病院に入院した方がいいね
なんとなーく浮かんだお話です。
軽くお読みください。深く突っ込まない方がいいです(苦笑)
目の前に立っている少女は何を言っているのだろうか。
『乙女ゲー』『ヒロイン』『転生』
わけのわからないことを繰り返し言い訳にしている。
「あのね」
私の声に少女はビクリと肩を震わせる。
「私は事実を知りたいだけだ。あなたの妄想を聴いているんじゃない」
「ですから…私はこのゲームの世界の主人公なんです。私が世界の中心なんです。そして、彼女は私をいじめていた悪役なんです」
1mほど離れた場所に座っている少女を指して自称ヒロインが喚く。
「はあ、あなたの話を聞いても埒が明かない。隣の部屋で待機している子たちを連れてきて」
扉の側に控えていた男性が一礼して部屋を出ていく。
しばらくして数名の少年たちを伴って入室してきた。
「さて、まずは言いたいことがあれば聞くけど?」
私の冷たい声に少年たちは俯いたまま答えない。
「なぜ、何も言わないの?今なら君たちの言い訳を聞いてあげると言っているんだよ?」
それでも答えようとしない少年たちに私は小さくため息をついた。
****
数日前、たまたま裏門からこっそり王立魔法学院に入った私が偶然見かけたイジメの現場。
すぐさま、間に入りその場を抑えようとした。
あと少し遅かったら被害者の命が危なかったからだ。
加害者たちは『部外者はひっこんでろ!』と怒鳴り散らしたが私がこっそり魔法で送ったSOS信号を受信した警備員が到着し、私の正体を知ると一斉に大人しくなった。
加害者たちの親をこっそり呼び出し、事情聴取したらとある一人の女生徒の名前を挙げた。
ユリ・フォルゲン
フォルゲン伯爵家の娘
数か月前に王立魔法学院に転入してきた少女
魔力が強く、将来有望視されていた
加害者たちは口を揃えて『アリサ・セレーネ・エディンがユリ・フォルケンをいじめていた主犯だからだ』というのだ。
では証拠を示せと言えば証拠はないと言う。
「ほう~、君たちは証拠がないのにアリサがイジメをしていたというのか。噂だけでアリサを君達は痛めつけていたというのか」
私の言葉に加害者たちは顔色をどんどん悪くしていく。
「それに、君達…エディン公爵家から見返り無しの援助を受けている家の子達だよね?恩義ある公爵家の娘を貶めていいのか?」
ガタガタと震えだした加害者とその親たちに私は小さくため息をつく。
「はぁ…アリサの父親であるエディン公爵から今回は不問にすると連絡を受けているが、私は許さないよ。君達は君達が信じた噂の出所を自力で探し出し私に報告書を提出しなさい。その報告書の提出をもって私からの処罰とする」
私の言葉に加害者とその親たちは深々と頭を下げ、すぐさま情報収集に走り出した。
ユリ・フォルゲンに関する情報。
フォルゲン伯爵家の末娘。
上の子と年が離れているため家族全員で溺愛。
数か月前に王立魔法学院に転入。
魔力が強く、将来有望視されていた。
転入当時、学院に不慣れな彼女の為に上級生であり、成績優秀・貴族令嬢の見本そのものと言われている公爵家の令嬢アリサ・セレーネ・エディンが世話係をすることになる。
学院に慣れ始めた頃から不可解な行動を取る様子が度々目撃される。
特に多く目撃されていたのはエディン公爵令嬢に忠誠を誓っている護衛や幼馴染に媚びていたという。
次第に護衛達は任務を放棄しユリ・フォルゲンの周りに侍る様になる。
ユリ・フォンゲルはまるで我儘王女のような振る舞いをしだす。
自分の意に沿わない者を強く批判し、迫害するようになる。
エディン公爵令嬢がユリ・フォルゲンの行動を咎めるとエディン公爵令嬢を『悪女』と罵るようになる。
提出された報告書にはいくつかの疑問点があった。
疑問点は再度、加害者達に再調査させた。
後に、彼らは私専属の諜報員になるがそれはまた別の話。
疑問点その1
『アリサから炎の攻撃魔法を掛けられ全治1週間の火傷をした』
