礼儀正しくそのあとを追って去っていく。

まるで正反対な二人だが、案外十夜芽もあんな感じかもしれない。

そう思ったのは、あの昔の十夜芽のイメージと村正はそっくりだったからだ。

やはり、十夜芽は変わったのだ。もうあの頃の十夜芽はいない、優しさとか温情とかを求めるだけ無駄な無慈悲な剣をもった獣になったのだ。


「クロア、俺たち勝てるよな」


「無論だ」


その言葉がこれほどまでに安心させた日はない。剣獅はあの十夜芽の実力の底を知らない、だがそれはあちらも同じ。同じようなシチュエーション、同じような条件、同じような武器で戦うのだ。

ならば、今からジタバタしたところで変わらない。

だから剣獅はいつもどおりにやることにした。


「エレン、アミリア。遅刻するぞ」


「待って剣獅」


「待ちなさい、私を放っていくなんて許しませんわよ」









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