狼男になりましょう。
すっかり秋も深まった。
中天に懸かる月は、まんまると満ちていて夜だというのに明るい。
・・・そのおかげで、今宵の莫迦・・・もとい、客がすっかり丸見え。
「・・・ところでさ、あの人、なにしてんの?」
「ラジオ体操ですねぇ。」
腕を前から上にあげてノビノビと背伸びの運動から~♪的な?
「えーと、自殺する気なんだよね?・・・たぶん。」
「ええ。靴も脱ぎ揃えて、遺書もありますからね。」
ガタイのいい、働き盛り、漢盛りの三十代のおっさんが夜中に河原でラジオ体操。
その傍らには、脱ぎ揃えられたピカピカに磨かれた靴。さらにその上には、『遺書』と銘打った白いレター。
でもね・・・。
「靴揃えるのいいけどさ、なんでサンダル履いてんのさ。」
そうなのだ。脱ぎ揃えた靴とは別に、サンダル履いていたのだ。
「河原って、石とか痛いからじゃないですか?ガラス片とか落ちてるかも知れませんしねぇ~。」
・・・死にゆく者よ、気にするな。
と、その時だ。
俺はショージキ、ビビったね。いや、マジで。
準備運動を終えたマッチョおっさんが徐に深呼吸をした。
はい、吸って~吐いて~、大きく吸って・・・・。
「ヴぉぉおおおおおおおおお」
なななんと。月向かって、雄叫びをあげたのだ。
「・・・俺、帰っていいかな?」
毎度ながら思ってしまうんだけどさ。
「そう言わずに、お仕事しますよぉ~。美樹ちゃん。」
お仕事しますよじゃないだろ?しますじゃなくて、しろだろう?
社長黒子、またの名を傍観者黒子。
へいへい。シャチョー仰せのままに。
俺は嫌々ながら河原に近づいて、声をかけることにした。
「あの~・・・・!!?」
間近で見えて更に吃驚!!おっさん、目が金色よ??
「え?え?ええ~」
斜め上から黒子がぼそり。
「カラコンですねぇ。」
なんだ、カラコンかぁ。吃驚した。
・・・って、なんで!?
「あのぅ~・・・」
引きつりそうな頬を何とかなだめつつ、再びアタック。
「駄目です!今、僕に近づいては!・・僕は、僕は・・・ううううっ」
「ちょ、ちょと!だ・・・大丈夫?ですか」
もちろん、色んな意味でだ。
「ああ、僕は、僕は実は・・・ヴェアヴォルフなんだ・・・」
・・・ノーコメントでお願いします。
「あらぁ。変身しちゃうんですか~。見たいです~。」
無理ですぅ~。
だって、カラコンだよ?人為的だよ?思い込みじゃん。
とか思ってると、おっさんのパフォーマンスは益々盛り上がる。
「ヴぉヴぉぉおおお・・・・・ん」
あ~あ、とうとう四足になったよ。なりきったよ。
狼男っていうか、狼になりきった男だけどな?
どっからどう見ても、ガタイのいいおっさん。
上から見ても横から見ても正面からでも・・・人ですが?
「つうかさ、狼男が入水自殺って・・・・」
「無理がありますね~。狼は水で溺れませんしね~。」
狼じゃねぇし。
「えーと、(自称)狼男さん?今から、死神さん紹介するね?ごーいんにいっていいよね?」
と、いう事でおっさんを押し付けるべく死神さん召喚!!
「おーーい、死神さーーん!!」
呼ばれて飛び出て~・・・。
「ヴぉぉぉおぉおおお・・・ん」
変なのがもう一匹増えただけだった。
「ケイさん、なんなの?そのケモミミとしっぽ」
「どうどう?似合う?コスプレショップで買ったんだよ。狼男セット!!」
ん、どうでもいい。
「黒子、帰ろう・・・」
クルリと向きを変えた俺の背後では、二匹のアホが遠吠えを競い合っていた。
「美樹ちゃん!!私たちも、狼男になりましょう!!」
・・・今夜はよく眠れるかもよ?
狼男がいっぴーき、狼男がにぴーーき、狼男がさんぴーーーーーーき。
ほらこれでぐっすりさ。




