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一章 12

「その、なんとかの乖離ってのはそんなに大変なんですか?」


「アーユルの乖離は森羅万象全てに適応されている。無論、人間にもね。現段階での存在可能な人数が決まっていて、それを越えないようにいろんな制限を架けている。寿命にしかり、戦争やら人殺しやら、病気やらね。なんで人が同族の殺しなんて出来ると思う?それが出来るように人間だけ制限が解除されたからだよ。なんで戦争やら疫病やらなんて起こると思う?その時の地球では、アーユルの乖離が限界を迎えてしまうから、その応急処置的な扱いでドッと人数を減らす必要があるからだよ。強いて言うなら、地球の防衛反応みたいなものかな。おっと、気を悪くしないでくれ。これは地球にとっては当たり前の行為なんだ。人間だって体の中ではよくやっているだろう。だから正志くん、そんなに怒った顔をしないでくれよ。嫌な気分になるのは解るが、だからといって私に怒られてもどうしようもない」



正志の立つ後ろを振り向くと、握った拳をギュッと貯め、誰が見ても喜怒哀楽の怒の感情が滲み出ているのがわかる正志がいた。ここまでキレている正志は初めてだ。

私が宥めようと声をかけるも逆効果になり、声を荒らげて私を怒鳴り付けた。

正志が頭にくるのはわかる。今まで、当たり前で有りながらも自分で悩み選んできたことが、たった数行で完結されるのだ。

仕方がないこと。

気にするな。


それは、これまでの短いながらも長かった人生を根本から崩してしまう。

言葉だけでは表しきることの出来ない、ただ怒りという感情の表出。



However


しかしながら、どういうわけか、不思議なことに、なんでどうしてどうなって、私は冷静だ。冷静というよりも、客観的な第二の私が脳内で冷却材的な役割をしている様な感じ。


私と正志の堪忍袋の緒は、同じくらいの強度だと思っていたのだけれど、私の方が図太かったみたい。



「さて、落ち着いてくれたかな。それでは次を話そう。まず安心してほしい。アーユルの乖離が限界を迎えているのは人間ではない。よって、今すぐ何万人が神隠しにあったり戦争が起きたり超状現象が起きたりはしない。アーユルの乖離が限界を迎えているのは、カタスと呼ばれる存在の個体数だ。君たちのわかるように言い換えれば、幽霊妖怪百鬼夜行、そんなんだ」




幽霊妖怪百鬼夜行。

今更いるわけないじゃん、なんて言うつもりはないが、いたんだ。

今日という日を経験したため、もうそんなんでは驚かない強さを手に入れた。

そして、ここから要約話は私へと移る。



「私たちは早急に対処しなければならなくなったのだが、困ったことに規則で私たちが直接関わることが出来ない。また、急に発生した現象だったので十分な防衛策が出来ていなかった。そこで、私たちはある裏技を使うことにした。それは、人間への干渉。悪く言えば適当に人間選んでその厄介事をやってもらおうってやつだ」



「――で、私が選ばれた、と」


「あみだクジで、です」



彼女からの爆弾発言に更にショック。あみだクジで選ぶなよそんな大切なこと。


「じゃあ、なんで、女の体になったんですか」



「こいつの趣味」


「よしわかった表に出やがれこんちくしょう!」




爆弾の次は戦術核弾頭だった。キレた。

堪忍袋の強度は正志と大した差は無かったみたいだ。

いやいや、百歩譲ってあみだクジは許そう。厄介事を解決しなさいっていう件も、まぁいいよ。

しかし趣味で性転換ってなんだよ! こいつまじ最悪! ばっかじゃねーね!



「違う違う、趣味なんかじゃないから。だからその振り上げてマジで打たれる5秒前的な様相は止めよう、ね、ね!」


「じゃあ、何ですか、正当な、やむを得ない事情はぁ!」



腰に溜めをつくり、相手の裏側を軌道に設定した渾身の鉄拳は、後少しの理不尽で発動可能だ。

もう今日のこのぐちゃぐちゃした展開に対するやんごとなき怒りをこいつにぶつけてもいいんじゃない?



「これから愛する娘と一緒に行動する奴が男性なんて気にくわなかったから」


「チェェストオオオオオォォ!」



私の怒りは語創の頭を貫き、奴の後頭部を壁へと激突させた。あ、首はちゃんとくっついている。取れてしまえばよかったのに。

つまり、私はアーユルの乖離の限界を急に迎えそうになった幽霊妖怪をどうにかするべくこの目の前のバカ野郎に選ばれて、あげくに訳のわかんない理由で性転換。



「直しなさい!今すぐ私を直しなさい!」



結論。

私は悪くない!

壁に激突しのびている語創の胸ぐらを掴み上げ締め上げる。

背も縮んだせいでいい具合に吊し上げれないし、腕もつらい。

染々と自分は女になったと実感させられる。



それでも首は絞まっていたようで、直ぐに意識を取り戻した語創は腕を掴んで必死にギブアップアピール。

顔が青くなり始めた頃にようやく離してやった。




「で、直しなさいよ。それに、その厄介事も他の人に頼むことね。私学業で忙しいの」


「ゴホッ、ゴホッ。本当に苦しかったぁ。それと、それは無理な相談だよ。一番最初に言ったでしょう。貴方は選ばれた、と。あみだクジであれなんであれ、同条件下多数の中から選ばれたのは貴方。それを嫌だからという理由で無効にはできない。もう一度言おう。君は選ばれた」



眼力、と表すのだと思う。

その目に、指を刺されただけだというのに、私は少しも動けなくなった。指先が私の伝達神経を遮断しているように、身体は動くことはなかった。



「まぁ性転換あたりは娘の事もあるけど、そっちの方が都合いいんだよ。大丈夫、ちゃんと戻すから」


指線を外されると身体のコントロールが戻った。変な汗が背中を伝った。



「てなわけで、この子がスーパー可愛いくてウルトラ素敵でバーニング可憐なウチの娘、夢麻どぅえ〜っす!はい拍手!」


こいつは、場の空気というのを理解していないのだろうか。重くなったり軽くなったりが激しすぎて酔いそう。

そんなの関係ねぇと、一人拍手を送る先にはさっきから表現一つ変えずツッコミ暴言毒舌を撒き散らした少女。


娘、だったんだ。てっきりこの流れで宇宙人とかアンドロイドとか言ってくるのかと思ってた。










そういや、この語創となのるバカ野郎は、何者なの?


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