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第9話 決死の誓い、神との共闘! 龍よ、目覚めよ、涙の祈りに応えて!

「私…もう一度、やってみる…! 私なんかの命で足りるか分からないけど…私の命に代えても、この村を…みんなを、絶対に救ってみせるから!!」


 私の魂からの叫びは、まだ社殿の中に響いていた。

 響斗が、姉さんの形見の巫女装束を握りしめたまま、心配そうに私を見上げている。そして、隣には、相変わらず表情は読めないけれど、どこか私を試すような、あるいは…信じようとしてくれているような眼差しを向ける水晶様。


(もう、逃げない! 私にできること、全部やってやるんだから!)


 私は深呼吸一つ、意を決して社殿の扉を力強く押し開けた!

 そこには、案の定、あの腹黒商人・榎崎が、数人の手下と、彼に扇動された一部の村人たちを引き連れて、忌々しげに私たちを待ち構えていた。


「おお、これはこれは、巫女様のおなりですかな?」


 榎崎が、蛇のようなねっとりとした笑顔を浮かべて、私に近づいてくる。


「しかし、そのお姿…何やら鬼気迫るものがございますな。フフフ…何か良いことでもございましたか? それとも、ついに年貢の納め時と、観念なさいましたかな?」


 その嘲るような口調に、私の心の中で何かがカッと燃え上がった。


「榎崎さん! あなたこそ、この村で一体何を企んでいるんですか! 村の人たちを甘い言葉で唆して、この村の水を独り占めするつもりなんでしょう!」


 私が真正面からそう言い放つと、榎崎はわざとらしく肩をすくめてみせた。


「おやおや、人聞きの悪いことをおっしゃる。この榎崎、私はただ、この村の輝かしい将来を憂い、皆さまのお力になろうと心を砕いている、善良なる一介の商人にすぎませんぞ? それとも…巫女様には、この絶望的な干ばつをたちどころに解決するような、何か素晴らしぃー秘策でもおありで?」


 その言葉には、隠しようもない悪意が滲み出ていた。

 その時、すっと私の後ろから、水晶様が音もなく現れ、私の隣に並び立った。その姿はいつも通り静かだったけれど、まるで鞘から抜き放たれた名刀のような、ピリリとした覇気を放っている。


 榎崎の手下たちが、水晶様のただならぬ威圧感に一瞬怯んだのが分かった。そして、榎崎に扇動されていた村人たちも、私の覚悟と、神々しいまでの水晶様の姿を目の当たりにして、明らかに動揺し始めている。


「萩乃…! 水晶様…!」


 月岡村長が、かすれた声で私たちを見守っていた。

 榎崎は、一瞬だけ顔色を変えたように見えたが、すぐにいつもの嫌らしい笑みを貼り付けると、忌々しげに吐き捨てた。


「ふん、神だか何だか知らんが…この榎崎様の邪魔をするというなら、容赦はせんぞ! 者ども、何をぼさっとしておるか! あの小娘と、ついでにあの怪しい男も捕らえろ! そして、村の井戸と水路を、完全に我々の管理下に置くのだ!」


 その号令と共に、屈強な手下たちが、じりじりと私たちに迫ってくる!


(もう、やるしかない…!)


 私は恐怖を奥歯で噛み殺し、懐から再びあの古びた笛を取り出した。


「私の涙を…いいえ、この村のすべての涙を、水龍様に捧げます! 水晶様、どうか…私に力を貸してください!」


 心の底からの叫びだった。

 水晶様が、私に向かって静かに、しかし力強く一度だけ頷いた。そして、すっと目を閉じる。その瞬間、社殿の奥にある祭壇が、まるで心臓の鼓動のように、ぼんやりと、けれど確かに赤く明滅を始めた。


(今度こそ…今度こそ、本当の涙を…純粋な魂の叫びを、龍に届けるんだ!)


 私は涙を堪えながら、決死の覚悟で舞い始めた。以前のぎこちない動きとは比べ物にならないほど、私の体は軽く、そして力強く動いていた。一つ一つの動きに、一音一音の笛の音に、私の全ての祈りが、願いが、魂が込められていくのが分かる!


 どこからか、地響きのような太鼓の音が聞こえてくる。それは、私の心臓の鼓動と、そして祭壇の明滅と、完璧にシンクロしていた。私の笛の音色は、その力強いリズムに乗り、天に昇る龍のように、どこまでも高く、どこまでも清らかに響き渡った。


 ザワッ…!

 突如、強い風が巻き起こり、社殿の周りの木々を激しく揺らす。枯れ果てていたはずの川底に、まるで陽炎のように光の渦が走り、螺旋を描き始めた!


「な、なんだぁ!? こ、こいつは一体…!」

「ひ、ひぃぃ! 龍が…龍がお怒りじゃあ!」


 榎崎の手下たちが、そのあまりにも異様な光景に完全に怯え、動きが止まる。


「な、何をぐずぐずしておるか! たかが小娘一人の舞に、何を怖気づいておるのだ! さっさと捕えんか!」


 榎崎がヒステリックに叫ぶが、もう誰も彼の言葉に耳を貸そうとはしない。

 なぜなら――。


 枯れた川底の陽炎が、次第に形を成し始めていたからだ。それは、まだぼんやりとしていて不確かだけれど、天を衝くかのような、巨大な龍の幻影だった!


(龍が…! 水龍様が、本当に…! 私と水晶様の想いに、応えてくれようとしてる…!)


 そして、空はまだ晴れているはずなのに、どこからともなく、濃い霧のような湿り気を帯びた雫が、まるで光の粒子のように、キラキラと輝きながら、ゆっくりと村全体に降り注ぎ始めたのだ。


(次回、龍の覚醒、そして奇跡の雨は降るのか!? 腹黒商人との最終決戦の行方は!?)

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