二章 3
さぁてここで問題だ。授業も終わりようやく待ちに待った昼休み。昼食を持参していないだろ我が同居人に、身を削る思いで札束を削り、手に入れたジャムパン、あんパン、メロンパンを持って来たときの住居人の反応は?
「持参してるから問題ない」
「なんであるの?……私の分は?」
「ない」
「だよね。いいや、折角買ってきたけど。放課後に食べよ…」
そもそもどうして弁当を持って来ている。何時作った。
そんなやるせない気持ちを抑えつけて席に戻ると、隣の子ともう一人が椅子を持ってきた。そういえば、一緒に食べようって声かけられてたっけ。
「紹介するね。同じクラスね春日あやめちゃん」
「ちゃんを、付けるのは、ちょっとへんだよ」
「へ?そうかな。でもフルネームで呼び捨てだとなんかゴロが悪くって。ちなみに私は高坂彩香。あやめと名前が似てるんだよね」
「私は……さっき紹介してたけど、橘瑞穂。よろしくね」
改まって紹介しあうのは、なんだか気恥ずかしいなぁ。それにしても、隣の子もおっとりした感じだったけど、この子はもっとおっとりしてるなぁ。
類は友を呼ぶ、かな。
それからはたわいのない話。
買ってきたパンを口に運びながら二人の話に耳を傾ける。
初めて学校に来た私のためにか、学校関係の話題が中心だ。
おっとりした雰囲気と反して、内容は結構厳しい。数学の先生は空気が読めない、教室から自販機まで遠い、移動教室の授業が多く大変だけど大抵は教室でも十分な授業内容、英語の先生の発音は駅前留学程度。
そうなんだ、を繰り返すので精一杯だし、助け舟をと夢麻を紹介しようとするも、既に夢の世界。
私自身、あまり流暢な口ではないので素直に思う。女の子って、凄いと思う。
「そうそう。後有名なのは、七不思議の怪談。橘さんの転校前の学校にもなかった?」
「怪談?さあ、聞かなかったぁ」
「こっちのもね、最近までは一部の物知りしか知らなかったんだ〜」
「一部の物知り、私だけど、図書館の司書さんも、知ってたよ」
「あやめ以外の図書委員、だれも知ってなかったんでしょ」
「あの噂が、流れるまで、ね」
「あの噂?」
「そうそう。橘さんが転校してくる1ヶ月前くらいから学校内で噂になってるんだけどね。なんでも幽霊が出るんだって。部活動の帰りに偶々理科室を通りかかった時に、ちょこっと中を覗いたら白い半透明の浮遊体を見たんだって」
直ぐにその場を後にしたその人は、次の日に友達に話したらしい。勿論信じる訳もなく笑うものの、あまりに必死に言うものでその日の部活動終了後、仲間と一緒にいってみることにした。軽い肝試しのような感じだったらしい。
しかし、幽霊はまたもや姿を表した。今度は血まみれの死者として。白いワンピースは血でほとんどが赤色に染まり、長い髪で顔が見えにくく、髪の隙間から見えた表情は、酷い火傷後だったらしい。
次の日、その仲間の話は別の仲間へと移り、その別の仲間が肝試しへ。次の日には更に別の仲間へと繰り返しながら噂は広まっていった。中には退治してやると意気込み結果病院に送られた人もいたとかいないとか。
職員会議でも議題に上がり、193時以降は速やかに帰るよう全校集会で言われたらしい。
この話に出てくる幽霊も、面白い事に、見た人それぞれが異なるものを見たという点。さっきの血まみれの女、落ち武者、首無し科学者、人面犬とまぁバライティ豊かなラインナップ。見た者を追いかけて来るが逃げていると気がつけば居なくなっている。ただし、立ち止まりなどをして捕まると地獄に連れていかれるとか。何人かは階段からこけ落ちて骨折とかした人もいるらしい。
「そんな話が最近あったから、怪談系の話が今学校で流行っててね」
「図書の貸し出し、急上昇、びっくりたまげた」
「今でも目撃者がいるみたいだけど、最近は警備員さんも配置されてそっちで見つかる人もいるんだって。朝呼び出された生徒は見つかった人らしいよ。警備員さんも、そんなの見てないって言うし」
「そうなんだ。二人は、見たの?」
「そんなに長くいないし、見たいけど…あやめが嫌っていうしさ……」
「走るのは、いや。怖いのも、いや。彩香は、置いていきそう、だもん」
「失礼な。…きっと置いてはいかないかもしれないんじゃない?」
「曖昧にするんだね…」