かわいいオオカミさん
※別の作品と共用世界観のため、そこらの話が少しくどいかも知れません。
ある日、クマみたいなガタイの男がやってきて、あたしにこう言った。
職場の待合室みたいなとこで。衆人環視のなかで。
「ユーナ、オレとつきあってくれないか?」
「いいよー」
あ、しまった。軽すぎたかな。ふざけて聞こえるかな。
そんなあたしの心配をよそに、男はうっれしそうに破顔した。心から喜んでくれてるカオだ。
ほっとして気が抜けた隙に、さっと抱きかかえられている。腕一本で。ああ、たくましいことで。
「やった!! ユーナ、大好き、愛してるーーー!!」
バカでっけえ声で礼を言いながら、さっそく唇をもとめてくる。
いや待て。待て。それは恥かしいからヤメロ。ください。
どこまで強気に出てもよいものか、よく分からなかったが、とりあえず近づいてきた顔面を両手で押し止めた。
「んむっ!?」
「人前のちゅー禁止」
「お? は――え? な、何でだ?」
「はずかしいから」
「みんなしてるぞ?」
「皆がしてても、あたしがはずかしい」
「そうか……」
うあ。なんかしょぼんとなってるよ。ご、ごめんごめんごめん。
「そ……そのうち、慣れたら、ね……?」
「――おう!!」
クマ男はしっぽがあったら、全力で振ってそうな笑顔になった。
実際、この男には尻尾が生える。生えるっていうか、魔法で変身する。全身毛皮におおわれた狼男みたいな姿に。
この世界の住人はすべて、そういう能力をもった獣人の血をもっている。その濃さによって強さや変身後の姿も変わるらしい。
でも、あたしにはそれはできない。獣性皆無の異世界人だからね。
そう、異世界人。日本という島国のある世界から、ある日突然この世界に召喚されてきた。理由は知らん。誰かが何かしてたわけじゃなくって、自然現象みたいな感じだった。
いきなりポンッと飛び出た場所は、湖上の古代神殿の一角だった。
他にも、森の中だったり、滝の裏だったり、地底湖だったり、砂漠のオアシスだったり、色んな場所に異世界人が召喚されてくるらしい。
そのおかげで、この世界の住人は獣性ってやつに呑み込まれずに済んでるんだってさ。ふつうにこっちの住人同士で結婚してくと、血が濃くなって、しまいにはケモノそのものみたいなヒトじゃないものになるとかナニソレコワイ。
獣性が強いと、体格・腕力・運動能力に優れて、変身も出来る。
獣性が弱いと、魔力が強くなる。獣性皆無の異世界人は魔力最強。
でも、ちゃんと魔術のベンキョーしないと、魔力だけあっても何にもならないんだけどね。あたしも只今、魔術修行中。まだやっと低級魔術がちょっと使えようになったくらい。
ちなみにこっちの言語はギルドの魔術師さんの魔術のおかげで習得済み。魔術すげー。ベンリ過ぎる。
ギルドっていうのは、この大陸中に支部がある組織で、何ていうか、荒くれ便利屋さんみたいなカンジ。
魔力最強・獣性皆無の異世界人は貴重な人材だそうで、このギルド組織が後見になってくれる。
あたしの場合、言語魔法かけてくれて、下宿できるお家を紹介してくれて、補助金も出してくれて、魔術の勉強もさせてくれて、お仕事も紹介してもらえた。
コレ替わりに後でどんな無茶を要求されるんだろうとか思ってたけど、要するに野放しにしたくないんだなって、最近わかってきた。最強魔力って厄介なんだわ。
その上、異世界人はモテるからさ。
手駒にしておくのが一番ってわけだ。あの異世界人と仲良くなれるかも!?って、他のひとたち釣るエサにもなってたりなんかして。
あたしに告ってきたクマ男もまさにそのギルド員だし。
時々いっしょに仕事したり、酒場で顔をあわせたり、なんだかんだしてるうちに親しくなった。
で、前から何度も、好きだ、つきあいたい、結婚したいって言われてた。
いやーさー、もーさー。ほんっと、こっち来てから、異世界人だってだけでモテちゃってまいっちゃったよー。
この男以外にも、次から次へと何人も言いよってきて、ゴツイ見た目に似つかわしくない甘いセリフ吐いてくれちゃって。デート誘われまくりだし、プレゼント貰いまくりだし、告られまくりだし。
でも、あんまり積極的すぎるから、身の危険感じて、ぜぇーーーんぶ断りまくりましたけどね! ハハッ、チキンチキン! ケンタ食いてえ!
