二章 9
シアターの下にある喫茶店で、私は灰になっていた。甘くみていた。あの大型スクリーンを。あの広音質な臨場感を。薄暗い中で観るジャパニーズホラークォリティーを!
背筋に立った鳥肌がそのままの形で吊ってしまいそうになった。心臓が不安定になったりでもしたら、訴えてやる。
高坂さんと私の両名とは対象的に、あちらではキャッキャと先ほどの映画について熱い議論をぶつけ合っている最中。鑑賞中、同じシーンで叫んだりしてたのに、どうしてこうも違いがでるんだろ。
既に試聴済みの河原先輩はが落ち着いてたのは判るけど、春日さんと夢麻が一度も微動だにせず、ポップコーンを口に入れていたのには驚いたよ。もしかしたら夢麻の弱点、とまではいかないにしろ、新鮮な一面を拝めるかもと期待したのに。こっちは涙目だよ! 叫びすぎて。
あんなリアルな落ち武者とか化け物初めてだよ!
「二人共、まだ、泣いてる?」
「泣いてないから。これ叫びすぎて目から漏れた恐怖心だから。なんでそう、平常心でいれるのかしら?」
「授業中、の優等生を演じてる、仮面なら、大丈夫。いや、やっぱり、十中八九無理」
「何で一旦肯定してから否定するの。否定も強いし。そもそも優等生気取ってません」
いやいやいや。初対面の印象とだいぶ違うよ。女の子って素でこういう腹黒いことできるの?
よく考えたら、これからはそういい未知の世界で頑張んなきゃいけないんだよね。昼ドラとかヤンデレ、派閥、体面とか色々観たり聞いたりしてるけどね。まさか自分が入るなんてなぁ。彼女とかいたりしたらその時の経験つかえたのに。
「そういえば、部長さんはどこに行ったんです?急いでたみたいですけど」
「部長はね、弟の迎えに行ったのよ」
「部長って弟いるんですか?」
「結構離れたね。確か、幼稚園じゃなかったかな?共働きだから、送り迎えとか面倒みなきゃいけないみたいでね。本人は楽しそうだからいいけどさ。しかし、部員でもないお前がなんで知ってる?いっそ橘達とついでに入るか?」
「遠慮しときま〜す」
さてと、と区切りを付けるように一声いれた河原先輩。時計を見ると確かにいい時間帯だ。空も紅みを帯びきてる。お開きには丁度いいタイミング。下手に伸ばすと帰るタイミングが無くなるしね。
経験者は語るよ。