二章 7
「同じ転校生の夢麻さんを折角だから部に誘ったら、橘さんもってなってね。ちょっと強引に連れてきてもらいました」
当たりでした。夢麻と目が合うとニッコリスマイルが返ってきた。勿論、こわい。
けど、これは考えようによってはいい傾向かもしれない。生活指導の先生からはいい情報を得られなかったわけだし。春日さん曰わく、この文芸部の先輩の彼氏が例の幽霊騒動に関係したといっていた。ならその彼女に話を聞けば、うまくいけばその幽霊を見たという彼氏に会えるかもしれない。会えないにしても、何らかの情報は得られるはず。
そう考えれば、今のこの拉致られて入った文芸部も悪くはない、と思おう。
ホワイトボードには既にデカデカと『新入部員歓迎会(決)』て書かれてるし。(決)なの?(仮)じゃなくて決定事項なの?私に拒否権、選択権、基本的人権はないのかい!?
などと大声でつっこみたいけど、この盛り上がった部室内でそんなこと言えるはずもなく、気がつけばコップが渡されていた。諦めはそのタイミングと潔さが大事なんだと言い聞かせ、渡されたカップに名前を書く。
まず立ち上がったのは先程入部届を渡してくれた、おそらく部長。
黒縁メガネを指でクイッと上げると高らかにカップを上げ、宣言した。
「それじゃまぁ、橘瑞穂さん、夢麻さん両名の歓迎会、ぼちぼちはじめま〜す。かんば〜い。」
『かんば〜い』
「んじゃ後は適当に食って飲んで迷惑になんない程度に騒いで定時には帰りなさいよ。私は帰るから」
「はい!彼氏ですか?!とさっちゃんが言いたそうにしていました」
「沙月、魅月一発殴っていいよ」
部長の許可を聞き、ラジャーと了解するやいなや、巨大ハリセンで後頭部を強打。張りのよい音を立ててハリセンは弧を描いた。どこからそんなデカいハリセン出てきたんだろう、とハリセンの出所を推測することで取りあえず今の状況をあまり考えないように自分を誘導しようとした。
「あ痛!ぅ〜、酷いです部長」
「変なこと言うからよ。それじゃあ後よろしくね」
部長が去った後も、変わりなく会は進んでいった。代わりに進行を進めたのは副部長の河原先輩。
文芸部はそれなりに人数がいるものの、大半は兼部だったり幽霊部員だったりで大体いつもメンバーは決まっているらしい。特にやることも決まっておらず、故にこれほどな自由人が多いらしい。学祭の時に本を出すのが一応目標らしいが、コンテストなどの応募は自由。
「帰宅部とあまり変わらないのが特徴だね。部室があるから断然こっちだけど」
「そういう、あなたは、部員じゃない」
「些細なことは気にしない」
気にした方がいいと思うよ。部室入ってお菓子まで当然の様に食べてるし。
私を連行してきた魅月、沙月両者は目標を夢麻に定めてじゃれている。抱きついたり髪の毛いじったりお菓子食べさせたりポッキーゲームしようとしたりと積極的だ。そういえば、さっきの大型ハリセンはどこにいったのだろう、見当たらないぞ。
「そうそう、春日さんが言ってた先輩って、さっきの部長さんのこと?」
頃合いを見計らってそつなく尋ねた。幽霊を見たという彼氏のいる先輩の話、できればもっと、更になるならその先輩から聞き出したい。
何せ、こっちはまだ情報がほとんどないからね。