もったいないのはわかってる。わかってるけど、2m越えてそうな大男ばっかに迫られるのは、思ったよりずっと怖かったのだ。端から見てる分には眼福なんだけどね。真剣に迫られるとビビるよ。
ほんとはガタイのいいオヤジ・オッサン系は大好物です。正直みんな好みなのに、どストライクで萌え萌えなのに、素直になれないなんてっ。迫られると腰が引けちゃう、度胸のない自分が恨めしい。
あんなに素晴らしい筋肉なのに……!!
とくにギルドのひとたちなんか、どいつもこいつもいいカラダしやがって、たいへんけしからんかった。いうなれば、色っぽい美女ばかりのハーレムみたいなもんだと思ってほしい。筋肉ハーレム。
青筋と無精ヒゲと傷痕のコンボとか野生なスマイルと妙に尖った犬歯と蛮族っぽい三つ編みとかあたしの身長よりデカイ斧だの強弓だの無骨な大剣だのを軽々扱うとかどんだけよ。オマケにオマエら揃いもそろってイカス獣人なんぞに変身しやがってよう。ひとを萌え殺す気ですかっ。
……まぁ、そんな連中がジイーッと熱視線おくってくんだよ。これはコワイですよ。
ああヤメテそんな目で見ないでェエエエエロス、まじエロスエロエロ。ノーゥあの目はやばいやばいやばい……オトサレル。オチたら喰われる。主に性的な意味で。もしかしたらちょっと肉も齧られるかもしれない。なにしろ獣人だし。
……いや、あれは恐ろしい日々じゃった……。
毎日そんな調子だったから、慣れまして、今はだいぶ平常心。たぶん。まぁ、前ほどは萌え萌えしてないよ。見慣れたからね。
キレイ目男子もチラホラいることはいる。
ゴツゴツした武闘派ばっかじゃなくて、細身の技巧派とか魔術師のひととか、普通の女性が受けつけやすそうな男性もたまに見かける。異世界人の血が入ると、そのあと数代くらいはけっこう華奢(こっち基準で)だったりするそうな。
でも、そういう細マッチョはうっかりするとティーンだったりして、あたし的には内心で必死に土下座だ。
基本こっちのひとは、ガッチリ・ムッチリ・ドーン・バーン・ズガーンみたいな大男が多い。獣人だからか。平均身長何センチなんだ。聞きたくないけど。体重の方はもっと聞きたくない。なんかコワイ。
女性も大きい。とりあえずみんな背が高くて、すらっとしたナイスバディとか、ボンキュッボンのダイナマイトバディとか、そんなん。適齢期のひとは。
ああ、口説いてきたひとの中にひとり、女性と見まがうような、すごい怜悧な美形男性もいたなぁ。
女性にしちゃデカイし筋張ってんだけど、そういうとこへ目が行かない。ちらっと視線が合うだけで心臓つかまれる妖艶さだった。
もうなんか恐れ多くて直視できなかった。あれは凄い。
そういうのに較べると、このクマ男は平和でかわいらしかったんだ。
……まぁ、あたしの目線が鳩尾らヘンにいっちゃうような、クマみたいな大男なんですけどね。だからクマ男なんですけどね。
このひとを恋人に選んだのは、ひとことで言って奥手だったから。
他のひとたちと違って、それっぽい口説き文句なんてのは一切なくて、ただひたすら「好き」「愛してる」「つきあって」「結婚してくれ」だった。
見た目通りのオッサンじゃなくて、実は若いのかと疑ったりもしたけど、そういうわけではないらしい。
なんか安心した。喰われるって感じがしなくて、一緒にいて落ち着くことができた。
きっと幸せなおつきあいができるだろうと思わせてくれた。
お蔭さまで、日本に帰ることをすっかり諦め切った異世界生活3年目、やっとこっちで人生のパートナーをもとうと決断することができた。
申し込みを受けて、つきあいはじめてからも、ヴァルサロムは予想通りに奥ゆかしく、なかなか手を出してこなかった。
ちゅーとか、手をつなぐとか、抱き締める止まり。
いやー、よかったよかった。他の連中だったら、つきあったら即だよ即。きっと即日喰われてたよ。
外見的には、でかい、ごつい、眼つき怖い、厳つい、威圧感ある黒っぽい配色のコワモテさんなのに、笑うとなんかカワイイし、ワンコっぽい言動が微笑ましいし、何よりあたしを大事だいじにしてくれる。
彼の隣はすっごく居心地が好かった。
見る目あったな、あたし。えらい、あたし。なんちゃって。がまんしてくれるヴァルサロムがもっとえらい、か。
「サロ、ほっぺついて――」
手を伸ばしかけて、はたと気づく。しまった。ここギルドの受付兼待合所。
いくらヴァルサロムがもしゃもしゃゴハン(屋台で買った)食べて頬っぺたに食べカスくっつけてても、職場ですからっ。あと、異世界人ってだけでモテてたせいで、いまでも常に注目浴びてますからっ。
彼に「つきあって」って言われてOKしたのもここでしたけどねっ。
……うかつー! これじゃ、バカップルだと思われるよ!
