表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男なのに《聖女》に選ばれました~最強支援で剣姫たちを覚醒させ、世界を救います~  作者: 仁科異邦


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/16

紅蓮剣姫、現れる

その日、教会本部は静かすぎた。


朝の鐘が鳴り終わっても、空気に張りつめた緊張が、どこかに残っている。

「……嫌な予感がする」

小さく呟いたのは、テイルだった。


理由はない。ただ、胸の奥で聖女スキルが、微かにざわついている。

「気のせいではないと思います」

エルフィアが、窓の外を見ながら言った。


「今日は……空気が、重い」

セラも無言で頷く。珍しい。この人が言葉なく同意するのは、相当だ。

その瞬間だった。


――轟音。

大地が、揺れた。

「なっ……!?」

外壁の一部が、内側から抉り取られるように崩れ落ちる。

悲鳴、破砕音、結界が軋む、耳障りな共鳴音。


「魔王軍だ!!」

誰かの叫びが、教会内を駆け抜けた。

「結界が……破られてる!?」

「ありえない、ここは聖都だぞ!」

だが現実は、無慈悲だった。


黒い影が、崩れた壁の向こうから侵入してくる。整然と、無駄なく。暴走も、狂気もない。訓練された軍勢だ。

「……狙いは、聖女だ」

リディアが、即座に判断する。

「テイルさん、下がってください!」

エルフィアが《聖剣》を抜きながら前に出た。セラもすでに剣を構えている。


だが――。

「その必要はない」

低く、澄んだ声。

瓦礫の向こうから、一人の女剣士が現れた。


燃えるような紅の長髪。軽装の戦装束。手にするのは、刃が波打つ大剣。

彼女は、魔王軍の前に、一人で立っていた。

「――ここから先は、通さない」

「……人族の剣士?」


魔族の将が、訝しげに声をかける。

「名を名乗れ」

女は、大剣を肩に担ぎ、笑った。

「剣姫《紅蓮》。カグヤ・イグニスだ。通り名でもなんでも、好きに呼んでいい」

その瞬間。

彼女の足元から、炎が噴き上がった。

「なっ……!」

魔王軍の前列が、強制的に後退する。

だが、彼女は追わない。ただ――守る位置に、立ち続けている。

「……もう一人、剣姫がいたとは」

遠くから、魔王軍の幹部がその様子を観察していた。

「しかも、単独で前に出るか」

だが、カグヤは魔王軍も、教会も、まともに見ていなかった。

視線は、一直線に――テイルへ。


「……あんたが、噂の聖女?」

「え?」

「男なのに聖女、ってやつ」

一瞬、場の空気が止まる。


「……まあいいや」

彼女は大剣を地面に突き立てる。

「今は味方か敵か、それだけ。教会は好きじゃないけど、守るべき人がいるなら話は別だ」

「――ここは、あたしが抑える」

「剣姫が単独で……?」

セラが一歩前に出た。


「加勢する」

「いや、いい」

カグヤはあっさり断った。

「あんたは、あの子の隣にいろ」

セラが眉をひそめる。


「理由を聞かせろ」

「あの聖女、今にもスキル暴走しそうな顔してる」

全員の視線が、僕に集まった。

……確かに、魔力がざわざわしている。

怒りなのか焦りなのか、今この瞬間に支援を使ったら何が起きるかわからない。

セラが、黙って僕の隣に立った。


「……わかった」

エルフィアも、反対側に並ぶ。

「テイルさん、深呼吸してください」

「してます」

「もう一回」

(してます。でもありがとう。)


次の瞬間、魔王軍が動いた。

「排除しろ。ただし――」

将の命令は、明確だった。

「聖女には、手を出すな」

「……了解」

刃と刃がぶつかる。

炎と闇が、教会の中庭を裂く。

カグヤの剣は、圧倒的だった。

一撃一撃が重く、迷いがない。

大剣が薙ぐたびに炎が散り、魔族の群れが押し返される。

だが――殺さない。

正確に、無力化している。


「……?」

リディアは、気づいた。

魔王軍も、無差別に壊していない。

聖具庫、居住区、一般信徒――そこには、手を出していない。

狙いは――。

(……偵察か)

「退くぞ」

突然、魔王軍が引いた。


「目的は果たした」

黒い霧とともに、影が消える。

残されたのは、破壊された壁と、傷ついた権威だけ。


「……何だったの」

エルフィアが、息を整えながら呟く。

「攻撃にしては……おかしいです。本気ではない」

カグヤが、大剣を背負い直す。

「さあね」

「でも――」

彼女は、テイルを見下ろした。


「魔王軍は、あんたを見に来た。それだけは確かだ」

「……なんで、そう思う?」

「最初から、他には見向きもしなかった」

僕は、自分の手を見た。


聖女スキルが、まだ微かに揺れている。まるで、何かに感応しているみたいに。

「あんた」

カグヤが、唐突に言った。


「スキル、制御できてないだろ」

「……できてます」

「今みたいな状況では?」

答えられなかった。

「だと思った」

彼女はため息をついた。

「まあ、それを言えなかっただけ正直だ」


セラが、カグヤに向き直る。

「聞かせてもらう。あなたは何者だ。なぜここにいる」

「旅の途中で、嫌な気配を感じた。来てみたら、これだ」

「それだけか」

「だいたいそれだけ。細かいことは後で話す」


「……今聞く」

「今は後片付けの方が先でしょ」

二人の視線が、がっぷり四つに組んだ。

しばらく見ていたが、どちらも退く様子がない。

「……仲良くなりそうですね」

エルフィアが隣で小声で言った。


「どこがだ」

「強い人同士は、わかり合えると思います」

そういうものか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