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男なのに《聖女》に選ばれました~最強支援で剣姫たちを覚醒させ、世界を救います~  作者: 仁科異邦


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聖律官リディアの揺らぎ

(リディア・エルノア視点)

聖女とは、祈る存在である。


それが、私――リディア・エルノアが教会で叩き込まれてきた絶対的な価値観だった。


聖女は前に出ない。

聖女は選ばれた者であり、守られる象徴である。

感情を抑え、私情を挟まず、ただ神意を地上に流す器。

それが"正しい"。


だからこそ私は、男が聖女スキルを得たという報告を受けたとき、即座に「危険」と判断した。

異例だからではない。

――例外は、必ず歪みを生む。


そして今、その歪みの中心にいる少年を、私は数日間、観察している。

テイル・カトレア。

彼は、教会の仮監督下に置かれていた。だが、隔離はしていない。あえてだ。


閉じ込めれば、彼の本質は見えない。

「……不思議な人ね」

私は、少し離れた位置から彼を見つめる。

彼は、聖女とは思えないほど――よく動く。


剣姫たちの準備を手伝い、野営の設営を率先し、戦闘前には自分の魔力状態を静かに確認している。

祈りは、しない。

祝福を使う前にも、後にも。

(なぜ……祈らない?)


聖女スキルは、神との接続だ。祈りなくして、安定した行使などありえない。

なのに彼の祝福は、安定しすぎている。

「……聖律官」

隣に控えていた教会騎士が、声を潜める。


「例の聖女ですが……出力、落ちていません」

「……ええ」

むしろ逆だ。

彼の祝福は、対象の状態に"寄り添いすぎている"。まるで、相手の感情や意思を感じ取っているかのように。

――そんなはずはない。


聖女は、個に寄り添わない。全体を等しく照らす光だ。

なのに。

「テイルさん、無理しないでください」

剣姫エルフィアが、心配そうに声をかける。

「大丈夫です。今の魔力消費なら、まだ余裕があります」

その声に、嘘はない。


彼は自分の限界を、正確に把握している。

セラは何も言わなかったが、一瞬だけ彼の方を見た。

それだけで、彼は軽く頷いた。

言葉がなくとも、通じている。

……聖女らしくない。

違和感が、胸の奥に積もっていく。



その日の夜。私は、彼を呼び出した。

「テイル・カトレア」

「はい」

彼は、驚くほど素直に応じた。


「いくつか質問があります」

「答えられる範囲で、なら」

この距離で見ると、彼は本当に普通の少年だ。

神に選ばれた特別さも、聖女特有の静謐さも、感じない。


「あなたは、自分が聖女だという自覚がありますか?」

「……あります、男ですけど」

即答だった。


「でも、"そう在ろう"とは、思っていません」

「……どういう意味ですか」

「聖女って、誰かの後ろに立つ存在ですよね」

私は、頷いた。

「なら、僕は向いてない」

その言葉に、胸がざわついた。


「なぜ?」

「前にいる人が苦しんでたら、放っておけないから」

……それは。

「それは、聖女の本質ではありません」

思わず、強く言ってしまった。

彼は、少しだけ目を見開いた。


「そうですか?」

「聖女は、個に干渉しすぎてはいけない」

「でも」

彼は、少し困ったように笑った。

「セラさんも、エルフィアも――"個"じゃないんですか?」

言葉に、詰まる。

「彼女たちは……」

「仲間です」

静かな断言だった。


その瞬間、彼の内側で、何かがはっきりと形を持ったのを感じた。

――この少年は、役割より関係を選ぶ。

それは、聖女として最も危険な思想だ。

なのに。


「……あなたは、怖くないのですか?」

「なにが?」

「その力で、誰かを壊してしまうかもしれないことが」

彼は、少し考えてから答えた。

「怖いです」

正直な声だった。


「だから、制御しようとしてます」

「教会の教えではなく?」

「自分の意思で」

……理解できない。

理解できないはずなのに。

(なぜ……)

彼の祝福が、これほど"澄んで"見えるのか。



その夜、私はあまり眠れなかった。

祈りの中で、神に問う。

――この聖女は、正しいのか。

だが、返ってくるのは沈黙だけだった。

翌朝。

セラが、私に告げた。

「彼は、守る価値がある」


断言だった。目は真直ぐで、迷いが一切ない。

「それだけで?」

「それだけで十分だ」

少し遅れて、エルフィアも来た。

いつもの穏やかな表情で、静かに言う。


「リディア様」

「……なんですか」

「テイルさんがいると、私の《聖剣》が安定します」

「……それは、知っています」

「理由を、考えたことがありますか?」

私は、答えられなかった。


「私は最初、自分でも怖かったんです。制御できない力を持っていることが」

彼女は続けた。

「でもテイルさんの側にいると、その力が……ちゃんと自分のものになる気がして」

「それは、彼のスキルの特性が――」

「違います」

エルフィアが、穏やかに、しかしはっきりと遮った。


「彼が、私を見てくれているからです。力じゃなくて、私自身を」

私は、何も言い返せなかった。

(……危険だ)

彼は、確かに危険だ。

だがそれは、力のせいではない。


**"人のままでいようとする聖女"**だからだ。

私は、初めて気づき始めていた。


――この少年は、管理すべき存在ではなく。

もしかすると。

世界が変わる兆し、かもしれない、と。

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