一章 19
「自由意識集合思念とは、地球の無意識下に存在している『エス』が、自我の結界から何らかの形で表出し、まとまりを持ったものです。普段は目に見えませんし、私たちでも確認は不可能です」
「じゃあ、こいつでどうやって捕まえるの?」
「カタスにはもう一つ、他の自由意識集合思念にはあまりない特徴を持っています。他の存在の無意識下にある『エス』を吸収、そして具現化する特性です。『遊着』ともいいますが、人間から動物、植物から無機物まで、森羅万象に存在しているエスに反応します。その具現化した結果が、貴方たちの言う『幽霊』『妖怪』『怪奇現象』『UFO』などです。宇宙人の中には、実はカタスの遊着による具現化した存在、というのもありますし」
「……あぁ、ごめん。わかんないです、話が飛びすぎてて」
「要約しますと、魑魅魍魎を見つけてその網で捕まえるんです。そして、初めのターゲットがその高校にいる可能性が高いので、潜入するわけです」
「え…と、つまり、その学校には妖怪幽霊エトセトラがいるってこと?」
「まぁ、貴方の貧相な理解力を考慮すると、それで合っています」
「バカにされて悔しいけど、あんまり理解できていないから言い返せない」
しかしこの夢麻って子、私の扱い酷くない?
ここで、私は語創の扱われ方を思い出した。殴る蹴る罵倒蔑み見下し感。うん、あいつよりはマシだなぁ。
もうこれは彼女の素なんだと割りきろう。この手の人付き合いなら慣れてるし、まぁかわいいし、悪くない。
いやいや、私はマゾじゃないし。いじめられて喜んだりしないし。私の心はいつもガラスのハートよ。今は改造されて、鋼鉄のガラスのハートになってるけどさ。
いや、もうガラスと言えないんじゃね?
「ではついでですから、遊着についての説明をしちゃいましょう」
よっこいせ、という掛け声と共に四次元円からホワイトボードを取り出した。今度は絵も使って説明してくれるようだ。
簡単な棒人間と丸を描いて、説明は始まった。
「例えば、『トイレの花子さんが出る』という噂が流れます。すると噂を聞き流す人、真に受ける人、実際に見てみようとする人、拡大誇張する人など噂に対して様々な反応をみせるでしょう。しかし、中には無意識の内に『トイレの花子さん』をみたい、怖い、出なければいいといった『トイレの花子さん』に関するそれぞれの思いが生まれます。そして、その無意識の底にあったその思い『エス』が自由意識という形で表出する場合があります。カタスは、それらを吸収することで、『トイレの花子さん』という情報を得ます。何回も『トイレの花子さん』の情報の入った自由意識を吸収し、具現化できるまでの情報と自由意識の量を得ると、カタスは『トイレの花子さん』という形で具現化を果たします。この具現化したカタスを貴方たちは幽霊などと言っていますね。カタスが具現化を果たすと、吸収した自由意識を消費します。つまり、吸収した自由意識が少なくなると、それまで『トイレの花子さん』を形造っていた情報も欠落していき、やがては消滅。もとの自由意識集合思念カタスへと戻る場合も有りますし、そのまま消滅する場合もあります」
ホワイトボードを使って説明してくれたため、今度は何とか、なんとなく理解は出来た。
確か、問題なのは、そのカタスってのが異常に多くなり過ぎたことだっけ。
つまり、自然消滅するはずのカタスが減ってしまい、結果カタスの量が増えたってこと?
どうやら、間違ってはいないらしく、異常に残ってしまったカタスを無理矢理減らす必要があるらしい。しかも、消滅しない原因は不明、目下調査中らしい。
「誰かの陰謀とか?」
「ゼロではありませんが、低いでしょう。寧ろ、この今の状況を利用しようとする輩の方が問題です。その辺りは、語創に任せましょう」
「一応、護衛と監視も兼ねてるのね」
「さすが、ニューロン細胞間の伝達処理をいじった介があって、理解は早いですね」
「ちょっと待った!何えげつないもんいじってくれてるの!恐いじゃない!」
「ただ、元々のバカさ加減は消せませんでしたか。これは報告書に書いておかなければ」
「人をなんかの実験のモルモットみたいに監視するなぁ!」
やっぱり、あの語創ってバカ野郎、ぜったい潰す。私の消せない報復相手リストに入れておこう。
いつの間に出したのかわからないが、お茶を落ち着いて啜る夢麻。飲み干してほっと満足そうに肩の力を抜き、直ぐ様元の仏頂面に戻ると説明を続けた。
というか、まだあったんだ説明。
「次に、最も厄介なケースを言います。恐らく、ターゲットとされる高校で確認されたカタスもこのケースである可能性が高いです」