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三章 2

放課後、春日さん達と一緒に文芸部に向かった。

帰ろうとしていやがった夢麻も、勿論捕まえた。

高坂さんと春日さんにも門脇先生について聞いてみたが、休職理由も骨折に加え、体調不良が重なったためと伝えられていたようだ。

なんでも、影が薄いというか、存在感が薄いというか、半年近く授業を受けたというのに、印象に残りにくい先生らしい。ただし、生徒の評判自体は悪くなく、授業も丁寧でわかりやすい。但し、少しペースが遅い。

私の学年の他に、もう三クラス担当していたようで、副担任も任されているようだ。

門脇先生の話を聞いていると、高坂さんが風の噂に聞いた話を思い出したようで、口を挟んだ。

「そういえば、門脇先生ってゲイって噂があったんだよね」


「………それ、初耳」


「あやめちゃん聞いたことないの?ま、噂っていうか陰口っていうか、ほら、門脇先生無口だからさ」


「それは関係ないんじゃないのかな?」


「でも男子生徒と二人だけで空き教室入ったり、夜遅くまでのこってたり。運動部の姿見てるから遅いとか言われてるし。スポーツジムに通ってるって話し出し」


「言いたい放題。酷い」


「私が言った訳じゃないよ。みっちゃんやさっちゃんにも聞いてみなって」


春日さんに必死に抗議する高坂さん。でも、はいはいと右耳から左耳へと聞き流しているのが丸分かりな春日さん。だってメガネの奥の瞳は真っ直ぐ前を向いている。その直線上に飛び出してアピールする高坂さんの頭をグイッと押し出すアグレッシブさまで見せている。

こっちの方が正直見ていて可哀想である。

邪険にされる高坂さんが、寂しそうにうずくまるウサギに見えて、カワイかった。だから、声をかけて慰めることに深い意味はなかったのだ。

よしよしと頭を撫でると、黒髪が指の間をスルスルと通り抜けていく。何の抵抗もなく通り抜ける自分の指に、思わずドキッとしてしまった。それは、こんな綺麗系女子高生の頭をを合法的に撫でている事実に、微かにのこる男子成分が反応したからだ。別に変な意味はない。

改めて、女子高生の魔力の恐ろしさに恐感した。


「みずきっちみ〜っけた!」


「うわぁっ!」


突然後ろから抱きつかれた。こちらは、疚しくはないが、やらしくはないが、卑しくはないが、変にドキッとしていただけにビックリしてしまった。

首を回すと、文芸部に私を誘拐していった実行犯の1人、美月さんがニヤリとしたたかな笑みで抱きついていた。

満足なその顔は、こちらにため息をつかせるには随分効果的だった。後ろに控えていた夢麻を見て、してやったりと親指を立てグッとした時、無表情ながら同じポーズをする夢麻。あんたも共犯か。

すると、心の声が聞こえたのか、口パクで一言。


『ヘンタイ』


今度はため息ではなく、失笑した。


「あらら?なんだいその喉からポロリと落ちた空の笑い声は?」


「何でもないです。とりあえず、降りてくれません?」


「は〜いはいっと」


意外と直ぐに降りてくれた。

そして気がついた事がある。美月さんに飛び付かれた衝撃で、撫でていた高坂さんの頭が、事もあろうか私の胸にスライドしたではないか。

以前の私ならば、さして問題ではない。男子の胸板は、真っ平ら。しかし、今の私は花盛りの女子高生。

胸元には、巨大な程ではないが、程よくふくよかな脂肪の集合体が二つ程育っているではないか。

私と高坂さんの立場が逆ならば、全国男子が憧れるシチュエーションであろう。私も憧れる。

しかし、やる立場とされる立場ではその衝撃は、受ける印象は全く逆である。

………………………洒落にならないくらい恥ずかしい。

体感時間にして十分。実際は十秒も経過していないだろうが、羞恥心は時間の壁にすら干渉してくる。

身体の動かない私と同じく、うずくまったままの高坂さん。

次点、うずくまる状態を維持しつつ、両腕が大きくゆっくりと振りかぶる。そして、今度は素早く的確に振り下ろされた。

私の脂肪の集合体×2へと。


「ヒャイッ!」


生まれてこの方、女性の胸を揉んだ経験も、ましてや揉まれた経験もない。

その経験したことのない、新しい感覚に恐怖した。恐怖が、絡み付くようなその新しい感覚に寄り添っている。


「橘さん、意外と立派なものを隠し持ってたわねぇ〜」


揉み砕くとは、まさにこの事。

高坂さんの指という指が、脂肪の集合体に襲いかかる。

本日、新名橘瑞穂、新しい感覚を覚えました。




めっちゃはずかしいいいいいいいいいっ!






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