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一章 4

怒鳴りたくもなるだろう。


朝から汗ダクダクになって講義室に来てみれば『残念今日はないんです。額に溜まった汗でも拭いて出直してきやがれ』。そういえば、先週休講である旨を講師が言っていた気もしないでもない。


……多分していた。


ぼんやりとだが、講義の終了直前に来週は休講ですので、という講師のセリフを聞いて「これで朝はゆっくりできるよ」と正志にぼやいていた光景が記憶に残っている。

朝のあの不気味な夢のインパクトが大きすぎてすっかり奥に逃げ込んでいたようだ。

憎むべきはあの半裸の巨人。変態め、なんなんだよアイツ。


仕方がなしにメールを返信。一限がない場合、昼を挟んで三限まで講義がない。暇だ。

講義室には私以外にも2、3人ほどの学生が立ち尽くしていたり携帯をチェックしていた。私と同じ状況なのだろう。何度か見たことのある顔だ。

メールの返信が返ってきた。学食でまったりしているらしい。

こんな朝早くから、休講なのに大学内にいて、暇をもて余している?



なんとなく悟った。あいつも同じ仲間か。



アパートから出た時は急いでいたので気がつかなかったが、外は久々の晴れらしい。心地よい天候ではあるが、一限の講義中のためか学生は疎らだ。それほど大きくはない私立大学なので、当たり前といえば当たり前。他の大学がどうなっているのかは判らないが、大きかったり国立大学ともなれば人も多いだろうし、それに比例してこうぶらついている輩もいるんじゃないかなぁ。

先程までの全力疾走の代償にやたらと身体が暑く、おまけにこの晴天。直射日光がビンビンと身体の火照りに輪をかける。

上着をパタパタと動かして風を起こすと、これがまた気持ちがいい。しかし、いつもよりも体感温度が高い気がするのは何だろうか。汗の影響?それともこの天候?

久しぶりの日光に身体が上手く対応仕切れていないのだろうと結論付け、目的地の学食へとたどり着く。もともと大した距離ではないのでアッサリと着いた。



「ん?どうした正志?」



学食の入口近くの机に正志は座っていた。というか、寝ていた。予想通りこいつも休講を忘れてやって来たのだろう。確りとメモなりスケジュール帳なりに書いておかないからこうなるんだ。人のことはあまり言えたタチではないが、ほら反面教師的なアレだ。人のふりして我が身を直せ? 少し、ニュアンスが違う気がする。

人様の気配に気付く様子のない正志によっ!、と声をかけるが応答はない。メールの返信が来たのがついさっき、3、4分前のはずだが、その短時間で寝たというのか。ある意味恐ろしく、羨ましく、そして全く役に立たない特技だなぁ。

再び声をかけるがピクリとも動かない。マジ寝かよ。本当に無駄に凄い技術だな。仕方がなしに正志の肩を揺らした。驚くことにマジ寝らしく、それでも起きるまでに数回揺らすことになる。

クイッと上体が起きる、訳がなく頭だけを上げて軽く首のストレッチ。

そしてようやく、いかにも眠いと主張する目が私を視界に捕らえたところで改めて挨拶。


が、しかし、なんだろうか。表面的には代わりがないのだが、何だろうか、こう、雰囲気?感じ?どう言えばいいのだろうか。

普通、友人を視界に捕らえると睡眠を主張する目から覚醒するもの(正志特有の反応なのかも知れない)だが、覚醒する気配がない。

するのは瞬きのみ。何だろうか、この微妙な、妙な間は。

その間を埋めるため、声をかけるは先ほどのセリフ。


そして、返ってきたのはこんなセリフ。



「え〜と、誰?」



ボケか?これはツッコまないといけないのか?そうなのか?

いやいや、それにしては顔がマジすぎる。眠そうな半開きではあるものの、決して冗談などを言っている目ではない。それ以前にこいつにそんなユーモアセンスはない。いや、変な方向のユーモアセンスでも開花させたのか?

見しなぬものを見つめる目線というのは、見られる側としてはイヤなもの。出来れば、というか早急にその視線を黙らせたなくなった。実力行使で。



「何の冗談だよ。どこからどうみても――――」




それは当たり前のように、喉のどの部分にも引っ掛からずにポロリと零れた。さも当然のように。



「橘瑞穂以外の何者でもないだろ。このばか……ち…ん……」




握り締めた拳が静かに降りた。





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