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060⚫️期待するリョウマ
その国は古来より、荒ぶる自然――台風、地震、津波、そして火山の噴火と共にあった。
「宵越しの金は持たぬ」という言葉は、いつ全てを失うか分からぬ無常の世界で、形あるものへの執着を捨てようとした人々の、精一杯の矜持だったのかもしれない。
もし、災害を乗り越え世代を超えて残るものがあれば、それは奇跡の技なのだった。
だからこそ人々は、八世紀の王の宝物を今に伝えるほど、守るべき“聖なるもの”を大切にした。不確かな明日を前に、今日あるものを慈しみ、知恵を絞って大事に使い切る。
その価値観を象徴するのが“白木の膳”の問いだ。
黄金や漆よりも、神への供物を乗せる一度限りの白木の膳こそが、最も贅沢で畏れ多いとされた。
それは“使い捨て”という行為が、かつては極めて特別な、神事の領域にあったことを示している。
アーレンたちの技術思想もまた、この精神に通じていた。
素材の特性を見極め、自然の理に逆らわず、工夫の力でより高みを目指す。
ものを大切にしつつ“活かすこと”を尊ぶ姿勢は、エンジェラム公国の理念と共通するところが多い。
南の大陸の知恵と、彼らが北の大陸と呼ぶ東の果てに位置する公国の知識。
二つの奔流が混ざり合ったとき、一体何が産声を上げるのか。
リョウマの胸の鼓動は、もう止まらない。




