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第27話 届け、魂の歌! 神様一家の、未来を照らす虹!

「しずくが、みんなを、まもるの!」


 私の小さな娘――雫は、そう高らかに宣言すると、社殿の前に一人、毅然と立った。その小さな背中には、もう迷いも恐怖もない。あるのは、愛する者たちを守り抜くという、神の娘としての、そして一人の女の子としての、確かな覚悟だけだった。


「ククク…面白い。実に面白い! その小さな体で、この村を覆う我が呪いを、どうするというのですかな?」


 少し離れた場所で、妖狐・弧月が、扇子で口元を隠しながら嘲笑している。

 村人たちは、固唾をのんで雫の姿を見守っている。期待と、そして不安が入り混じった、複雑な視線。


 雫は、その視線にも、弧月の嘲笑にも、一切動じることなく、すっと目を閉じた。

 そして、小さな胸の前で、そっと両手を合わせた。


(大丈夫…。お母様が教えてくれたもん…。一番大事なのは、『大好き』の気持ちだって…!)


 雫の心の中に、私たちの笑顔が、水見里の豊かな自然が、そして、不器用だけどいつも優しいお父様の顔が浮かぶ。


(お父様が教えてくれた、お水の心…。優しくて、でも強くて…)

(じぃじが教えてくれた、お山の心…。どっしりしてて、温かい…)

(あや姉様が教えてくれた、風の心…。軽やかで、全てを繋いでくれる…)


 雫の小さな体から、ふわりと、虹色のオーラが溢れ出した。それは、今までのような制御不能な力の奔流じゃない。穏やかで、優しくて、そしてどこまでも清らかな、浄化の光だった。


「さあ、始めましょうか!」


 私は笛を構え、綾織様は風を呼び、巌固様は大地にどっしりと根を張る。そして水晶様は、娘のすぐそばで、その全てを受け止めるように静かに佇んでいる。


 雫が、ゆっくりと目を開けた。その瞳は、深い湖の色をたたえ、神々しいまでの輝きを放っている。


「みんなの苦しいの、痛いの…ぜんぶ、消えちゃえーっ!」


 雫が両手をぱっと広げた瞬間、彼女から放たれた虹色の光が、まるで優しい雨のように、村全体へと降り注ぎ始めた!

 その光の雨に触れた、萎れていた作物は、みるみるうちに青々とした元気な姿を取り戻していく。元気をなくしていた家畜たちは、むくりと起き上がり、淀んでいた井戸の水は、キラキラとした輝きを取り戻した!


「おお…!作物が…!」

「水が…水が綺麗になっとる!」

 村人たちから、驚きと歓喜の声が上がる。


「なっ…!?馬鹿な…! 我が呪いが、こんな小娘の力で浄化されているというのか!?」


 弧月の顔から、初めて余裕の色が消えた。

「させるかぁっ!」

 弧月が、禍々しい妖気の塊を、浄化の中心にいる雫へと放つ!


「その汚ねえ手で、ウチの孫娘に触れるなぁっ!」


 巌固様が、大地から巨大な岩壁を隆起させ、妖気の攻撃を真正面から受け止める!


「あらあら、お見通しですわよ」


 綾織様の操る風が、岩壁をすり抜けようとした妖気の残滓を、巧みに空の彼方へと運び去る。


「お前の相手は、この俺だ、弧月」


 そして、水晶様が動いた。その手には、清冽な水が渦巻いて、鋭い龍の牙をかたどっている。

「人間と神の、そして家族の絆の力を、侮るな!」


 水晶様の放った水龍の牙が、弧月を的確に捉える!


「ぐっ…ああっ!? き、貴様らぁ…!たかが人間一人のために、神々が束になって…!馬鹿馬鹿しい!」


 追い詰められた弧月は、憎々しげに私たちを睨みつけ、そして最後に、信じられないものを見るかのように、雫を見た。

 雫は、ただ、純粋な瞳で弧月を見つめ返していた。その瞳には、敵意も憎しみもない。ただ、深い慈しみと、ほんの少しの哀れみだけが浮かんでいた。


「……ありえん…。その力…その絆…! 我には、理解できん…!」


 弧月は、そう吐き捨てると、まるで闇に溶けるように、その姿をかき消した。彼の妖気が完全に消え去った後、水見里には、嘘のように穏やかで、温かい空気が戻ってきた。


「やった…!やったぞーっ!」

「雫様、ありがとう!」「萩乃様、水晶様!」

 村中が、割れんばかりの歓声に包まれる。

 雫は、にこっと満面の笑みを浮かべた後、力が尽きたように、ふらりとその場に倒れ込んだ。


「雫!」

 私が駆け寄るよりも早く、水晶様がその小さな体を優しく抱きとめる。


「……よく、頑張ったな、雫」

「うん…! しずく、みんなのこと、まもれた…?」

「ああ。お前は、この里の、我々の、最高の希望だ」


 水晶様の言葉に、雫は安心したように、その腕の中ですうっと安らかな寝息を立て始めた。


 ***


 その夜。

 社殿の縁側で、私と水晶様は、静かに月を見上げていた。私の膝の上では、雫が幸せそうな顔で眠っている。

 遠く神域からは、巌固様の「乾杯!」という豪快な声と、綾織様の楽しそうな笑い声が、風に乗って聞こえてくるようだった。


「本当に、強くなりましたね、あの子」

 私が、眠る娘の銀髪をそっと撫でながら言うと、水晶様は、深い愛情が込められた瞳で、私たち母子を見つめていた。


「ああ。お前のその太陽のような心と…そして、ほんの少しだけ、俺の頑固さも受け継いでいるようだからな」


(あら? 水晶様ったら、自分のこと、ちゃんと分かってるんじゃないですか)


 私は、くすりと笑って、水晶様の肩にそっと頭をもたれかかった。

 眠っている雫が、むにゃむにゃと寝言を言った。


「お父様…お母様…だーいすき…」


 その小さな寝言と共に、雫の周りに、キラキラと輝く、小さな小さな龍の幻影が、楽しそうにくるくると舞っている。それは、あの子が見ている、幸せな夢の形なのかもしれない。


(これからも、たくさんのことがあるかもしれない。でも、この家族と、素敵な仲間たちがいれば、きっとどんなことだって乗り越えられる)


 私は、愛する夫と、愛する娘の温もりを感じながら、静かに目を閉じた。

 水見里の夜空には、満天の星が、まるで私たちの未来を祝福してくれるかのように、どこまでも、どこまでも美しく輝いていた。


 ――水龍神様と涙雨の巫女と、時々小さな龍。

 私たちの、ちょっと騒がしくて、でも愛情いっぱいの物語は、これからも、ずっと続いていく。

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