表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/50

三章 5

真夜中の校舎は、それはそれは不気味な雰囲気を放っている。それは、明るさが大いに関係しているんだと思う。

昼間、太陽の日の光が照らしつけているその時は、校舎はしっかりとその姿を表す。それに対し、夜にある明かりといえば、非常口を知らせる緑の光、消防ベルの赤い光程度。あって月明かりだけど、校舎の全てを照らすには至らない。廊下の端々は暗く不明確。先も見えないとくれば、恐怖心を焚きつけるには十分だ。

早く、帰りたい、


「夜の校舎はテンションが上がりますね」


「それでテンション上がってるのね。私にはわからないけど」


「上がりませんか?」


「全然」



視線を落とすと、視界には手に握られた虫取り網の様な物が。見た目がそのまんまだし、他に良い例えも思い浮かばない。夢麻も思いっ切り虫取り網って言ってたし、もうそれでいいかな。

重くはない。試しに二、三度振り回してみたが、シュッと綺麗に振り切れた。

これで、捕まえろと言われているけど実感が全くわかない。一歩引いて事のあらましを眺めている気分だ。



「実際本当に出てきたとして、抵抗とかしたらどうするの?」


「抵抗出来なくしますから、その後ちゃんと捕まえてください」



シャドーボクシングを私に見せながらあっさり言ってくれた。何これやだ頼もしい。

ならついでにこの網ももってほしいんだけど。出来れば独りでやってくれたりしないかなー!


「そうは問屋がおりないよねぇ」


「あ、やっぱりテンション上がってますね」


「これはヤケクソですから違いまーす」



警備員が徘徊する時間帯はすでに把握済み。いざとなったら校舎に侵入した時のように夢麻に任せれば、きっと大丈夫。

目を瞑っている間に何があったのかは、知りたくない。怖いし。

情報だと、主に上の階で遭遇しているようなので、先の見えない真っ暗闇を突き進む。

懐中電灯などは、バレやすいので使えない。だから月光と己の目だけが頼り、なんだけど頼りないよ。



「この、辺りですかね」


「大体の場所とか判るの?」


「対して役に立ちませんけど、一応は」


「私は戦力外なんだから、頼むよ?」


「戦力外の癖に最後の捕獲失敗しやがったら――」


「……しやがったら?」


「裸エプロン姿で1日奉仕させます」


「なんで?!かなり精神的にダメージデカい罰ゲームだよ?!」


「ミスしなかったら、写メだけで許します」


「はいは〜い。……あれ、それ私の裸エプロン決定してない?」


「じゃ、そゆことでヨロシク」


「いやだから―――」






言葉を遮ったものは、夢麻の背後に表れた存在。

微量な月明かりでも、しっかりと浮き出る紅い模様。肉が浮き出る程の切り傷からは、未練がましく活動を繰り返す。混濁の血染めは皮膚に張り付くき、最早一体化している程。

がっぱりと空いた頬は、微かに白い部分を残している。それが、顔の一部だと言われた所で理解できようか。

剥き出しになったその肉が、皮膚の殻からはみ出し、行き場を失う。そんな腕でも刀を握りしめたままなのは、この世に未練があるからか、憎悪がそうさせるのか。

人間と呼ぶには、余りにも醜くなり果てたそれは、大きく振り上げたその刀を迷いなく、叩きつけるように振り下ろした。

動けたのは、脳からの信号ではなく、脊髄からの反射のおかげだった。後方に上体を反らしたまま飛び跳ねる。

夢麻は背中に目があるかの様に身体を捻り、剣線の軌道を数センチ置いてかわして見せた。数秒遅れて木霊する、剣先が空を絶つ鋭い音と共に私は初めて反応に至った。


それは、間違いなく幽霊とか化け物とか、そんな類のものだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