一章 13
この超絶毒舌アンドロイド風娘っ子もさることながら、この語創という男、いったい何者?
夢の中には半裸の巨人で一生物のトラウマを与えてくれて、話から察するにとてつもなく大切な事をあみだクジで決めて、親バカで勝手に性別変えて、娘からはボロクソにいわれて。
空気の読めないバカ野郎、という認識は間違っていないとは思う。実際そうだし。
問題は、それを差し引いた行為や言動が人間技ではないこと。
だって、どうやって他人の夢の中に乱入できるわけ? そんな特殊技能の習得方法なんてあったら絶対好きな子とかの夢に入って自身の欲望を発散させちゃうじゃん。もし問題が起きても究極の夢オチで解決。
案外自分の娘の夢に入ったりしてんじゃないのかこいつ。
さらにどうやったのかは判らないけど、性転換記憶操作もちょちょいとやっちゃうし。
「質問」
「あらかた説明したからいいよん。はい、どうぞ」
「あんたは何者?神様とか?」
「――神様、とくるか。そりゃそうか!アハハハ」
神様という名詞に何か思い入れでもあるのかと疑いたくなるくらい、異様に反応した。
体を大きく揺らしながらアハハアハハと大袈裟な笑い顔で手を何度も叩く。
まさか、本当に神様とか?
いやだなぁ、こんなんが神様って。今度から神社にお参りとかやる気なくなるなぁ。宗教信者のみんなも涙目だよ。とりあえずは、杞憂におわるからよかったけど。
6、7回ほど往復した後、ピタッと止まって片手で先ほどの質問を否定するよう手を振った。
「神様なんていう君達が勝手に作り出した想像遇創物じゃあないよ。人間か、なんて言われたら違います、とは応えるけど。正直なところ、まぁ、うん、そうやなぁ。う〜ん、まぁ、神様っつえば、そうともいえへんけど、うん、けどねぇ」
今度は悩みだした。いやいや、そんなに難しい質問じゃないし。え、そんなに難しいの?
あまりに頭を悩ませていたようで、質問をした私の方が悪いんじゃないかって思ったし。
そして、散々悩んだあげく、両手を合わせて頬に付け、軽く傾け甘えるポーズ。正直気持ち悪かったけど、多分甘えるポーズなんだろう、そうして出た応えは「ひ・み・つ!」だそうな。
正直、もうどうでもいい。
「もういいです。ですけど、具体的に何をするんですか?まさか妖怪と戦えとかいうんですか?この身体で?せめて武器か何かを」
「詳しくは後で夢麻から聞いてね。まぁ大丈夫。戦えとかじゃないと思うし、一応常人以上の客観性、柔軟性、防衛機能はオプションで付けといたから」
「はぁ…」
「判りやすく例えると、さっきそこの正志くんが怒った時、君はまだ冷静だったろ?あんな風にそう簡単には感情的にはならなくなったりって感じ?だけど安心しなさいな。悪いようにはならないし、不都合もないから。だから怒らんで」
「ふざけたことを、ぬかすな!!」
一蹴。
正志の怒りを代弁するように怒声が鳴り響いた。殴りかかりはしない。殴っても仕方がないということを理解しているから。そう、そんな判断が出来る年齢であるんだ、私たちは。
諦め、妥協、そんな中高生の時には無縁であった感情が、学生生活を通じて経験として身に付いた、なんとも迷惑で有難い感情。
私が冷静なんじゃない。堪忍袋の緒が丈夫なんじゃない。
なるほど。上から更に補強された訳か。これは、怒りたくもなる。怒ってもいい。
「落ち着いた、正志?」
「落ち着いてはいないが、落ち着いたことにする」
「そう、ねぇ正志」
「ん?」
「ありがとう」
「―――お構い無く」
故に私は感謝した。それは正しい判断なんだから、感謝して当然でしょ。
「いい友達をもったねぇ。、では私は十分カラオケを満喫したので戻りやす。お金はもう払ってあるから好きに使いたまえ」
後は夢麻から、ね。
そう言い残して、語創は壁の中へと消えていった。文字通り、壁の中に。
最初から最後まで、酷いバカ野郎だった。