一章 14
駅からわりと近く、学生の屯する定番所でもあるカラオケチェーンのとある個室に取り残された三人。
え、このまま三人でカラオケでもしろと?端から見たら美女二人に正志一人とハーレムっぽくはみえるけど、いやいや、めっちゃ気まずい。
夢麻とかいう少女はだんまりしたままだし、初対面だし、正志まだ少しイラついてるし。
散々空気を乱していた語創は壁の彼方へと消えていったし、結局私は女のままだし。
「とりあえず―――」
「尋ねたい事があります」
出よっか。そう切り出す私の言葉の上から発言をしたのはまさかの夢麻だった。私の目を見て感情が表出しない顔つきはかわらず淡々とした様子。
本当に、アンドロイドじゃないの?
それは後々それ相応に親しくなってから聞くとして、まだ一言も会話したことのない現段階で一体何を聞いてくるんだろう。
合コンみたいなノリで「何か飲みますか?」とか「お酒お強いんですか?私あんまり強くないから…」とか? てか未成年?
もしくは「ご趣味は?」みたいなお見合い形式? お見合いって!?
あれやこれやと予想できうる質問とそれに対する解答を考えていたわけだけど、そんな予想を斜め75度に突き抜けた。
「どうやってカラオケるのだ?」
カラオケる?
カラオケるってなに? え、カラオケって名詞だよね。いつ動詞へとランクアップしたの? 名詞から動詞ってランクアップなの?
落ち着け。落ち着きなさい、橘勇流改めて橘瑞穂。アナタは以前よりも客観性が増したんでしょうが! この程度のアクシデント、どうってことはない!
後ろを向く。正志と目が合う。
カラオケるってなに?
我此に干渉せず。
あんにゃろー!
助けなさいな!
視線を戻すと今度は夢麻とマッチング。ジ〜っと私の返答を待っている。微動だにしないその眼力に、少し切迫感を感じ始める。
因みに夢麻の発言にから今に至るまでは数秒程度しかたっていない。しかしながら、私にとっては何十秒にも感じた瞬間でもあるわけ。
カラオケる。
恐らく、カラオケの動名詞的なモノなんだろう。英語でいうなら「〜ing」の形。「karaoking」とか?
つまりは、ですよ。カラオケで歌いたいんだけどコントローラの使い方がわからないから教えて?ということですよ。
「……さっきまで、歌ってなかったっけ?」
「あの怒低脳ヤローが勝手に入れて歌ってただけなのでどうやったら歌が始まるのかはチンプンカンプンというわけです」
「…つまり、曲の入れ方を、教えてと」
「カラオケのやり方を教えやがりなさい、ということです」
真顔でなんとまぁ毒づく人だろう。てか、人?
ともかく、何を聞いていたのかはわかったので簡単に説明する。
正志は気疲れで大分参ったようで、腰を下ろして背もたれに寄りかかってようやくリラックスしようとため息を吐いた。
私はというと、カラオケのコントローラの取り扱い説明をするため、席を夢麻の隣へと移した。