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第6話 涙の共鳴、龍の目覚め!? そして迫る新たな黒い影!

 私の頬を伝った一筋の涙は、まるで堰を切ったように次から次へと溢れ出した。

 でも、不思議と悲しくはなかった。むしろ、胸の奥にあったつかえが取れて、魂が軽くなっていくような、そんな感覚。


 私の笛の音は、涙と共にさらに澄み渡り、夜空に吸い込まれるようにどこまでも高く響き渡った。

 その音と涙に呼応するかのように、隣に立つ水晶様の体が、淡く、けれど力強い青白い光を放ち始めたのだ!


「な、なんだぁ!? 地面が…揺れてるぞぉ!?」

「ひぃぃ! ま、まさか…本当に水龍様がお怒りに…!?」


 社殿の前の地面が、カタカタと微かに揺れ始める。そして、あの遠雷のような轟音が、今度はもっとずっと近く、まるで地の底から響いてくるように、ズシン、ズシンと近づいてくる!


(す、すごい…! 水晶様の力が…私の涙と笛の音に、本当に応えてくれてるの…!?)


 村人たちは、目の前で起きている超常的な現象に完全に度肝を抜かれ、腰を抜かす者、ただただ口をあんぐりと開けて立ち尽くす者、様々だった。あれだけ威勢よく掲げられていた松明の炎も、水晶様が放つ神々しい光の前では、まるで風前の灯火のように小さく揺れている。


 その神々しい光の中心で、水晶様が静かに、しかし社殿の隅々にまで響き渡るような声で村人たちに告げた。


「……龍は、目覚めようとしている。これ以上、騒ぎ立てるでない」


 その声には、有無を言わせぬ神としての威厳が満ち満ちていた。

 村人たちは、水晶様の言葉と、明らかに人間のものではないその力に完全に圧倒され、先程までの興奮が嘘のように静まり返り、じりじりと後ずさり始める。


「み、皆の者! 今宵はこれまでにいたせ!」


 月岡村長が、震える声ながらも威厳を保って叫んだ。


「水龍様と、そして萩乃を信じ、静かに夜明けを待つのじゃ! きっと、きっと良い方向に向かうはずじゃ…!」


 村人たちは、まだ戸惑いと恐怖を隠せない様子だったけれど、村長の言葉に従い、一人、また一人と、社殿の前から去って行った。


 ***


 嵐のような騒ぎが去り、社殿の前には、涙でぐしょぐしょの顔の私と、静かに佇む水晶様だけが残された。緊張の糸が切れた私は、その場にへなへなと座り込んでしまう。


「……立てるか、萩乃」


 不意に、水晶様が私に近づき、すっと手を差し伸べてくれた。その声は、先程までの神々しい響きとは違い、どこか穏やかだった。


「は、はい…! あ、ありがとうございます…水晶様…」


 私は差し伸べられた彼の手を、少しドキドキしながらも、素直に掴んだ。水晶様の手は、やっぱり少しひんやりとしていたけど、大きくて、なんだかすごく…安心する手だった。


(うわぁ…水晶様の手、こんな感じなんだ…。って、何考えてるの私! でも、さっきの水晶様、めちゃくちゃカッコよかったなぁ…! 神様オーラ全開だったし!)


「お前の涙と笛の音…確かに、龍に届いた」


 立ち上がった私に、水晶様が静かに告げる。


「だが、まだ足りぬ」


「た、足りないんですかぁ!? あんなにスゴイことになったのに!? 地面だって揺れたんですよ!?」


 思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまった。あれでダメ出しって、神様の要求レベル、高すぎやしませんか!?


「真の覚醒には、より純粋な、魂の叫びが必要だ」


「じゅ、純粋な魂の叫びぃ!? な、なんですかソレ!? ハードル、さらに上がってません!? 私、もう涙も魂もカラッカラなんですけど!」


 私の悲痛な叫びに、水晶様は表情一つ変えず、「いずれ分かる」とだけ呟いた。

(分かるって言われてもー! もうちょっとヒントとかくれてもいいじゃないですか、この朴念仁神様ー!)


 ***


 それから数日後。村の空気は、あの夜の出来事以来、少しだけ変わった。私への風当たりはいくらか和らいだし、村人たちも、わずかな希望を胸に、空を見上げる回数が増えた気がする。

 そんなある日、水見里に珍しく外部からの訪問者が現れた。


 身なりの良い、小太りの男。年の頃は四十代半ばくらいだろうか。やけにニコニコしているけれど、その目の奥は全然笑っていない。いかにも「私、腹黒いです」って顔に書いてあるような、そんな感じの商人だった。名前は確か、榎崎えのきざきとか言ったっけ。


 榎崎と名乗る商人は、数人の強面の手下を引き連れて、真っ直ぐに村長のもとへ向かった。


「いやはや、これはこれは酷い干ばつですなぁ、村長殿。お察し申し上げますぞ。いかがですかな? この榎崎、何かお力になれることがあればと思いまして参上いたしました。例えば、この村の貴重な『水』の権利を、ほんの少ぉしばかり、この私にお譲りいただければ、見返りに食料なんぞ、たんまりと融通いたしますが…フフフ…」


 遠巻きにその様子を見ていた私は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。なんだか、蛇に睨まれた蛙みたいな気分だ。


(な、なんだかあの商人…すっごく嫌な感じがする…。にこやかだけど、目が全然優しくない。村の水を…狙ってるのかな…?)


 月岡村長は、榎崎の胡散臭い申し出を丁重に、しかしきっぱりと断っていたけれど、榎崎は少しも諦めた様子を見せず、意味深な笑みを浮かべて引き上げていった。


 その時、社殿の奥から、いつもとは違う、ピリッとした水晶様の気配を感じた。彼もまた、あの商人の存在に何かを感じ取っているのかもしれない。


 静かになった村に、また新しい、黒くて不穏な影が忍び寄ってきているような気がして、私はぎゅっと自分の拳を握りしめた。


(次回、腹黒商人の魔の手が迫る!? そして、私と水晶様の関係にも、まさかの進展が…あるの!?)

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