アリサは攻撃魔法は一切使えない。
アリサは白魔法…治癒や回復魔法しか使えない。
疑問点その2
『アリサに階段から突き落とされ足首を痛めた』
突き落とされたと喚いていた1時間後に校庭で元気に走り回っている姿を不特定多数の人たちが目撃している。
突き落としたとされるアリサが全治1週間の捻挫をしていた。
疑問その3
『アリサに机の上を落書きされ、机の中に入れておいた教科書を切り裂かれた』
生徒には知られていないが教室には隠しカメラがある。
念のために監視カメラのデータを調べたら、ユリ・フォルゲン自身が行っていたことが判明。
その他にも疑問点があったが、追加報告でユリ・フォンゲルが訴えた事はすべて狂言であったことが発覚した。
******
私はこれらの情報をまとめ、彼女を呼び出した。
私の呼び出しに彼女は嬉々として応じた。
部屋に入り、部屋の隅で待機しているアリサの姿を見たユリは醜く顔を歪めたが、すぐに『可愛らしい』と自称している笑顔を浮かべた。
「あの、本日私をお呼びになったのは…」
「うん、君に確認したい事があるんだよ」
私は誰にでも見せる笑顔を浮かべる。
「王立魔法学院からアリサが君をいじめているという情報を貰ったんだ」
私の言葉に彼女はニヤリと笑みを一瞬浮かべた。
そして次の瞬間、瞳に涙を浮かべて私に訴えてきた。
私は彼女の話を聞きながらこの娘をどうしようか考えていた。
彼女が話し終えるを待って私はニッコリと笑みを浮かべる。
「そう、それは大変だったね。でもね……」
私は執務机の上に(未来の)諜報員から得た情報と学院の隠しカメラのデータをまとめたモノを置いた。
これが何かわからないユリ・フォルゲンは首をかしげる。
「君の証言は矛盾だらけなんだよ」
「え?」
「まず、アリサは攻撃魔法は使えない」
「……え?」
「アリサの家は白魔導士の家系で攻撃魔法は一切使えないんだよ。使うと確実に命を落とすからね」
「…………うそ」
今迄笑みを浮かべていたユリ・フォルゲンの表情が崩れた。
「それから、君はアリサが君を階段から突き落としたというが、逆だろ?」
「……」
「君がアリサを突き落した。たまたま通りかかった教師が受け止めてくれたから大事には至らなかったけどね」
「………なんで」
プルプルと震えだすユリ・フォルゲンに私はニッコリと笑みを浮かべ話を先に進める。
「それから君はアリサが君の教科書などを切り裂いていたというが、誰も切り裂いている所を見てない。それどころか、学院の隠しカメラには君自らが自分の教科書を切り裂いている姿がはっきりとデータとして残っていたよ」
「……隠し…カメラ?」
どんどん顔色が悪くなるユリ・フォルゲン。
「まったく、アリサが手出し無用というから静観していたけど……君の嘘の証言に踊らされたバカ共のせいで危うく私は自分の妃を失うところだったよ」
「え?どういう……」
「アリサ・セレーネ・エディンは私の婚約者だ」
「う…そ……アリサはディークの婚約者のはず…」
ますます顔色が悪くなるユリ・フォルゲン。
「嘘じゃない。第二王子のディークには隣国の姫が婚約者に内定している」
「え?」
「まあ、元々はディークの婚約者候補だったアリサを強引に私の婚約者にしたんだけどな。正式発表は来月だが、社交界では有名な話だよ?」
「…そんな」
「さて、未来の王太子妃をいじめていたユリ・フォルゲン嬢。君の言い訳を聞こうか」
彼女曰く
この世界は『ゲーム』とかいう娯楽の世界で、自分はその主人公。
アリサの護衛や幼馴染は攻略キャラというモノで、自分を無条件で愛する存在。
そして、アリサは彼女の恋の邪魔をする悪役なのだという。
まったくバカバカしい。
彼女の言い訳でユリ・フォルゲンは私たちを人として見ていないことが分かった。
娯楽の一種で、自分の思い通りに動く人形だとでも思っているのだろう。
私はこれ以上彼女の話を聴いているのが耐えられないので隣室に呼んでおいたアリサの元護衛達を連れてくるよう指示した。
