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博麗の会合



 1





 何故ここの世界には妖怪がいるのか。



 

 そんな事を尋ねる者はここにはいない。




 ここは幻想郷。




 外界で忘れ去られた存在、拒絶された文化が集う楽園。




 外界では非常識な事が幻想郷では常識になる。



 常識に囚われない世界。



 全てを受け入れ、全てを受け入れられるようにする世界。



 ここに楽園は存在する。








 2





 博麗神社。


 幻想郷の最東端に位置し、神社からは幻想郷が一望できる。最も桜が美しい場所としても有名で、桜が咲く季節になると様々な者がここに集まる。

 幻想郷の境界として幻想郷と外の世界を隔てる博麗大結界を見張る役割があり、代々博麗の巫女がここに住みながら結界の管理を担当してる。

 

 そこに一人の男が立っていた。


 幻想郷で唯一の何でも屋、『花火』を開いている妖怪だ。


 三週間ほど前に幻想入りし、何でも屋の『花火』を開いてから二週間が経つ。


 何でも屋の『花火』は人里を中心に二週間という短期間では異常なほどの信頼を勝ち得ている。


 妖怪、人間、妖精、種族かかわらずに仕事を請け負うその姿は正に、どこから見ても形が変わらぬ花火そのものだった。


 この妖怪に名前は無い。


 周囲からは親しみを込めて店の名前でもある『花火』という名で呼ばれてる。


 今日、花火が博麗神社に足を運んだ理由は仕事ではない。

 かといって遊びに来たわけでもない。


 理由は花火自身にも不明なのだ。


 早朝に人里にある事務所へ行くと張り紙がデカデカと貼り付けてあった。


 『博麗神社へ来い』

 

 単純明快簡潔にそれは書いてあって、それを見た途端に花火は引きつった顔を浮かべていた。


 ここまで簡潔に、更にわざわざ来いと言う人物は花火には一人しか心当たりがない。


 博麗霊夢(はくれいれいむ)


 博麗神社の結界守を務める博麗の巫女である。


 妖怪退治を家業とし、幻想郷の平和の象徴であり、秩序を守る使命がある。


 花火個人の見解では、適当な面が大きい不良巫女というのが大本を占めている。

 だが花火が幻想入りする前に起きた『異変』は全て霊夢が解決しているというのも聞いている。


 それを考慮して考えるならば普段は適当な人だが使命などの責任感はきっちりある、という結論にたどり着いた。


 話は戻るが今日、花火が呼びたされた理由だが…何度も考えたが全く見当がつかなかった。


 博麗は問題を起こしたり、人間に害をなしたりした妖怪を退治という形で懲らしめたりはするが、花火自身には問題を起こした覚えもなければ人間に害をなした覚えもない。


 そもそも何でも屋という商売は信頼が第一だ。

 それをわざわざ人間を襲ったりして信頼を崩すなどという行為は花火はしない。


 それに花火を退治すると言うのならば呼び出すのではなく霊夢から出向いてくるはずだ。


 「なるほど、わからん」


 考えることを諦めて玄関へと歩き出す。

 

 霊夢自身から話される事を模索してもしょうがない。


 「霊夢、花火だ」


 ガラス戸の前に立ち、声を張り上げる。


 するとバタバタと廊下を走る音が聞こえてくる。


 霊夢は廊下で走る事は滅多にない。そうなれば出迎えてくれるのは―


 「花火~、私と飲みに来たのか~」


 「よう、萃香。それはまた今度な。それより霊夢いるか?」


 出迎えてくれたのは鬼の伊吹萃香(いぶきすいか)だ。


 薄い茶色のロングヘアーを先っぽのほうで一つにまとめていて、その頭の左右から身長と不釣り合いに長くねじれた角が二本生えている。

 服装は白のノースリーブに紫のロングスカートで、頭に赤の大きなリボンをつけ、左の角にも青のリボンを巻いている。


 見た目は角の生えた幼い女の子なのだが何時でも酒の匂いを纏わせていて、大の酒好きだ。


 「霊夢なら奥の部屋で紫と話してるよ~」


 「そうか、なら上がらせてもらうぞ」


 玄関から中に入る。

 

 手を頭の後ろで組み、ガニ股で大きく足を上げながら歩くおっさん臭い美少女の後ろ姿に苦笑しながらも廊下を進んでいく。


 「霊夢、紫~花火が来たよ」


 「入っていいわよ」


 返事を貰った事を確認して障子を開け、中に入る。


 すると、袖が無く、肩、腋の露出した赤い巫女服と頭の大きなリボンをつけている黒髪の少女と俺が幻想入りして最初に出会った妖怪、八雲紫が出迎える。

 

