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一章 7

正志の車に乗り込んだはいいのだけれど、これからどうしようか。

病院、とはいったけど行ってどうする?受け付けでの「今日はどうされました?」に対して「いや、実は朝起きたら女性になっていまして。どうにかしてください」とでも言うのか?

間違いなく、追い返されるんじゃないかな。だって意味不明だし。もしかすると営業スマイルは崩さずに、そのまま精神診療科にまわされるんじゃない?

とにかく、今のまま病院にいっても何の解決にもならない、そんな気がした。

じゃあどうする、そう、どうしようか。


「とりあえず、役所で身分証明書なりなんなり取ってみたらどうだ?学生証は?」


「学生証、置いてきた。写真写り悪いから見るのいやなの」


「なら、とりあえず市役所か」


「はぁ、マジで頭痛くなる……」


おでこに手を当て本日何度目になるか数えるのもバカらしくなるため息を大きく吐いた。


と、気が付く。今、私は女性なわけだ。



男性と女性の体の構造は、思春期、第一次成長期を境に差が生まれる。男性で有れば、背が延びたり肉付きが変わったり、肩幅が広くなったり、急所に毛が生えたり、そんな変化を身体が襲う。

思春期なんて、そんな変化の一つ一つに一喜一憂してたりするわけ。因みに私は急所に毛が生えた時、あまりの衝撃についつい近くにあったハサミでその毛をカッティング、今では笑いはなしにもならない黒歴史の一つとなっている。

そして男性に変化があるように、女性にも当然変化が生じる。腰の括れに胸の膨らみエトセトラ。

この男女の身体の構造差がそのまま異性への魅力へと変換される仕組みとなっている。



前置きが長くはなったけど、今私は女性なわけだ。うん、認めたくはないけど、女性なんだ。

しかし、元は男な訳だ。20年間ほどは男として生きてきたわけだ。男としての自覚が備わっているわけだ。





もみっ





今は自分の体の一部となった、女性特有の胸の脹らみを鷲掴んでみた。感想としては、豆腐よりは固く、水風船よりは軟らかいかな。いや、意外と硬い?




もみっ





脂肪の塊、そう思っていても何かしらの魅力を感じられずにはいられない。中に脂肪ではない別のもの、しかも依存性のある新たな物質でも入っているんじゃないだろうか、と疑いたくなるほど、恥ずかしながら病み付きになる。



「なにしてんだよ」



こちらを見ずに運転中の正志は言う。



「全国の男子諸君が夢見る胸鷲掴みを実行してみた」



私は素直に答えた。目の前に、手の届く所に在ったらいくだろう。男として。あ、今は女か。



「自分の体に欲情って、哀しくならないか?」



「ははは。哀しくないわけないだろ」



哀しさよりも好奇心の方が強かっただけのこと。哀しいに決まっている。



「触るか?」



「生憎、間に合ってます」



「つれないなぁ」



「今度から痴女って呼ぶぞ」



「あ、それ女として言われると結構ズシンと来るわ。最近髪薄くなったね、って言われる位はダメージあるよ」



「なんとなく訳がわからなく例えはやめい」



「人の親切心を無下にするなんて。正志くんがそんな人だったなんてヒドイ!」



「あ″〜、頭が混乱するからやめてくれ。親友が女に変身しただけでも入院ものなんだから」



そんなこんなで車を進め、正志といつもと変わらないやりとりを続けたおかげで気持ちも大分落ち着いてきた。

ウィンドに写る自分の顔を見る。自分で言うのもなんだが、可愛い。うん、私かわいい。



それがせめてもの救い、か。







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