一章 6
「これって、つまり…どゆこと?」
「……取りあえず、状況整理、しないか?」
「そ、そうね、それがいい」
人間、人知を超えた現象を前にすると思考が停止するものである。今の私と正志の様に。
先程まで散々現実逃避をしたおかげでこの写メに写る女性は、自分なのだと分かった。認めたくないが、他に現実から目を背ける方法を持ち合わせていない。認めるという選択肢しか残されてはいないのだ。
半裸の巨人の夢から始まり光の球体で目が覚めて、大学行ったら休講で、正志と合流して事の事態を把握した。聞いていた正志も訳がわからないだろう。私も訳がわからない。
「まさかと思うが、その夢が原因とか?」
「そんなオカルト、どう信じろって? それにしても、案外冷静ね」
「自分でも驚くほどにな。確かにまだ混乱してるんだが、こう、なんか妙なんだよ。その姿が当たり前みたいな感覚? そのわりには違和感ありまくりってのもあって、二つの感覚がグチャグチャにいがみ合ってる感じだ」
「よくわかんない」
「つまり、よくわかんねぇ感覚っつうこと。他の写メも確かめてみたけど、全部ああなってたぞ。気持ち悪い」
「キモい言うな。けど、確かに考えると変だね」
恋愛経験は近似値0、彼女いない歴は年齢と平行という寂しい青春を過ごしたわけで、他人の下着なんて触ったこともない人間が、ブラジャーを着けることはできるのか。
それ以前にそんな男(元)の部屋にブラジャーがあること事態変である。私にそんな女装癖や性癖はない。
ブラジャーだけではない。服もそうだし髪もくくれない。ていうか何で長い!
私はセミショートが好きなんだ!
これはもうホラーものだ。
本当は実は元々女性だったとか?
「気付くわ。気付かない訳がないだろ、こういっちゃあなんだが、多分今のお前は可愛いグループに属するぞ。そんなのに気が付かないほど女性を見続けてねぇよ」
「今私は貴方のその素直さに感心したよ。気持ち悪いけど」
「気持ち悪いいうな」
「だって、昨日まで普通に友達してた人からいきなりかわいい宣言されてみぃ。こう、背筋がゾクッと鳥肌立つって」
正志は冷静に突っ込んだ。最後の自慢がムカつく、そして気持ち悪い。
私も自分の体を扱ってはや20年は越える。さすがに、性別間違いはない。立派な息子を付けた美少女なんて空想上だけで十分だ。
自分の事を美少女と例えてしまった。ますます気持ちが悪い。
こんな状態では講義なんて受けにいけない。教室に入って私の異変の気がついてくれるのならそれはそれでいいのだけれども、普段道理に接しられたら、それだけで泣きそうに、いや泣くでしょう。
そして、恐らくは後者の状況になるんだろうと予想はつく。
女のカンはよく当たる、とはいうけど女になってみて納得した。イメージがピキンと光って頭の中に映り何かに後を推されているような感覚、感性、なるほど、女のカンは凄いみたいだ。
けど、なんでだろう。男として生を受けたからには中々味わう事のできない貴重な感覚を体験したというのに、泣きそうになるのはなんでだろう。
こういう発見の一つ一つが、私がもう昨日までの私出はないことを如実に示してくれているからなんだろうね。
肘で支えながら、頭部が脱力してまたため息。今度のは大きい。
「一応、病院にでもいこっか」
「その上目使いはやめろ。いややめてください。お前にドキッとするのって、結構かなり、マジで嫌だから」
正志のそのうぶい反応は、からかう理由にはもってこいだった。少し気も滅入っていたところだし、気晴らし程度に弄ろう。
「いいじゃない、いつものことでしょうが。なに、惚れる?」
「冗談はその姿だけにしろ」
「わりと冗談にならなくなりそうなんでしょ?だからやめてってお願いしたんでしょうか。自分の気持ちには素直になりなさい?」
「おれ彼女の席には予約が一杯で座りきれないから残念でした」
「いけず〜。あの夜は、二人であんなに熱くつきあったじゃない」
「無理矢理淫乱な想像を連想させるように事実を伝えるな」
「間違ったことはいってません。責任、とってもらうわよ」
「…なぁ、お前ってもしかして、前から女装癖とか、お姉系に憧れていたりしたのか?随分気持ち悪いくらい女口調で話せてるな」
「諦めと、妥協だよ」
「イヤな妥協点だこと」
「早く馴れるからいいの。んじゃま、ダメ元で行ってみますか?」
「サボりか?」
「自分の存亡に関わる重要な用件のための、講欠です」