一章 18
「では、詳しい本題を話しましょう」
夕食はパスタ。とはいっても買ってきた安い野菜類に冷蔵庫にあるものを突っ込んだ即席簡単パスタ7号なので、パスタといっていいのかな。
それでも他人に出しても大丈夫な味なのでノープロブレム。
たい焼きあんなに食べた後なのに、よく入るなぁと関心するほど綺麗に食べたのだけど、美味しかった? と聞けば、別に、という鋭いナイフを投げつけられた。
たい焼きの時のあれは私の見間違え、蜃気楼だったんじゃないかと疑いたくなるよ。寧ろ、私の作ったパスタが蜃気楼?
綺麗に残さず食べてくれたことはありがたいんだけど、そこは素直に喜ぼう。
そして、食後のお茶をすすりながら始まったのは私のやらなくてはいけない仕事内容。
「内容としては、不必要に増加したカタスの除去、排除、消滅です。方法としましては、これを使用します」
人差し指を立て、なぞるように円を描くと描かれた円が実体となって出現。円の中だけ別空間の四次元ポケットのようなものらしいが、残念なことに私には使えないらしい。
そうして取り出したものは、意外なことに虫取網。まさかこれで捕まえろとかっていうんじゃないよね。
これまた残念なことに、これで捕まえるらしい。さっきは文明のまだたどり着けない未知なる技術だったのに、次は一気に次代が戻ったもんだ。
「昔、網でサルを掴まえるっていうゲームが流行ったっけ」
「要領は、そんなもんです。対象が猿からカタスに代わるだけですから簡単ですね」
「いやいや、私あのゲームクリア出来ませんでしたって。それに、なんかすんごい技術の後にすんごく原始的な道具渡されて、少し残念」
「なんでもかんでも真新しくしようとするのは人間の悪い癖です。形には完成形というのがあるんですよ。利便的にも、理想的にも」
「屁理屈は特権、ですか。それで、この網で捕まえるってのはわかったけど、何を?」
「カタスです」
「あぁごめん。その妖怪みたいなのを、この網で捕まえろっていうけど、肝心のその、カタス?は何処に居て、どうやって見つけるの?」
カタスとかいうのは妖怪、幽霊みたいなものだと語創はいっていた。つまりは、よくテレビとかで夏場に特集されている心霊番組に出てくるのは、実在している、ということ。でも、どうやって見つける?
霊感なんて持ってないし、幽霊妖怪なんて見たこともない。特番だって、写真や映像を介して見ているわけで実際見た訳じゃない。
ゴーストバスターや陰陽師みたいなことする?いや、いっそ修行?
「その時になればわかる。実物見た方が判りやすいでしょ。説明しにくいし」
最後にポロリと本音が出たぞ。しかし、見たら判る、ということは直に見れるみたいだ。
それはそれで、怖いなぁ。
そういえば、まだ四次元な円が開いている。その中から出てきたのは、制服。勿論、女の子使用。
ホントに四次元ポケットみたいだなぁ。
「明日からは、まず桜木西高校に行きます。これ、制服と転入書類です」
ホントだ。制服の間に挟まってる。なになに……桜木西高等学校2年E組への転入を認めます。平成○年、桜木西高等学校理事長 天野哲司。印鑑まで押してある。へぇ、転入の時にはこんな感じに書類がくるのかぁ。
「て、チョイまち!!!!現実逃避はもういいから!!!何これ?なんで高校の転入書類があるの?どうして私の名前が一言一句正しく書かれているの!いや、私は橘勇流だから正しいわけじゃ…じゃなくて!」
「明日から貴方も高校生。前回は味わえなかった青春を取り戻そう。最も、そんな青春取り戻す暇ないですけどね」
「いやいやいやいや。説明!説明を求めます!」
「頼み方」
「え…」
「人間には人に物事を頼むとき、それ相応の頼み方があると聞きます」
この人は、いったい何をいってるんですか。さも当然みたいに、ほら早くおやりと目で訴えてくる。
あ、目がマジでいらっしゃる。
「夢麻さんどうか教えてくださいお願いします」
By土下座。
それでも『さん』付けに不満そう。いやいや、それだと本当に女王様だから。なにその主従関係。パートナーじゃなかったの?
情けないと言う代わりのため息を吐き、なんとか説明してもらえた。なんか、私は複雑だよ。
「カタスについて、少し詳しく説明しましょう。カタスという存在は、地球に存在する自由意識集合思念の一つです。」