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一章 9

背筋に鳥肌が立った。

急な寒気に襲われた。

黒猫が鳴き声を上げた。



女のカンだ。必ず厄介なことが起こる。




「貴方家のカワイイ勇流の携帯からどうしてビッチの声が聴こえてくんだよ誰だてめぇ勇流の彼女か家の勇流をたぶらかしやがったかこ――」



気がついたら電話を切っていた。多分、人体の防衛反応が働いたんでしょう。これ以上、自分の母の姿を見たくないという拒絶。声だけでどんな怒鳴り方をしていたのか理解できたあたり、やっぱり親子か。


一旦母の話は置いておいて、この電話で新たにわかったことが数点。


まず、私の名前。勇流。橘勇流。これが私の男性時代の名前のようだ。言われてから思い出すなんて、案外自分の名前って忘れてるものなのかな。

次に、母さんは私の男としての記憶を持っている。それも、声とかそういったものまで確りと。でないとあんなに怒り狂わない。

これは、男性としての『橘勇流』が存在していたという証拠になる。

では、今の私、『橘瑞穂』は一体何者なんだろう。


状況を整理していると、正志はある可能性を言った。

意外と推理物が好きでよく小説を読んでいたりテレビドラマを見てたりする正志は、その影響なのか物事に鋭い、たまにだけど。



「親密度の高さがかんけいしてんじゃね?」


「なにそのRPGとかギャルゲーとかに出てきそうなポイントは。とうとう二次元と三次元の境界線が曖昧になった?目の前に曖昧になりそうな実例がいるのも確かだけど、やめなよ。みっともないよ」


「つまりだ。お前との知り合う期間や内容の濃さに比例してお前が男性だった時の記憶、いや、今の女性としての姿が認識されていないんじゃないかってことだよ。お前の母親って、お前を溺愛してるだろ?」


「いきなりだね。まぁ確かに、溺愛されて、たな」



幼き日々の、あの黒歴史が蘇る。



「お前のトラウマやらはいいんだよ。対して俺とは大学に入ってからだろ?流石に親密度では母親には勝てんよ」


「その親密度って、止めない?なんか気持ち悪い。男女の仲みたいで、背筋がゾクッとする」


正志と男女の仲。

これは、相当くる。

あ、想像するんじゃなかった。今まで友達だと思っていても親友にある日襲われ、そして…。



「サイテー」


「いきなり人を貶すな。それ多分俺がわるいんじゃねぇし。話続けるぞ。つまりだ、お前と親しい関係の人物は、お前が男の時の記憶が残ってて、関係が薄くなるに連れて記憶も曖昧になっていくんじゃねぇの?」


「で?」


「で?」


「だからどうすれば、私は元の戻れるのかい?」


「それは」


「それは?」


立てた指先がゆっくり私に向けて倒れていく。私の眉間を指先の延長線が捕らえると、一言。


「わかんない」


「ファック!」


私の拳が正志の頬を修正してやった。

情報は段々と集まってはいるけど、肝心な中核、原因はさっぱりな状態。

学生な身分では、高度な科学技術やら最新の論文なんて手にはいるわけがない。やれることは限られている。

そして、その限られた内容もすぐ底をつきそうだし。あとは、ダメもとで病院に駆け込むか?


脳外科?精神科?内科?


たらい回しにされそう。

大体、いきなり「私実は男で目が覚めたら女になってました!」といってはいそうですか、と信じるだろうか。あ、このやり取り前もやったっけ?



「唐突なんだが、いや、はじめから気にはなってたんだが」


「ん?なに?今私は人生の悲劇に絶賛悲観してるんだから。じゃましないでよぉ」


「お前さ、なんか、ちっちゃくね?」


私の男だったころの身長は172.5。中の上、並、なかなかの身長だった。

今はどうだろうか。

正志の手をかりて、手のひらを合わせてみる。第一間接が披露されるかどうかという謙虚な大きさじゃないか。

あれだ、あれ。女の子だからどうしても小さくなっちゃうんだよ。それに正志指は長いし。

ウィンドミラーを覗く。

正志の頭一個くらい下に私の今の顔が映る。



「ちょっと表出んかいなー!!」



そして背比べ。




「なんとぉぉぉー!!」


結果、惨敗。

そう、目に見えて、私は若返っていた。おば様方に言ったらキャーキャー騒がれそう。

羨ましいとか言いやがったら、全身全力のキックをお見舞いしてやろう。

状況が、更に悪化した。

もうやだ、こんな世界。

あり得ない現実にうちひしがれている中、着信音が唐突に流れ出した。

母さんかな、とろくに確認もせずに電話に出た。




「いやはや、すまんすまん。手が滑って中途半端な設定になっちまった。あいやさーせん」




聞き覚えのある、いや、直感でわかった。この声は、この電話の相手は。


「あらら、また反応なしですか?いいましたでしょう、反応がないと話を拡げられないと。私はトークは好きだけど独り言は嫌いなのよ、わかってる、橘勇流?」


「単刀直入に聞く」


「今は橘瑞穂かな?おぉ、前よりは早く返してくれたねぇ、そうでないと会話が楽しくない、愉しくないんだよ」


「お前は誰だ」


相手の話なんて聞く耳持たず。出来るだけ低く、大きな声で、感情をのせて言い放った。

それが効いたのかはわからないが、相手のマシンガントークは止まった。


しばらくの沈黙、とはいっても実際は精々3、4秒の間を置いて電話の主は先ほどの声のトーンとは数段買い下げて言った。





「今から、会おうか」







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