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男なのに《聖女》に選ばれました~最強支援で剣姫たちを覚醒させ、世界を救います~  作者: 仁科異邦


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2/16

烈剣姫、来たる

天啓の祭壇で起きた一件は、予想以上の速さで広まった。

男が聖女のスキルを得た。

そんな話、信じろという方が無理だ。

当然、王国は動いた。



報せが届いたのは、祭壇の一件から三日後のことだった。

「テイル・カトレアに告ぐ。王国騎士団の命により、本人の身柄を確認する」


村長の家に集められた村人たちの前で、騎士団の使者が羊皮紙を読み上げる。

声は低く、有無を言わせない響きがあった。

喉が渇く。視線が痛い。


騎士団の紋章を刻んだ鎧。剣。数名の護衛。

どう見ても、「確認」で終わる雰囲気ではない。

「……テイル・カトレア、ここにいます」

手を上げる。


使者は一度こちらを見てから、再び羊皮紙に目を落とした。

「男でありながら《聖女》のスキルを得た例は、過去に存在しない。よって当人は"異例中の異例"と判断。危険性の確認が取れるまで、単独行動を禁じる」


「……つまり?」

「監視付きの同行任務だ」

その言葉と同時に、村の入り口の方から足音が聞こえた。

「すまない、遅れた」

短い言葉。

振り返ると、そこに立っていたのは一人の女性だった。


赤毛を短く切りそろえ、無駄のない体躯に王国騎士団の制服を纏っている。

腰の剣は細身だが、柄の使い込まれ方が、その剣がただの飾りではないことを語っていた。

年は、僕の二つか三つ上だろうか。


立っているだけで、空気が変わる。

「第三騎士団所属、セラ・フォルティス。監視任務を拝命した」

使者が居住まいを正す。

「こちらが……"烈剣姫"殿」


烈剣姫。

王国最年少でその称号を得た、現役最強の女剣士。


知らない者はいない。

セラは僕を一瞥すると、淡々と言った。

「……これが、例の"男の聖女"?」

「"これ"はやめてください」

思わずツッコんでしまった。

一瞬、場が静まる。

だがセラの表情はびくともしない。


「失礼。……正直に言う。私は信じていない」

「ですよね」

「聖女は女性のみが宿す力。男が得たという時点で、何かしらの異常がある」

正論すぎて、反論できない。


「だからこそ、私が同行する。実地で確かめる」

彼女はそう言って、剣の柄に手を置いた。

「万が一、力が暴走するようなら――その場で止める」

止める、と言ったが、目を見ればわかる。

ただ止めるつもりなど、端からない。

「では決まりだ」

使者が告げる。


「テイル・カトレアは、剣姫セラ・フォルティスの任務に同行。聖女スキルの有効性と安全性を実地にて確認する。以上」

こうして僕は、思いがけず旅に出ることになった。



とはいえ、荷物はほとんどない。

剣と着替えと、少しの食料。

村の入り口で、ユフィルが待っていた。

赤いマフラーを巻いたまま、複雑な顔で立っている。

「……行っちゃうんだ」

「うん」

「危なくないの?」


「わからない。でも、断れる話でもなかった」

ユフィルは少し俯いて、それから顔を上げた。

「テイルって、昔から……大事なことになるほど、あっさりしてるよね」


「そうかな」

「そうだよ‥あのさ」

彼女は何か言いかけて、止めた。

「……ちゃんと帰ってきてね」

それだけ言って、視線を逸らした。


僕は「ああ」と答えて、歩き出した。

ユフィルの表情が、なぜかずっと頭に残った。



数日後。

王都を離れ、北方の魔物多発地帯へ向かう道中。

「……で?」

隣を歩くセラが、唐突に口を開いた。


「なに?」

「お前、どうして剣士を目指している? 仮にも聖女の支援スキルを持っているのに」

少し意外な質問だった。


「剣しかなかったから、かな」

正確には、剣しか信じられるものがなかった。

才能がない、適性が低い、戦闘向きではない――そう言われるたびに、それでも剣だけは手放さなかった。


「支援役として生きる気はないのか?」

「……ない。でも、必要ならやる」

セラは足を止め、こちらを見た。

青い目が、値踏みするように細くなる。

「その覚悟が本物かどうか、試してみよう」


彼女は前方を指差す。

木々の向こうに、黒い影。

狼型の魔物が群れている。数は七、八匹。

正面から挑めば、相応の消耗を覚悟しなければならない規模だ。

「支援を頼む、聖女様」

心臓が跳ねる。

「…………了解」

初めて、意識的にスキルを発動する。


《祝福付与》《能力強化》《精神安定》

光が、セラを包んだ。

「――っ!」

彼女の目が見開かれる。

次の瞬間、剣が閃いた。

一太刀。

それだけで、魔物の群れがまとめて吹き飛ぶ。


「……はは‥冗談でしょう」

剣姫は、静かに剣を収めながら僕を見る。

「これが……あなたの力」


その視線には、最初に向けられた疑念だけでなく――確かな驚愕が混じっていた。

「今まで感じたことのない切れ味だった」

セラはそう言って、少し間を置いた。

「……信じていない、とは言ったが」

「うん」

「信じていないのと、認めないのは、別の話だ」


それが彼女の、最大限の譲歩なのだと思った。

男の聖女。

ありえない存在。

だがその力は、本物だった。


「行くぞ。先は長い」

セラが歩き出す。

僕はその背中を見ながら、剣の柄を握り直した。

剣士を目指していた。

でも今は、この手が守れる限り――それでいい気がした。


この旅は、まだ始まったばかりである。

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