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プロローグ 一つの優しい始まり

以前にこのサイトで執筆させていただいていましたが、何故かアカウントが消えていたので書き直しました。

申し訳ありません。





 1



 






 明るい夜。


 満月の月明かりは地面に低く積もった雪を照らし出し、雪がそれを反射してまるで小さな宝石を地面に散りばめたかのような美しさを演出している。


 昼間の目もくらむ程の眩い輝きも美しいが、夜の落ち着きのある輝きも風情がある。


 そこに立つは一人の幼い少年。


 その髪は地面の雪を移したかのように白い。


 美しい雪景色に、雪のような白い髪を持つ少年。


 この光景を見れば俳句の一つや二つも書きたくなるような正に幻想的光景だが、その少年からは風情などという言葉は掠りもしない。


 一つ目線を下げれば少年の衣服には赤い液体が所々に付着している。赤に染められた生地の合間から見える白の色が、元の衣服の色は白だったと辛うじて伺わせる。


 そして地面を見れば数えきれないほどの死体、死体、死体。


 体を引き裂かれ、四肢を千切られ、胴に大穴を開けられ。


 死体から流れる赤い液体は、雪という真っ白なキャンパスに季節外れの梅を狂い咲かせる。


 少年は見下ろす、数多の死体を。


 その瞳は年相応の純粋さなどはない。この世の汚点をすべて見て回ったように濁り、月明かりを鈍く反射している。


 少年に纏わり付くのは紛れもない濃い、死の臭い。そして異常。


 「腐っているのなら処分する。だったかな」


 少年は感情の籠っていない瞳で地面に転がる死体を見下しながら憎々しげに言葉を吐き出す。


 



 目に映ったモノは全て壊そう。だって―


 



 この世は腐っているんだから。






 



 2







 最初に感じたのは体を吹き抜ける穏やかな風だった。


 髪や衣服が風に煽られ、静かに揺れる。


 周囲の木々がざわざわと枝と枝を擦り合う。


 風が止めば、風の音で遮られていた虫の鳴き声が物語のBGMのように辺りを包み込む。


 

 そこで一つ疑問が生まれる。



 「ここは、、、どこだ?」


 周囲を改めて見渡しても青々とした葉を付けた木々が広がるのみ。


 空を見上げれば見たことが無い程に明るい満月が大地を優しく照らし出している。


 夜の見知らぬ森。そこに何の前触れもなく投げ出されたかのように俺は立っていた。


 「…………」


 ひどく気味の悪い場所だ。


 普段なら、このような事態に陥ったのならばかなり焦るだろう。

 なのに今は一片の焦りも感じない。それどころかここが俺の居るべき場所のような安心感さえ感じている。


 気味が悪い。


 周囲の木々も、美しい満月も、穏やかな風も、静かな虫の声も。

 ここのモノ全てが気味が悪い。


 まるで俺を『受け入れている』かのように、俺がここを『受け入れられる』ように美しさを演出しているハリボテのような違和感。


 だがその美しさに俺は気味の悪いという嫌悪感えを抱くと同時に、それ以上の安心感を抱いていた。


 「御機嫌よう」


 「…………」


 いきなり背後から声を掛けられる。


 それに対して俺は驚くわけでもなく、元からそこにいて、俺に話しかける事を知っていたかのような落ち着いた心境で後ろを振り返る。


 勿論、周囲を見渡した時には背後に人など居なかったし、人の気配もなかった。


 そこに立っていたのは金髪を長く伸ばし、毛先をいくつか束にしてリボンで結んでいる人形のような女性が立っていた。

 八卦の萃と太極図を描いた中華風の服を着込み、扇子で口元を隠している。


 「御機嫌よう」


 女性は再び俺の顔を見ながらニコリと微笑む。


 その微笑みは作り物のように美しく、隙のない完璧なモノだった。

 

 

 ゾクリ



 嫌悪感が異常な速度で膨れ上がっているのを感じ取る。

 だがそれと同時に安心感も異常な速度で膨れ上がっていた。


 「綺麗な夜ね。まるで貴方を歓迎しているみたい」


 

 ゾクリ



 女性がまるで俺の心を見透かしているかのように、元々決められた台本(セリフ)を読むように言葉を繋ぐ。


 女性が一言、また一言発するごとに俺の中の嫌悪感はドロドロと溶け始め、別の何かに変わっていく。

 それを根拠のない安心感が包み込み、グチャグチャドロドロと俺の中をかき回していく。


 「作り物の様な美しい夜。全てを受け入れ、全てに受け入れられるように演出しているかのよう。」



 ゾクリ



 「妖怪の貴方を」


 「!!!!!!」


 背筋に冷たい何かが走る。頭の中に氷を入れられたみたいに頭の血の気が引いていく。手足が痺れ、先から冷たい感覚が中へ広がっていく。


 俺を現実に戻すには充分すぎる程の衝撃だった。


 「…な、あぁ」


 緊張、焦り、恐怖により乾いた喉から声にならない声が絞り出される。


 「な…んで。知っている…?」


 俺の問いに女性はニッコリと微笑む。

 

 


 俺が妖怪であること。それは俺が最も周囲に露見しないように隠してきたこと。

 


 「あ、あ、あ」


 意識が遠のき、堪らず地面に膝をつく。

 

 過剰な感情表示で呼吸が荒くなり、心臓は痛いほどに早鐘を打っている。


 



 俺が妖怪だと露見するということ。


 それはつまり周囲からの拒絶を意味する。


 俺は妖怪だ。これは真実。だが俺以外に妖怪は現代社会には存在していないとされている。


 そこに一匹の妖怪が現れる。


 昨日まで親しかった人が化物を見る目で、恐怖の混じった目で俺を見る。

 人々は俺を拒絶する。


 「あ、あ、ああああああ!」


 今まで積み重ねてきた人との繋がりが崩れ去る。


 俺の中で様々な感情がぶつかっては混ざり合い、暴れ回る。




 また独りぼっち。




 「い、やだ…」


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ


 「大丈夫よ」


 「!!」


 肩に手を置かれ、体がビクリと跳ね上がる。


 それと同時に先程まで暴れていた感情を安心感が包み込み、静まっていく。


 「大丈夫、私は貴方を拒絶しないわ」




 穏やかな風が吹き抜ける。


 女性は俺にニッコリと微笑み、包み込んだ。


 そこには根拠のない安心感と、全てを受け入れる『居場所』があった。


 「…………」


 女性は再び俺に微笑む。




 『妖怪』の俺に。


 


 「ようこそ、幻想郷へ」 


 

 

 

以前、このサイトで小説を執筆させていただいておりました。


何故かアカウントが消えていたので一からの書き直しです。内容は以前と少し違います。


誠に申し訳ありません。

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