アリサの元護衛達は入室してから、ずっと俯いて一言も声を発しない。
ユリ・フォルゲンがみっともなく縋り付いても優しく手を差し伸べることをせず侮蔑の視線を彼女に送る彼ら。
どうやら彼らに掛けられた『魅惑』の魔法は解かれたみたいだな。
わざとらしくついたため息が部屋に響いた。
「言い訳はしないということだね」
私の言葉に元護衛達は片膝を床に付き、深く頭を下げた。
「そう、わかった。君たちの処分は後日伝える。今日はもう下がっていいよ」
元護衛達が退出すると私はおもむろに椅子から立ち上がり、床に座り込んでしまったユリ・フォルゲンを見下ろした。
「さて、君は……精神病院に入院した方がいいね」
「へ?」
「君は正体不明の病原体に侵されているんだ。今すぐ入院の手続きをするから待っていなさい」
「ち…ま、待ってください。この世界は本当に……」
縋り付こうとする腕を薙ぎ払う。
「君にとってはゲームの世界かもしれない。だけど、私たちは生きているんだ。この世界で」
「で、でんか…」
「君は君だけの世界で暮らすといい。大丈夫、君の仲間がたくさんいるところに入れてあげるから」
私の護衛官たちに引きずられるように退室していくユリ・フォルゲンを見送った後、アリサに視線を向ける。
パチンと指を鳴らすとアリサの姿は煙のように消えた。
「まったく、アリサの姿が幻影だとも気づかないとは…あれが将来有望視されていた者とは…」
ずっと部屋にいたアリサは魔法で作った幻。
アリサ本人は静養のためという理由で彼女の祖母がいる領地の片田舎にいる。
精神的にも疲れているだろうから今はそっとしておいたあげなさいと母上に言われ仕方なくその案を飲み込んだが、俺はすぐにでも連れ戻したい気分だ。
アリサがそばにいないと落ち着かない。
アリサは俺の精神安定剤なんだよ。
だから……早く帰っておいで、アリサ。
「アリサ、あまり長く田舎に引き籠るようなら無理やりにでも連れ戻すからな」
ここにはいない人物へのつぶやきは誰に聞かれることもなく静寂の中に消えていった。
******
【蛇足その1】
ユリ・フォルゲンを国の端にある精神病院に放り込んで数日。
学院は平和を取り戻したと学院長から御礼の連絡があった。
この国ではなぜか十数年おきに今回のようなことが起こる。
自分が主人公!
カッコイイ男の子は私のモノ!
この世界は私を中心に回っているのよ!
と言い出す者が……
魔導士や精神科医が何年も研究を続けているがなぜ起こるのかは不明。
私の父上が学生時代も同じようなことがあったらしい。
父上の時は殺人事件まで起こったというから今回はまだマシな方らしい。
今後、十数年は起きないだろうから安心しなさいと父上には言われたが…
また繰り返されるのか?
こんなことが…
******
【蛇足その2】
「冗談じゃないわ!せっかく主人公ちゃんが頑張ってたのに…最後の最後で失敗ってどういうことよ~!!!」
とある屋敷の一室で美しい銀髪の髪を振り回しながらモノに八つ当たりをしているアリサ・セレーネ・エディン。
彼女の侍女たちは『またお嬢様の発作が…』と温かい眼差しで彼女の怒りが納まるのをお茶とお菓子を用意して待っていた。
一通り暴れまわったアリサは大きく深呼吸するとソファに座り込んだ。
侍女たちは素早く移動し、乱れた髪やドレスを直し、お茶を差し出す。
差し出されたお茶を一口飲んで落ち着いたアリサは侍女たちにお礼と謝罪をして深くソファに座りなおした。
「アリサ、そんなに王宮に入りたくないの?」
アリサが落ち着くの待って声を掛けてきたのは友人であり、仲間であるリュミット・サン・ガーディア侯爵令嬢。
ガーディア侯爵の娘で、第3王子アルクの婚約者候補。
そして、『前世』の記憶を持ち、この世界が『乙女ゲームの世界』であることを知る人物。
アリサもまた『前世』の記憶を持っている。
アリサとリュミットは学院初等科時代、知り合い意気投合し、なんでも秘密を打ち明ける仲になっていた。
