三章 7
おかしい。
倒れないのもそうだけど、貫かれる瞬間、貫かれた後も一切動揺や動きに変化が表れていない。
痛感が無いにしても、避けようとしたり、反撃に出たりといった行動が全くない。
ただ、此方に向かって歩いて来るばかり。それも、一歩一歩ゆっくりと。
回避も、痛感も、反撃もない。
では、こいつの初手は一体何だったのか?
確かに夢麻に斬りつけて来た。私も危なかったが、思い出してみれば、私からはギリギリ当たるか当たらないかの間合いではなかっただろうか。
そもそも、夢麻を狙っていると考えていたあの一撃は、違ったのではないか?
その一つの疑念は、水滴が水辺に垂れる波紋の様に思考に広がった。
「夢麻ッ!ちょっと待ってッ!」
声を張った。
その声に、夢麻は追撃を構えて止める。
これまでの目撃証言、体験談、そして今の出来事。
少し危険かもしれないけど、大丈夫。多分、いやきっと。
網に手を掛ける。しっかりと両手で握りしめる。呼吸も覚束ないけど、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせ、網を構える。
ゆっくり、一歩一歩歩み寄る音は、次第に大きくなっていく。
網の間合いは覚えてる。目測は、十分。
呼吸も落ち着いた。足の震えは武者震い。私の思考が導いた解は、合っている。そう、だから大丈夫。
ニヤけていた。
無意識、というやつだろうか。それとも、脳がなにかを分泌した影響なのか。はたまた、身体が自分の支配下を脱し起こしたのか。
それとも、この解で正しいという証拠なのか。
入った。
振りかざした網を脳天目掛けて思いっきり振り下ろした。