一章 24
「まさか、再び制服なんて着ることになるなんてなぁ。これがセーラー服でなかったらもっと沁沁と想うこともあったろうに」
「念願の女子高生、略してJKの生セーラー服姿が鏡越しに目の前に広がっているというこの夢のような状況に少しは嬉しそうに脳内リビドーを発してみては?」
「自分の姿じゃなけりゃ、これは素敵な状況だったろうにねぇ」
鏡に映る、私好みの溌剌としてボーイッシュな、それでいて所々の細やかな部分に女の魅力が垣間見れる何事にも一生懸命男勝りで世俗に疎くその話を聞くと顔を真っ赤にして殴りかかる姿が容易に想像されゆる素敵なJKが、今の私橘瑞穂です。本名は橘勇流、男の子です。巷で流行る『男の娘』じゃないです。期待した子は帰りなさい。
母の乱入は、夢麻の直接的過ぎる超絶亜空間論述と勤め先からの悲痛なラブコールによって日を改めて、ということになった。先伸ばしじゃない。寧ろ一歩、いや五歩くらい前進した。
超絶亜空間論述? あぁ気にしないで。ただのノリだから。
そうして、母も無事…かどうかはわからないが一先ず帰り、私はというと夢麻によるセーラー服着衣講義を受けることとなった。
参考文献は、レディコミにファッション誌数冊。
セーラー服といっても所詮は制服、と侮っていたが大苦戦。着ること事態は大した問題もなくスムーズにいけたのだが、問題はその後。
ギリギリのラインで留めるスカートの丈、校則を見事にかわし生活指導のセンサーに触れず先輩のアラームに引っ掛からない程度のメイク、髪型とまぁ、男子、少なくても私には理解の及ばない世界を叩き込まれて大部苦戦しました。
「毎朝、こんな手間隙かかる面倒なことやってるの、女子ってやつは」
「貴方も昨日からその女子の仲間入り。良かったじゃないですか」
「良くない。男子は髪型適当朝起き顔拭き飯食い歯磨きという大変簡略化された動作ですむというのに。てかお前は今の行程やらなくていいの?一応、一応女子という性別カテゴリーに属しているじゃない」
「私はもう当の昔に終わりました。女子というのは幼少から日々この過程を繰り返しているので高校生ともなれば直ぐ様おわるんですよ。日々励め」
「いや、嘘だろ」
「いいえ、作り話です」
どこが違うんですかと言いかけて止めた。口喧嘩では女子には勝てないのだから。
玄関を出ると、今日も快晴いい天気。スカートがとても違和感ありまくりで嫌だけどさ。
学ランと違って、下半身が布に隠れる、触れている面積の少ないスカートは兎に角恐い。
見えてるのではないかという羞恥心。
覗かれているかもしれないという恐怖心。
少しの風で下着がひょっこりこんにちはする背徳感。
男子にとっては嬉しい事故でも女子にとってはいい迷惑。スカート最悪。私の中でスカートの地位がサブプライムしている。
一方、いつまでも立ち止まっている私を蹴り飛ばして出てくる夢麻。スカート着てて蹴るなよ。見えたらどうする!
きっと、そう言えば見せてやったのだからありがたく思いなさい、とか言ってくるんだろうなぁ。スカートの丈は私と同じくらい短いのにどうしてそう平然としていられるのだろうか。
流石にこう平然とされるとビクビクしている私がバカみたいだよ。教科書の入ったり懐かしい重みのバックを片手に、階段を降りていった。