お互いに大きな猫を被っていることに気付いてからはその仲を急速に縮めていった。
その時、二人が似たような記憶を持っていることに気づいたのだ。
「リュミットはいいわよ。第3王子のアレクは見た目通りの人だもの。だけど、私の相手はあの第一王子よ?普段は皆に優しい理想の王子様!なんて言われているけどあの人が一番の危険人物じゃない」
拳を振り上げて力説するアリサにリュミットは苦笑を浮かべる。
「あーあ、主人公ちゃんがもうちょっと頑張ってくれれば、私は晴れて自由の身だったのに~」
「たしか、逆ハーレム一歩手前までいっていたのよね?」
「そうよ!第一王子を含めた真・逆ハーレムエンド!頑張って彼女がそのエンディングに行くように彼女の『魅惑』の力を最大限まで引き出して、いろいろと導いたのに~!!!!なんで、第一王子には効かないのよ~!!!!」
がっくりと肩を落とすアリサにリュミットは少し考えて
「もしかして、国王陛下か王妃様が気づいたのかも…」
「え?」
「お父様から聞いた話だと国王陛下が学生時代も同じようなことがあったみたいなの。その時は殺人まで発展したミステリー仕立てだったそうよ」
「まじですか…」
「お父様も『転生者』で、先が分かっていたからいろいろとお手伝いしたそうだけど……陛下はこの世界の事を気づいていて、後継者の第一王子だけには伝えていたりして……」
「いやーーーーーーーー!にげられないーーーーーー!!」
顔を真っ青にして叫ぶアリサに侍女たちは落ち着くお茶を与え鎮静化させた。
「ねえ、アリサ」
「なあに?」
意気消沈しているアリサ。
「しばらく、おばあ様の所に隠れたら?」
「へ?」
「アリサのおばあ様も記憶持ちで、当時の国王からの求婚を断った人でしょ?なにかいい案を持っているかもしれないわよ」
リュミットの案にアリサはすぐ飛びついた。
アリサの祖母が暮らしているのはユリ・フォルゲンが入れらた病院とは真逆の位置にあるエディン公爵領の片田舎だ。
王都から馬車で1週間は掛かる。
おいそれと第一王子が訪れることが出来ない場所。
翌日
アリサはさっそく父親に『ちょと精神的にも疲れたからしばらくおばあ様の所で静養する』と言ってさっさと屋敷を後にした。
父親であるエディン公爵は娘に激甘なのですぐに了承し、王宮にもそのように報告した。
第一王子はすぐさまエディン公爵に詰め寄ったが
「娘の事を思うなら少しぐらい我慢しろ!代わりに娘そっくりの人形を執務室おいてやる」
と言って黙らせたらしい。
祖母のところにたどり着いたアリサは祖母に事情(第一王子に嫁ぎたくない理由等)を説明すると
「なら、隣の国にいるラス(祖母の弟)の所に行くといいわ。あそこは防魔法が掛かっているから時間稼げるわよ」
とあっさりと隣国への手続きを済ませて、アリサを転移魔法で送ってしまった。
その後、王宮から祖母の家にアリサの件で派遣された騎士が慌てて城に戻り報告すると
「にーげーたーなー!地の果てまで追いかけてやる!」
と第一王子は王子の身分を捨て、アリサを追いかけるようになる。
のちに、元第一王子とアリサの話をリュミットによって物語化されることになる。
二人の結末?
それは、皆様のご想像にお任せいたします。
お読みいただきありがとうございます。
国王も王妃も第一王子も自分が生きている世界が『ゲームの世界』であるとは砂粒ほども思っていません。
第一王子はアリサへの執念でユリの『魅惑』の魔法を跳ね返しています。
アリサは第一王子(あ、名前考えてなかった)が苦手です。
第一王子はみんなの前では優しい理想の王子様を演じていますが、本当は気に入った者を追いかけ、罠にかけ、常に自分の側に置こうとする(軟禁状態?)ブラックな人です。
普段の一人称は『私』だが、ブラックな感情が出てくると『俺』になる人です。
病院に入院した方がいいのは第一王子かもしれない…(苦笑)




