四章 1
私は、その話に突拍子のない曖昧な声を上げた。
その声は、大変異声だったのか二人とも一斉に吹き出した。
「今のどうやって出したの?いきなり変な音するからビックリしちゃった」
「ホント。人の声じゃないみたい」
普段滅多に表情を崩さない春日さんも笑っているから、余程酷い声だったのだろう。でも、そんな恥ずかしい事よりも今はその前の話に気を取られている。
「でも、瑞穂ちゃんも唐突に変な声出さないでよ。そんなに驚く話だった?」
クスクスと音が漏れないように口元を抑える高坂さんをとは対照的に、私は酷く中途半端な表情になっていた。
「いや、その、まさかタイムリーに聞くなんて思ってもいなくって。それどこで聞いたの?」
「さっき校門前で先生にあってその時聞いたの。これから緊急職員会議だーって何度もため息垂れてたよ」
「今回は、警備員に見つかったらしい。階段から落ちて、頭に軽い怪我だって。その生徒は自宅謹慎」
「夜中に学校に忍び込んでなんて、よくやるよねぇ」
「単に、暗い中で足下滑らせただけじゃないのかな?」
「その忍び込んだ生徒曰わく、『何かいたんですッ!追ってきたんですッ!』って警備員に泣きついたんだって。幽霊でも見たんじゃないかって頭抱えてたよ先生」
そんなはずはない。そう言いそうになったけど、喉元で堪える。
現に、怪我をした生徒に加え、証言もある。真意は後でその生徒に聞く事にして、もしも本当に幽霊を見たのなら、まだ残っていると言うことなのか?
チャイムが鳴る。
談笑に区切りをつけ、各々の生徒は自分の机に戻っていく。私は、なんともスッキリとしないモヤモヤを片隅に残したまま、着席する。
夢麻は、まだ登校していない。なにやら所用があるらしい。昨日捕獲したカタスの報告やらがあるようだ。とりあえず、まず早く夢麻に会ってこの事を伝えたい。
担当の先生が入ってくる。一限目はいきなり英語。
そういえば、と先生をキーワードに頭の中から一つの記憶が甦ってきた。門脇先生の話だ。
そういえば、あの人は幽霊を見たのだろうか。