一章 2
夢だ。
この光景で確信した。これは夢でなくてはいけない。
半裸の巨人は神様とか仏様とか、或いは裸の王様、もしかすると美の神とか愛の神とか言うんじゃなかろうか。
「いやいや、すまんすまん。急だったんでこんなとこしか用意できんかったんね。いやはや、すまんすまん」
ファーストコンタクトは、いきなりの謝罪。男にしては高く、若い印象を与える声で、片手を立てた平謝り。因みに見た目は半裸の巨人、おっさん風。まずどうして謝罪された。しかも目の前の半裸な巨人が、面識なんてあるはずもない半裸の巨人が。面識なんてあってたまるか。俺の父親はどちらかと言うと痩せ細ったモヤシみたいな中年だ。その正反対なこいつと、どこをどうすれば知り合うというのだろうか。
今現在進行形で知り合っているが、何が哀しくてこんな状況にいる。あ、夢だからか。
そうだ、そうだよ。夢なんだから何でもありだよな。
地球に隕石を落して核の冬の到来と人類の新たなる進化を願ったりや、超弩級宇宙用集合宇宙移民居住施設を地球に落としたり、大気圏突入時に敵に攻撃されて大気圏突入時に発生する摩擦に耐えきれなくなり地球に残した恋人の名前を叫びながら撃墜されたりとかもあるかもしれない。夢だからか。
「おろ、反応がありませんねぇ。せ〜っかく私から謝ってやってるのに。これだから近頃の人間は困るんだよ。イジリがいがなくなるじゃないか。ほら、なにか反応しんさいな」
イラっとした。なんで夢でまでイラっとしないといけないんだよ。半裸の巨人はやけにフランクだった。親近感は微塵もわかないが、ヒラヒラと軽い印象を全面に与えている。ただし、口調だけに限定した場合だ。
だって、半裸の巨人だぜ。
違和感の塊じゃないか。
本当のところ、無視して目が覚めるのを待っていたかったのだが、どうやら関わらないと目覚めない様な気がする。そんなフラグが立っている様に、悟った。
出来る限りの不信そうな低音で半裸の巨人に呼び掛けた。それまでヒラヒラとしていた片手はピタリと停止し、ドデカイ両目が俺を見つめている。
少し、いや、大分怖い。
「俺に、一体何のご用で」
「ようやく反応を示しましたか。長いね。長いよ、ここまで。間を持たせる為に私がどれだけ無駄な動きとトークをしたと思ってるの?無駄なトークって大変なんだよ。反応が来ないから話を拡げられないし、早口だと直ぐに終わっちゃうからゆっくり話さないといけないし。ゆっくりすぎると眠くなるし。もっと早く反応してくれなくちゃ。この世は自分だけで動いてるんじゃないよ。そういう世の中に私はしてないから。あぁほら。説教したいのにまた話が拡がんなくて終わっちゃった。対して説教する気もなかったからいいんだけどね。
なんで君をこんなところに、だったっけ?おろ、言ってなかったっけ?あらら、ま、いいや。ちょっと急ぎの御用事でね。無作為に選んだら君が選ばれました。おめでとうかわいこちゃん、ざんねんでしたヤローども。てなわけで、君には私のアシスタントになってもらいます。今からその手続きしちゃうから。本人の同意とかはいらないんで、ただそうなりましたからこれからヨロシク、みたいな?詳しいことは後で説明しとくから、とりあえず始めようか」
長々と話してくれて有難う。おかげで何をいっているのか全く理解できなかったよ。晦渋とは言わないが、それにしたって何なんだよ。
俺が理解出来ずに呆けている中、半裸の巨人は両手を組んで俺の上空に突き出した。
そう言えば、何か始めるとかいっていたような。と、両手がいきなり黄色く発光した。白の世界を侵食するほどの勢いある光に、いくら夢と分かっていても恐怖を感じる。夢の世界だからってなんでもありかよ。
半裸の巨人が力を入れる度、更に強く発光する光から逃れるように、初めて身体に逃げるように信号を送る。が、動かない。
金縛りの様な、指先などの先端が微かに動きを見せるだけ。全然動かない。動けない、そして光は底を知らないのかまだまだ光輝く。
もう黄色い光がこの空間を完全に侵食すると、組んでいた両手が隙間を作るように静かに緩まった。
光の球体、それが真っ逆さまに、ゆっくりと俺に降りてくる。
これは怖い。訳のわからないまま、ただ恐怖という感情だけが俺を支配する。やめろ、くるな。その言葉は俺の思考内にしか響いてくれない。
そして、大して時間もかからず、光の球体が私に触れた。