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十六話

学園を襲った謎の人造生物のことは、世界剣姫機関デルメザにも届いている。

その調査、書類や会議にと、ただでさえ忙しかった庁舎内がさらに慌ただしくなり、ある意味パニック上体となっている。

そんな職員たちをよそに、あの二人はまた二人で密会を行っていた。


「作戦は失敗だ。剣騎の名は伊達ではないようだな」


「失敗か...あのおじさんたちに頭下げるの私なんだけどね」


それは若干責めているようにも、しょうがないと慰めるようにも受け取れるニュアンスで言った。

クリスティーナも何年もの付き合いのなかで、こういうことにはなれているのだろう。

それがわかっているから、ローレンは隠さず打ち明けることができる。


「で、次の手は?」


「次はこいつを使う」


そう言って差し出されたのは、WANTEDと書かれたいわゆる指名手配書だった。そしてそこに写っているのは、剣獅の敵である十夜芽だった。

もちろん、十夜芽はなにをしたわけでもない。単に人物の人相書きを作る上で都合がよかっただけだ。


「この子は十夜芽一族の...」


「今度やつとデュエルをするそうだ。そこを利用させていただく」


「次の失敗は庇いきれないわよ?」


それは脅しではなく、次はないという警告である。

この友人の口からそんな言葉が出るとは露ほどにも思っておらず、ローレンはこれは驚いたという顔をするが、やがて向き直って「大丈夫だ」そう言って部屋を出ていく。

ここを離れられない友人の代わりに任務を遂行するために。






翌朝、剣獅はまたしてもベッドに違和感を感じる。別にベッドがないとか、ベッドの形が変わっているとかではない。

が、なにか胸騒ぎとともに閉じた瞼を恐る恐る開いて、自分の目の前の現実を見つめる。

そして開けた目に飛び込んできたのは、どういうわけかいつもより膨らみが多い。


一人はクロア、まぁこれはいいとしよう。二人目は多分エレンだろう、あとで起こすが。三人目、これが誰かわからない。剣獅はもうここまで来ると布団を剥がすのが嫌になり、一人でベッドから抜け出して下のリビングのソファで寝ることにした。

行儀が悪いのはわかるのだが、あのままいるとさらに悪い結果になりかねないので、こうするしかないのだ。


剣獅はボンヤリとした意識のなかで、次に控える十夜芽とのデュエルのことを考える。

だが、その前に剣獅はあの優しかった少女がどうして変わったのかが知りたかった。

昔のままなら、こんな風にデュエルなどといって戦いを挑んでくることはおそらくだがなかっただろう。

変わらないのは、あの漆に塗られたように艶のある黒髪だけだ。


「なんで変わっちまったのかな」


そうは言っても、誰だって変わる。剣獅も義手義足になって変わったように、十夜芽だって変わる。人が生きていれば、いつかはなにかに変わる。あとは、善いか悪いかの違いでしかないのだ。

それでも人はそれを受け入れまいと必死に過去を求める、今の剣獅のように。


「剣獅...」


寝ようと思ってボンヤリしていると、クロアが上から起きて下りてきた。

まだ眠いのかゴシゴシと目を擦っている。こうしていれば普通に可愛いのに、あのちょっと背伸びした喋りがマイナスになっているのが非常に残念だ。

そのことを本人は自覚がないらしい。


「どうした?」


「芋虫が二匹いた」


ベッドに潜り込んでいた謎(?)の二つの膨らみを生み出している生物のことだろう。

誰なのか、一人は想像が大体つくのだがもうひとりがまったくわからない。


「いますぐにベランダに捨ててこい」


クロアはコクっと頷くと、幽霊でも歩いているような足取りで二階へと歩いていき、しばらくして帰ってきた。

寝ぼけているにしても、その顔はどこか満足そうにしている。

そのあと、おそらくベランダから降りてきたのだろう。エレンともうひとりの謎だった人物、アミリアが玄関のほうから入ってくる。


剣獅もまたかという、地域の野菜を盗んでいく子供を見るおじさんの目で、二人を見る。


「いきなり起きたらベランダに」


「わ、私をこんな極寒のなかに放り出すなんてどういう神経をしてらっしゃいますのっ!?」


この山の朝の平均気温は十度くらいなので、こういう暖房のついた場所でなければ寝るのがかなり辛い。

剣獅の家、もとい寮は元の家を忠実に再現してあるので、当然ながらエアコンが存在する。

どうやって動いているかは謎であるが、電気が点くのだからエアコンだってつくのだろう。


「逆に人ん家に不法侵入して、ベッドに潜り込むお前らはなんなんだ。無法者集団員一号二号か?」


ごもっともである。

さすがの二人も反論できずに黙り込む。


「剣獅、もしかして嫌?」


もしかしなくても嫌である。別に美少女に囲まれたいとかそんな願望は剣獅には一切なく、ただ一人のときは作ってほしい。そう思っているだけなのだ。

とはいえ、そんなことをバカ正直に言うわけにもいかず。


「嫌...じゃないけど。朝からベッドに潜り込むな、来るなら朝からくるぐらいにしといてくれ」


と、嘘をついて誤魔化した。

これでよかったとも思わないが、そうでもしないとオブラートには伝えることはできない。

剣獅には、まっすぐストレートを投げる勇気はなかった。


「じゃあ仕方ありませんわね。鍵はお返ししますわ」


なぜかその手には剣獅の家の鍵が握られている。

おそらく、家に侵入するときのためにわざわざ作ったのだろう。


それはエレンも同じようで、普通に持っていた。

なんで持ってるんだと剣獅は言いたくなったが、聞いても無駄だろうと思い黙って鍵を回収する。

これで入ってきたらいよいよSECOMの出番である。


「じゃあまたあとでね」


二人は出ていき、剣獅は後味の悪い清々しさが残った。

主に、後ろめたい気持ちからだ。




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