慌てて手をさげて無かったことにしようとしたのに、ヴァルサロムがひょいと顔を突き出してきた。
「……おう。ん。んっ」
え、ちょ、待て、待て待て。もしゃもしゃを嚥下したところで声まで掛けてくるから、ごまかしスルーできなくなったじゃないかっ。
いいのか! オマエはそれでいいのか!
「つ、ついてたよー」
開き直って自然にふるまってやろうとしたが、失敗したかもしんない。すごく空々しい口調になった。目も泳ぐし。
ぱくっ。
おう。
はい、お約束きましたー! あたしが取った食べカスをあたしの指ごと食ってますー!
ちょ、おま。そんな俺得なことすんな。無邪気で大胆とかアンタどこの小娘ですか。狼男に変身する巨漢が指ぱっくんちょとか心臓一撃必殺みたいな真似は今後きっちり謹んでくれ給えよ。よ!
「ありがとう、ユーナ」
ぺろっと唇をなめて、すかさずにっこり満面の笑み。うわ。うわわ。ひきつっていた顔がゆるむ。いかん、にやにやしてる。きっとどえらい顔しとるわこりゃ。みっともない。
ああー。でもむりー。ほわんほわんするよー。
思わずおでこ撫でちゃったけど、いいよね! 恋人同士だもんね! ちゅーとかしてるわけじゃないし、このくらいのスキンシップ、こっちのひとならめずらしくもないでしょ。
ヴァルサロムは濃い灰色の眼を閉じて、黒い髪と浅黒い肌に触れられるのを、気もちよさそうに受け入れてくれていた。
サロってほんとワンコみたいだよなぁ……。
きゅんきゅんして名残り惜しかったけど一旦終了。よそでするこっちゃないわ。しちゃったけど。堂々としちゃってたけど。
「ユーナ、撫でるのうまいな」
ああ、そんな「初めて撫でられました」みたいなこと、言っちゃっていいのかい。ほら、みんなびっくりしてるよ。おっと。それどころか、ぎょっとしてる人までいるじゃないか。まずいまずい。
ヴァルサロムがあたしに手を出してないの、バレちゃうんじゃないの。平気なの。男の沽券にかかわったりしないの。
裏でバカにされたりしないか、心配だなぁ。大丈夫かな。
「ぁ、あ……あとでまた、撫でてあげる、から、ね」
つっかえた。おうふ。
また、を強調してみたものの、どうだろこれ。うぅん。もっとそれっぽいセリフが浮かばないものか……浮かばないな。はぁ。
そもそも、つっかえたのと、言い馴れないセリフそのものからくる気恥ずかしさで、冷静に思考できてない気がする。うん、ムリだ。
「ユーナ……!」
ぎゃっ!!
