二章 15
どうやら、幽霊騒動の怪我人がここに運ばれ、入院しているのは確かなようだ。
流石に名前は伏せられたが、それでも有益な情報は手に入った。
最初に運ばれた生徒は男子生徒一名。時期は、噂の広まり始めた1ヶ月ほど前。階段から落ち左足をやってしまったらしい。
但し、不自然な点があったと首を傾げる。
その生徒は階段から落ちた際に気を失っていた点。
見つかった場所は、この病院の夜間の入り口であり、学校の階段から落ちたという場所から離れていた点。
そして、その時間に119番がかけられていた点である。ただし、無言電話だったらしい。
「やっぱり、『あれ』のしわさなのかなぁ」
「可能性の一つとしては。しかし……」
「どうかしたの?」
「先に説明したように、具象化した『カタス』は『エス』、つまり人間の無意識にあり自由意識が同種でまとまったものなんです」
「具象化するほどの『エス』が集合したと言うことは、ある『エス』を多数の人間が、ほぼ同じく意識していたもの、というわけですよ」
「つまり、行動が単純である、と」
「そう。『驚かす』『現れる』『イタズラする』という根本の目的が存在し、それに向けて行動はします。ただし、『どうやって』『誰を』『何を』といった不確定要素に関してはそのとき集まった『エス』の中で最も多い要素で決まります」
「じゃあ、今回みたいに『驚かして』『運んで』『電話をする』なんてことは出来ない、と?」
「出来ないわけではありません。例えば『ある人物』が『憎い』という『カタス』ならば、『報復』という手段に移行する可能性があるよう、変化は生じます」
「なにそれ怖い」
頭の回転が早くなるように成ったせいか、いやな予想を次々と考えてしまう。
それまで普段、何気なく聞いていた情報が、一歩間違えれば怪奇現象の起爆剤になりかねないのだから、情報とは怖いもんだ。
「そういえば、仮に今回の怪奇現象が『カタス』が原因だとして、それを捕まえてもまた同じように『エス』が集まったりしないの?」
「集まりますよ」
「いやいや、なら鼬ごっこになるじゃん」
「そうならないために、カタスが異常に集まってしまった原因も解決する必要があります。じゃないと対策できませんし」
「……あれ、だからこんな探偵みたいな面倒なことやってたの?」
「はい」
この子は、なんで大事なことを話してくれないのかなぁ。
多分、まだまだ何か隠しているんだと想うけど、夢麻は教えてくれないだろう。
さっき聞いたら「何が解らないか解ったら、教えましょう」と教えない宣言してくれた。
エレベーターに乗ってやってきたのは三階。一般入院患者の住むスペースだ。
確かに、インタビューからは名前は聞き出せなかったが、ここに入院しているのは確かな情報。虱潰しに探してやろうではないか。
作戦名、ホスピタルローラー作戦。
夢麻に全校生徒の名前を記憶してもらい、ドアの横に書かれた標識を頼りに一部屋一部屋見て回る。
会えたらラッキー程度に考え、サクッとはじめたこの作戦。しかし、割とすぐにその幽霊騒動の体験者に会うことが出来ちゃったりしました。
廊下の中辺りにある入院患者の休憩スペース。テレビが一台に長椅子、数冊の雑誌と新聞という少し寂しい空間。給水場もあり見舞いに来た人らが、ポットにお湯を入れに立ち寄る。
標識を見ながら進むと、丁度給水場から出てくる人と鉢合わせになった。慌てて立ち止まると、最近聞き慣れた女性の声がした。
「あら、橘さんに語創さん」
河原先輩だった。