あ、はじめまして。
「私、こういう者です。」
そう言いながら、愛想笑いの張り付いたソレは、名刺を差し出した。
俺は、固まってしまった。
・・いや、無理もないだろう。
ここは、屋上。フェンスを乗り越えた際ギリギリ。
学校には、誰もいない。
当たり前だ、今は深夜なのだから。
差し出された黒い怪しい名刺には、やはり怪しい文字が並ぶ。
『あなたにピッタリの死神を紹介します。
死神紹介屋
代表取締役 黒子』
怪しすぎるが、否定できない。
なぜならば、俺は外向きに立っている。
ソレは、俺の目の前にいる。
・・・つうか、何もない空間にう・・浮いている。
しかも、黒ずくめの格好なのに良く見える。
黒ずくめの愛想笑いが、闇にくっきりと認識できる。
街灯はない。校舎の灯りはきっちりと落ちていて、非常灯は割れていた。
つまり、見えるわけない。普通。
「そんな胡乱げな顔しないで下さいよ。
私ね、こう見えて結構繊細なんですから。」
そう言いながら、俺に名刺を握らせる。
そして、一瞬眼が光ったかと思うと、こう言った。
「貴方、自殺したいんでしょ?」
※
思い出しながら、隣にいる(他の人には見えないらしい)黒子を睨む。
黒子が見えていない隣の奴は、ビクリと肩を震わせた。
・・・しまった。
ヘラっ。と愛想笑いで誤魔化してみた。
・・・ビクビクと震えながら、引きつって無理やり作った顔をされた。
くそぅ・・。
なんなんだ。なんなんだコイツ。
ニヤニヤしながら、黒子は俺を見下ろす。
あの日、俺が屋上にいたあの日から黒子は、俺についてくる。
・・・憑いてくる。が、正しいのか?
ああ、そのニヤけた面をぶん殴りたい。
・・・触れるのだろうか?
普通に考えて(既に普通ではないが)、触れなそうだよな。試したことないけど。
など思っていたら、黒子が俺の肩に肘をついて言い放つ。
「触れますよ。ほら、肘まで置けちゃう。」
・・・。
我慢だ。いま、ここで、反応したら、変な眼で見られるのは俺だ。
黒子は、見えてないのだから。
我慢。我慢。我慢。・・・ぷちっ。
グァタンッ
思い切り立ち上がってしまった。
教室内は、静まり返りかえる。
唖然とした先生が、
「ど・・どうしたんだね。時津くん。」
は。やってしまった。
「あ・・・た、体調悪いので、帰ります!!」
有無を言わせず、鞄に適当に詰めて逃げる様に教室を出る。
ぷぷぷ・・ぷっくくくく。
浮遊しながら、黒子は腹を抱える。
殺意を覚えた。
どうしたら、こいつを抹消出来るだろうか。
はぁ・・・。
俺は深く、深ーーく溜息をついたのだった。