しかも、なんか感激してくれたヴァルサロムに、ぎゅっとされた。
片腕だけで、ぎゅっとくっつく程度のぎゅっだったけど、ぎゅっはぎゅっなのだよこのかわいこちゃんめっ。鼻血でも噴いたらどうしてくれる。はずかしいのを通り越して恥辱にまみれるではないか。
でも、彼がにこにこしているのを見ると、何も言えなかった。
変身したヴァルサロムは真っ黒でとてもキレイだ。
全身くまなく真っ黒けで、爪まで黒い。ヒト型だと暗い色合いに見える濃い灰色の瞳が、漆黒のなかでは光を帯びて浮かび上がる。こういう金属ってありそうだなぁと、うっとり見惚れてしまった。
「にく……手のひら見せて」
「どうぞ」
こっちの意図わかんないだろうに、ためらいなく手を差し出してきた。
あ、やっぱり肉球じゃないや。
形は人間の手に近いもんね。爪は指の先端から鉤型に飛び出す獣仕様で、毛皮もさもさだけど。掌側には毛は生えてなくて、皮膚がぶ厚い。ヴァルサロムはもともとそうだけど、さらに厚さと硬さを増した感じ。あと真っ黒。手の皮も真っ黒だった。
黒くないのは、目と、口の中だけか。黒豹なんかだと、お腹の辺りはうっすら茶がかってたりするんだけど、まさか腹まで見せろとは言えないしなー。
「声、どっから出てんの?」
「口からだよ。口と喉。ユーナといっしょだ」
たしかに。ちゃんと口から声が聞こえてる。口もあわせて動いてる。
漆黒の狼男と化したヴァルサロムは、頭部は完全に獣型で、唇とか喉とかの構造考えたらどうして喋れるのかよくわかんない。声帯の造りが肝なのか。唇や舌の動きがなくても喋れる声帯ってなんか怖い想像しちゃうな。
というか、そもそもこの獣形ってのは魔法ありきなんだから、声もその一環ってことでいいか。うん。
「……しっぽ、あるんだ」
「あるよ。見るの初めてじゃないだろ」
くすくすと、ヴァルサロムはおかしそうに肩を竦め、しっぽを揺らした。
今日は彼の家に遊びにきている。
街の細い通りに面して建てられた素朴な感じの一軒家。入ってすぐが居間になっていて、奥に別の部屋へ続く戸が見えた。左手壁側には階段、二階もあるらしい。
右手の壁には暖炉があって、その前のソファ、テーブルが並べられたスペースへ案内された。
ちょっとドキドキして緊張していたら、いきなり獣形を見ておくかって聞かれた。異世界人は獣性が無いし、まだよく見たことはないだろうから、って。
願ったり叶ったりだった。
仕事中に戦闘になった時とか、街中でケンカ勃発した時とか、物騒な場面でしか獣形になるのを見たことがない。ヴァルサロムに限らず、みんなそうだ。普段の生活では基本ヒト形でいる。
だから一度間近で見てみたかったんだよね。っていうか一度じゃなくて何度でもいいよ。飽きるまで見てみたい。見倒したい。
自ら申し出てくれるなんて、ほんとに彼は気が利くよね。大好きだ。
「あれ……。しっぽ、窮屈そうだね」
当然だけど、ヴァルサロムは服を着たままなので、しっぽの生えているところは服のなかだ。ズボンの隙間から飛び出している。
しっぽ専用の穴とかは無いらしい。
だよねー。あんなところに穴つくっておいたら、うっかりぱっかり開いちゃいそうだよ。座ったり立ったりの度にひっぱられるもんね。
「そんなでもない。外出着は伸びるからな」
そうそう。しっぽ以前に、獣人の獣形に変身すると、2回りか3回りくらいでっかくなるんだけど、それでも服やぶけないんだよね。伸縮性がすごいみたいで。ヒト形に戻っても、伸び切ってたりはしない不思議。
「寝巻きとかは伸びないの?」
「ん? オレは着ないな。裸で寝てる。いざって時は、獣形とればいいし」
「ふぅん。これ、下着も伸びるの?」
「伸びるよ。伸びなきゃ困る。むしろそれが一番肝心だな」
ウケたようだ。がはは笑いされた。そうだね。食い込むとこ想像したら吹いたわ。
しばらく笑ってから、ふとヴァルサロムは真面目な顔をした。あたしの方をうかがうように見る。
「なあ、ユーナ。……怖くないか? 大丈夫そうか?」
「ん? え?」
「オレのこと。獣性無いんだろ、ユーナの世界じゃ」
「無いよー。ねぇ、しっぽ、さわってもいい?」
「……いいけど」
そっとしてくれよ、なんて乙女かオマエはってなヴァルサロムの言葉を聞き流しつつ、あ、ちゃんと聞きつつ、そうっとしっぽに触った。
おう。ふっかふかだぜ。狼ちゃんめ。ふっかふかのもっふもふではあるまいか。ああ、そっとして、なんて言われてなければ、このふさふさに顔を埋めてやるのにさ。
「あ、そだ。べつに怖くないよ。ヴァルサロムは平気」
「……オレは」
「そう。サロだけ、なんか大丈夫。ほかのひとは、ちょっと怖いかな」
「オレ……オレだけ?」
「そーだよー。だから、サロのお申し込み、受けたんだよ」
「オレ……だけ……」
ふわわぁっとしっぽが膨れた。お、なんだなんだ。ヘンな触り方しちゃったかな。慌てて手を離した。
サロはなんかぷるぷるしてる。
うは。しくった。どうしよう。二度としっぽ触らしてくんなくなったら。あ、ちがうちがう、そうじゃなくって。そんなに嫌な触り方しちゃったんなら謝らないと。
「サロ――とおぅ、くっ、おっ……!?」
いきなり抱きつかれた。ブハッ。もふもふ。いまのヴァルサロムの狼ヘッドの襟首周りって、見事にもっふもふ。何というゴージャス。そこへ抱きよせられて、いいいいいんですかダンナっ、あたしゃ頬っぺたのこの感触をたのしんじまいますぜ。そんなに無防備にもふらせて後悔したって知りませんからねっ。
ああ……もふもふさんキモチー!