 黒髪の巫女装束を纏った少女が博麗神社の現、博麗の巫女である博麗霊夢だ。


 「わざわざ来てもらって悪いわね」


 霊夢が対面にある座布団に座るように促す。それに続いて萃香も花火の横に腰を下ろす。


 「いや、それは構わないが…。わざわざお前が呼び出したんだ、少なくとも厄介事なんだろ?」


 花火の言葉に霊夢は頷き、花火は外れて欲しかった予想が的中したことに溜息を付く。


 「(いちじく)商会って知ってるわよね?」


 九商会。


 人里で最も大きな商会で、その商売内容は日常品を揃える雑貨店から依頼制の護衛など幅広い。

 外界ならば独占禁止法などで問題がありそうなほど大きな商会だ。


 人里で商いをしている花火だが九商会は大きすぎるが故に全く接点のない商会だ。


 博麗のの問いに頷きながら事態は予想よりも大きなものかもしれないと頭を切り替えると同時に、何故ここまで大きな商会の話で自身を呼び出したのかと疑問を抱く。


 「そう、なら話は早いわ。単刀直入に言うけど、何でも屋の花火を九商会が潰そうとしているという情報が入ったわ」

 「は?」


 花火はかなり間抜けな声を出した。無理もない。

 人里で最も大きい商会に、出来立ての小さな何でも屋を潰すなど考えもしなかったことなのだ。


 「話は最後まで聞いて」


 「分かった…」


 「更に命蓮寺と九商会が契約を交わしたらしいわ」

 

 更に出てくる面倒な組織の名前に花火は目眩に似た感覚を覚える。


 命蓮寺は人里の外れの空き地に寺を構え、『人も妖怪も妖精も平等に』という思想を掲げている。

 幻想郷で最も人間の信仰者が多い寺で、信仰者ではない人からの評判もいい。


 だが命蓮寺は一週間前に九商会が持ちかけた契約を拒否したはずだ。


 「まるで手のひらを返したように命蓮寺から契約を持ちかけたって話よ」


 「それで何で花火(うち)が潰されるんだ?自分で言うのもなんだけど、九商会から見ても命蓮寺から見ても取るに足らない存在だろ?」


 花火の言葉に霊夢は何言ってんだ?と言いたげな表情を花火に向ける。


 「貴方ね、もう少し自分の評価を上げたほうがいいわよ?」

 「と、言いますと?」


 なぜか敬語で話し始める花火に霊夢は溜息を付く。


 「貴方は多くの人間、妖怪、妖精と種族に関わらずかなりの信頼を得ている。命蓮寺から見ても九商会から見ても将来的にかなり面倒な相手だと見られてるわ」

 

 花火は困った顔をしながらも顎に手を当てて今回の事態の全体図を改めて整理する。


 「でも命蓮寺が絡んでる以上、手荒な真似はしないんじゃないか?」


 「確かに今すぐ手を出してくる事はないと思うわ。だけど目を付けられている事は事実よ。人里で異変なんて面倒で仕方ないから起こさないでよね」


 霊夢はそれだけ言うと部屋からそそくさ出ていってしまう。それに萃香もついて行って、花火もそれに続こうと立ち上がる。


 「花火、ちょっと二人で話ししましょ」


 花火が部屋から出る直前に今まで口を開かなかった紫が花火を呼び止める。


 花火は先程まで座っていた座布団に再度腰掛ける。


 「どう?幻想郷(ここ)の生活にも慣れてきた?」


 紫が花火に微笑みながら優しい口調で問いかける。

 

 「わざわざお前が二人で話せるようにしたんだ、そんな世間話のためじゃないんだろ?」


 「あらら、つれないわねぇ」


 花火の素っ気ない返答に紫は裾を目元まで持っていき、よよよよなどと悲しんだ演技をわざとらしくする。


 「幻想入りした時はあんなに可愛かったのに」


 「あれは忘れろ」


 幻想入りした時に花火は紫の前で泣き、更には子供のようにの胸の中で泣いてしまった。

 これは花火としては早く紫に忘れて欲しいことで、ほじくり返されるのは嬉しくはない。


 八雲紫という妖怪は本心を表情の裏に隠す事が上手く、本心が読めないために周囲からは『胡散臭い』と評されている。


 花火としては、さりげない気遣いができる胡散臭い妖怪と思っている。

 恐らく幻想入りした時の体験による影響が大きいが。


 「そうね、貴方は今回の件をどう思う?」


 紫がニコニコとしながら花火に問いかける。

 

 花火は意外な紫の問いに少し考えてから答える。


 「そうだな…、色々不可解な点が多いと思う。命蓮寺が一番気になるかな」


 花火の回答に紫は満足げに頷いてから立ち上がる。


 「おい、話ってそれだけか?」


 「ええ、そうよ?」


 紫は花火を置いてそそくさ部屋から立ち去り、花火は疲れた表情で部屋を出た。












 2



 



