二章 6
「到着したぜ!」
「やっぱり疲れるぜ!」
生徒たちの痛々しい視線をくぐり抜け、やってきたここは…どこ?
階段を降りて体育館へと繋がる通路を入ったところまでは判ったけど、その後第二体育館側の通路を向かったかとおもうと緊急ターンで下半身を振り回され気がつけば木造の建物の中。
まさか、テレポートとか?それともタイムダイブ?大穴で閉鎖空間とか言ってこないよね。
辺りをキョロキョロしている中、また二人は急発進。階段わ上がった右から二番目の部屋。
立て札には、『文芸部』と書いてました。その右下に小さく『(仮)』と書いてあったのには、気付かないフリでもってしておこう。
「先輩!噂の美少女転入生を捕獲連行してきました!」
「彩香っちの報告と、もう一人の美少女転入生の情報提供で想定していましたが、やっぱり可愛かったです!」
「よしご苦労。じゃあ早速入部届を書かないとね。名前は書いてあるから、後はここに判子を押して、親は今たしか一人暮らしだからいいとして。あ、判子がないなら今作ってあげようかい?」
「部長!それよりも約束の今度の図書館が購入する際の文芸部特別推薦枠の内の一つを我々にくださる件は」
「よしなに」
「やったぜみっちゃん!これで念願の畑芳彦先生の新刊がタダで読めるぜ!」
「やったねさっちゃん!お小遣いを気にせず読めるなんて最高だね」
「……すいません。少し説明をお願いしたいのですが。それと、人の指に勝手に朱肉つけないでください」
あらざんねん、と零してるので確信犯だこの人。無理矢理入部とか昭和の運動部の勧誘方法ですかいな。
連れられたら部室は、おおよそ8畳位のわりと大きな部屋。本棚にはびっしりと書籍が並んでおり、ポットも完備されている。目の前に差し出されたお茶の出所を見上げると、申し訳無さそうな顔を浮かべた春日あやめがいた。
教室で見たとき以上に目が垂れている。
「あら、もうきてたの?早かったね。はいこれお菓子。近くのスーパーで買ってきたよん」
声の主は、今買い出しから帰ってきたのだろう、部室に入ってきた高坂彩香。そして隣には夢麻もいた。
もう一人の情報提供者はあなたですか。
机にのせた袋の中にはスナック菓子からクッキー、ジュースにティーパック。ジュースなどの冷やしておく物は奥へと持って行かれた。部室の奥には小さいながらも冷蔵庫もあり、よく見渡せば扇風機にヒーターと冷暖房完備ときている。
快適すぎないか、この部室。
「それじゃあ新入部員歓迎会でも始めますか」
まただ。またいやな予感がした。近くにまだいたあやめを少し小突いて、この予感が外れていることを願いつつひそひそと言った。
「私がいても、その、悪くない?ほら、新入部員歓迎会なんだし」
「…ごめん」
謝罪。会話が成り立っていない様に見えるけど、今の一言で何となくわかった。そして、私の嫌な予感も見事にまた的中していた。
女のカンって凄い的中率なのね。
「初めは、転入生が来たっていう話を、してたんだけど、彩香がだんだん、話をややこしくして、気がついたら、もう一人の転入生、連れてきてて、更に、ややこしくなって、こうなった」
「夢麻が関わってたなら、それはろくでもないことだね。よく春日さんは夢麻を連れてこれたね」
「……ごめん」
あぁ、私みたいに拉致ったな。あの二人使って。おそらくは、私だけがこんな目に遭っててはなんだかイラっとするとかっていう、どうでもいい理由で私も拉致られたんだろうなぁ。
さっき少し目が合った時、背筋が震える笑みを浮かべてたもん。