073⚫️臣下の務め 妻の愛
ガルが家に戻った瞬間、私はすぐに気づいた。
歩みの重さが、いつもと違う。
外套を脱いだ肩が、まるで雪の重みに耐える冬の枝のように沈んでいた。
「あなた、お疲れのようですね・・・。」
声をかけたとき、彼はわずかに唇の端を上げた。
けれど、その笑みは深い疲労に沈む目元までは届いていなかった。
・・・陛下が突然、名を変えられた。
王都ではすでに、その噂が濁流のように渦を巻いている。
山積みされた公文書の書き換えに追われる文官たち。
紋章の変更を前に困惑する兵士たち。
急報を手に各地へ走り回る使者たち。
私の耳にも、戸惑いと不安の入り混じった断片的な声が届いていた。
けれど、ガルは何も言わない。
言えないのだ。
忠臣として、王の決断を誰よりも重く受け止めなければならない。
夫として、私にその重圧を背負わせたくないのだ。
その狭間で、彼は声もなく静かに摩耗していた。
私はスプーンを置き、そっと彼を見つめた。
温かいスープから立ち上る湯気が、わたしたちの間に柔らかな幕をつくる。
その向こうで、ガルは黙って食事を続けていた。
大丈夫ですよ、ガル。あなたは、いつだって精一杯やっているのだから。
言葉に出さずとも、視線だけで伝わればいい。
私はただ、彼が吐き出せないすべてを受け止める、静かな器でありたい。
小さな灯火が、ふたりの沈黙を穏やかに照らしていた。
外の風が窓を揺らしても。
ガルド・バルハインの家には、揺るぎない温もりが満ちていた。




