二章 10
「内容の濃い登校初日になりましたよ。高校生活ってこんなに疲れたっけ?やってく自信なくなるよぉ」
「そんな戯れ言いうくらいなら映画なんて見に行かなければ良かったでしょ、自己責任」
「いやいや、あそこで帰るほど空気読めなくないから。人間関係良好の方が、何かといいでしょ」
「有効的な関係は利用しやすいけど、今日のあれで有効な関係が結ばれたといえるのですか?」
「そんないきなりは無理でしょ。継続的な関係が、より良い社会性を培うの。まぁ利用とか便利とか考えたら、変に拗れるだろうけど」
「利害関係を排したら、関係なんて無意味では?」
「私はそこまでドライじゃないです」
夢麻は、大分ズレている所がある。機械的な考えだし、表情基本一つだし。
とは言え、会ってまだ数日の、それも女の子(?)の事をどれだけ理解出来ているかなんて、たかがしれているけどさ。
「あの学校の幽霊騒動って、やっぱりあれが関係してるの?」
「誰かが脅かしている、というのも捨てきれない。もう少し、情報が欲しい所です。今夜直接行って仮にその騒動がカタスの遊着による現象だった場合、確実に捕まえられる自信があるなら、行くけど?」
なんでそう高圧的なんです?失敗したら何があるんですか?何をする気ですか、その笑顔は!
「逃げたりするもんなの?」
「自身に害を与えようとする対象が現れた時の反応は、動物の反応に似ている。例外もいるけど」
つまり、逃げたり襲ってきたりするってことね。聞いた話の内容から、恐らく現れるのは落ち武者みたいな幽霊。
絶対襲ってくる。今日観た映画のワンシーンみたいに襲いかかってくるに違いない。
よし、もっと情報収集だ。
「でも、情報収集って言ってもさ。他に何を集めるの?」
「騒動の発端と思われる原因。時期や幽霊の内容や行動。今回は目撃者も多いようだから、直接聞くのが一番早い。あなた達で言うところの『妖怪』の正体が判明すれば、かなり楽」
「そう言えば、カタスの遊着した状態を人間で言う幽霊妖怪って言ってたっけ?それ本当?」
「人は自然界の現象や、自分たちでは理解できない物事などに対して、妖怪や悪魔といった自分とは別の第三者の責任にしようとした。その意志が、空想でしかなかった妖怪達を出現させるキッカケとなったの。都合の悪いことは全部妖怪のせい、私は悪くない、仕方がなかった、てね」
「妖怪伝説がうじゃうじゃと伝えられているのにちょっと納得。てことはさ、今回は差し詰め落ち武者って訳か。お化けの定番だしねぇ」
でしょ、と相打ちを貰おうと振り向くが得意のジト目で呆れられた。期待外れと言いたいのかばっかじゃないの罵りたいのか解らないが、不満ありげなのはわかった。
「所謂学校裏サイトというのにアクセスしたところ、その幽霊騒動のスレもありまして。そこでは人面犬、白い幽霊、死神化け猫エトセトラ。みる?」
いつの間に、そしてどうやってそんなサイトを見つけだしたのか、そっちの方に興味あるよ。今の若い子ってこんなにハイスペックなのかと不安になったけど、よく考えたら夢麻を一般の枠でくくっちゃだめだよね。この子は、一体何者なんだろう。
そんなことを聞くと、きっとまたよからぬ展開に発展しそうだと直感しているので、聞かない。今の関係もけして仲良し子よしじゃないし。
とりあえず、時間をかけて、ゆっくりとね。
「そうそう。今日は何食べますかい?」
携帯には確かに裏サイトがあったし、夢麻の言うように色々な目撃証言があった。が、今はそれよりも夕飯のメニュー。
ピザ、と一言だけ答えた彼女に私は今日は宅配ピザでもいいよね、と早くも自炊を諦めていた。