 


 地獄の縮小計画によって切り捨てられた地底の土地、旧地獄。 元地獄の都であり、今は地上を追われた荒くれ者達が住まう旧都。


 旧都のほぼ中心にある灼熱地獄跡の真上に存在する西洋風のお屋敷、『地霊殿』。


 そこが俺の住んでいる場所だ。


 地底には前述した通り様々な理由で地上に居れなくなった妖怪が住まう場所だ。


 中には自ら地底に移り住んだ妖怪もいる。


 基本的に地底の妖怪は地上から忌み、嫌われている妖怪が大半で、そうでなくとも癖の強い妖怪ばかりだ。


 俺の住む地霊殿には地底で最も嫌われ者妖怪として有名な古明地さとり姉妹の屋敷だ。


 種族は(さとり)という妖怪で、第三の目を持ち、他者の『心の声』…つまりは考えていることなどが読める能力を持つ。


 この能力のせいで妖怪や人間などに嫌われ、さとり自身もこれを自覚しているために地底に引き篭もり、他者と接する事が無いようにしている。


 俺が地霊殿に住むきっかけとなったのは俺が幻想入りして初めての宴会なのだが特筆することでもないので割愛する。


 旧都は地獄としての役割を終えているが、未だに管理が必要な怨霊と灼熱地獄跡の管理を地霊殿住人が役割分担をして行っている。


 その住人というのがさとりが飼うペット達だ。


 ペットにしている地獄の動物は、放し飼いにしているだけで怨霊や魑魅魍魎を食べて勝手に強力な妖怪に育っていく。そして人型妖怪になったペットには仕事が割り振られる。


 さとりは他者の心が読める故に嫌われているが、言葉を話せない動物達からは親しまれている。


 さとり自身が動物好きで、更には世話好きというのが地霊殿に大量の動物を飼うことに繋がっているのだが人型になればキッチリ仕事を与え、ペットも仕事をこなすため結果的にはいい方向には進んでいる。


 「ただいまー、はぁ」


 大きな両開きの扉をくぐり、地霊殿の中へ入る。


 すると赤と黒のタイルが敷き詰められた廊下が広がり、ステンドグラスの天窓から僅かだが光が入っている。


 廊下を進み、一番最初に見える扉を開く。


 「おかえりなさい」


 「ただいま」


 扉の中はソファーや暖炉、テーブルなどが置かれた広いリビングだ。


 ソファーに座る薄紫のやや癖のある髪の少女が読んでいた本に栞を挟み、俺を出迎える。


 やや癖のある薄紫のボブにフリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしている。下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカートで 頭の赤いヘアバンドと複数のコードで繋がれている第三の目が胸元に浮いている。


 この少女が古明地さとりだ。


 「随分疲れてますね」


 「まあな、説明するのも面倒だから読んでくれ」


 俺は少女の対面のソファーに腰掛けながら胸元を指差す。

 さとりの第三の目がギョロリと俺を凝視する。


 「……大変でしたね」

 

 さとりが心中察するといった表情で言う。

 

 今日は仕事でもないのに仕事以上に疲れた。


 まだ仕事を初めて二週間だというのに人里で一番大きな商会に目をつけられるとは思わなかった。


 「はぁ」


 思わず溜息が出る。今後の九商会の対策を練りたいところだが相手がどう出るかわからない以上は限界がある。


 そもそも花火の従業員は俺一人だけだ。潰すといってもこれ以上は潰れようがないとも言える。


 それに命蓮寺と手を組んだのだから霊夢も言っていた通り、すぐには手を出してこないと思う。そうすると逆にいつ仕掛けているかが分からない。


 その間に対策をしてしまうというのも手だが自慢ではないが俺はまだ幻想入りしてから日が浅い。九商会、命蓮寺に組織的に対抗できるほどの人脈は持ち合わせていない。


 「あの、疲れてるところを悪いと思うのですが…」


 「ん?」


 考えを巡らせている所でさとりがすごく言いにくそうに俺に声を掛ける。

 

 珍しく随分と困った顔をしている。もしかすると地霊殿(ここ)でも問題が起きたのかもしれない。


 「いえ、地霊殿(うち)では何も起きてません。実は今日、ある人が貴方を訪ねてきまして」


 「俺を?仕事の依頼とか?」

 

 さとりが物凄く言いにくそうにしている。普段はあまり感情を出さないさとりがここまで渋るのもなかなか珍しい。


 「命蓮寺の聖白蓮(ひじりびゃくれん)さんが貴方に話があるそうなので後日、命蓮寺に来て欲しいと」


 


 


 


 

 






















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