にゃふにゃふ言ってたら、ヴァルサロムもなんかおかしいと思ったらしく、ぎこちなくもぞもぞしていた。でもあたしの背中と腰に回した腕はほどかないところがオトコだよねー。
「ユーナ……オレのこと好きだよな?」
「好きだよ」
「うん、わかった。……オレ、一生放さないからな」
「そうだね」
「……一生だよ?」
「そうでしょうともよ。ところで、もうちょっとこう、襟元ひら……待てよ、趣に欠けるな。そうだ――暑くなってこない?」
古典的だが、古ければ趣があるものだろうか。我ながら、口説き文句のセンスは皆無だ。獣性が皆無だと、センスも無くなるんだろうか。こっち来たら突然魔力があったみたいに、こっちきたら突然なくなるとか。
……うん、べつに昔からあったことないわ。
「暑く? ……なったみたいだ」
「お、マジで?」
「ユーナ、その言い方しちゃうとさ」
「いいからいいから。暑いなら脱ごう。ほら、あたしが手伝ってあげるから。さあさあさあ」
「なんか怖いんだけど、ユーナ、目が怖いんだけど」
「気のせいです。ねえ、ほら、やさしくするからさあ」
「……ユーナ、それ、オレが言いたかったセリフだ」
「あ、ごめん。聞かなかったことにして。じゃあ、思い切り行くよ!」
思い切った。
「……ユーナぁ……」
「何ですか」
「うぅ……責任とってよね……」
「はいはい。お婿さんにもらってあげるからね」
「うっ、ひでぇ。それもオレからもう一度言いたかったのに」
「なら、前ふりしちゃダメでしょ、前ふりしちゃ」
「うぅ……ユーナのいけずぅうおっ……!!」
いけずですが、何か?
ヴァルサロムはやっぱ可愛かった。あー、満足まんぞく。満喫したわあ。
あんな図体しといて、子犬みたいな声出しちゃって。あー。思い出しゾクゾクしてきた。うあ。反則、反則。なんというかわいこちゃんぶりだ。あんな凛々しい狼面しといて、うるうる流し目したりしないでほしいよね。ついうっかり慰めてしまったではないか。本気で。
なのに、そういう意味じゃねえとか怒って、急かすなんて。ふっふふ。やっぱりカワイイ子犬ちゃんなんだから。むっふー。
えー、経過説明ですが、まず強引にヴァルサロムの服を剥ぎ取りました。
なんかごちゃごちゃ言ってたけど、しっぽが喜んでたし、どんどん行ったよ。文句たれつつも、脱がしかけの服でイイ感じに拘束感を出したら、目つきがとろんとしてきたし。
うむ。ワンコなサロはご主人様がほしいタイプ。ソフトに真ん中(どこのとは聞くな)踏んで、両手で頬の辺りを撫でくりまわしたら、だらしなく舌を出してた。
それから、漆黒の毛皮におおわれた半裸をあちこちもふり倒して、体をすりつけまくって、毛と筋肉の感触を思う存分に味わい尽くし。
無論のこと、我慢限界に達した狼さんに押し倒し返されたけど、体格差の壁に阻まれてイタさずに済んだ。
はっはっはっ。
それ見越してたあたし悪女。泣きそうなヴァルサロムかわいそう。
あんまり気の毒だったんで、思わず「獣形やめたらいいんでない?」ってアドバイスしちゃったわ。
でもやっぱり、体格差はあって、最後まで出来なかったんだけどね!
って、今後どうすんだろう……?
うーん、まあ、それはともかく、初のお家デートで微エロイベントこなしたから、ちょっとは進展だよね。
ヴァルサロムったら、奥ゆかしすぎて、こっちが欲求不満になりそうだったよ!
ていうか、欲求が不満したので、黒狼さんを押し倒しましたって話だな。おしまい。