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第21話 水龍神様、パパになる!?

 あの、神域の存亡をかけた戦いから、地上では五年ほどの歳月が流れた。

 かつて干ばつに泣いていたことが嘘のように、水見里みずみさとは、水龍神様の豊かな恵みを受けて、穏やかで活気に満ちた里へと生まれ変わっていた。小川のせせらぎ、のどかに回る水車の音、そして子供たちの元気な笑い声。それが、今の私の、かけがえのない日常だ。


 そして私、萩乃はぎのはというと――。


「しずくー! そっちはダメよー! そろそろお昼ご飯の時間でしょー!」


「いやー! しずく、まだチョウチョさんとあしょぶのー!」


 きゃっきゃと笑いながら、小さな体で元気に野原を駆け回る、水晶様譲りの美しい銀髪の女の子。

 彼女こそ、私と水晶様との間に生まれた、たった一人の愛娘・しずく、五歳。

 神の力と人の心を持つ、世界で一番愛おしい、私の宝物だ。


「あらあら、またお花が増えてるわねぇ」

「ははは、雫は本当に花が好きだな」


 縁側でお茶を飲んでいた叔父の響斗と叔母の小萩が、微笑ましそうにその光景を見ている。

 雫が「わーい!」と手を叩いて喜ぶたびに、彼女の足元から、ぽんっ、ぽんっと色とりどりの季節外れの花が咲き乱れる。うん、可愛い。すっごく可愛いんだけど、後でこっそり元に戻しておくのが、母である私の大事な役目だったりする。


(うちの子、ちょっとヤンチャが神レベルなのよねぇ…)


 私がやれやれと肩をすくめていると、すっと背後から大きな影が差した。


「……昼餉の時間か」

「わ、水晶様! もう、驚かさないでくださいよ!」


 振り返ると、そこにはいつもの涼しい顔をした、私の自慢の旦那様が立っていた。父となり、神としての威厳にさらに磨きがかかった…かと思いきや、その視線は娘の雫に釘付けだ。


「お父様ー!」


 雫は、水晶様の姿を見つけると、たったか駆け寄ってきて、その足にぎゅっと抱きついた。


「お父様、だーいすき!」

「……ああ。俺もだ、雫」


 水晶様は、クールな表情を一切崩さない。でも、私には分かる。彼の体から漏れ出す神気が、嬉しさのあまりキラキラと輝いて、春の陽だまりみたいに温かいオーラを放っているのを!


(だだ漏れですよ、水晶様! その親バカオーラ、隠しきれてませんからね!)


 私が内心でツッコミを入れていると、水晶様はひょいと雫を軽々と抱き上げた。


「さあ、萩乃が待っている。戻るぞ」

「はーい!」


 そんな穏やかな昼下がり。小萩が、楽しそうに一枚の張り紙を持ってきた。


「はぎ姉!見て見て!もうすぐ、収穫祭だって!」

「わあ、もうそんな時期なのね。今年は豊作だったから、きっと盛大なお祭りになるわねぇ」


 その言葉に、水晶様の腕の中で雫がぴょこんと顔を上げた。

「おまつり? しずくもいく!」

「もちろんよ。雫も一緒に行こうね」

「やったー! しずくね、おまつり、お手伝いしゅるの!」

「あらあら、えらいわねぇ、雫ちゃんは」


 雫の健気な言葉に、みんなが目を細める。でも、私と水晶様だけは、ほんの少しだけ顔を見合わせて、苦笑いした。雫の言う「お手伝い」が、時としてとんでもない大騒動を巻き起こすことを、私たちはよく知っているからだ。


 その日の夕方のことだった。

 空がにわかにかき曇り、社殿の庭に、ゴゴゴゴッ!と地響きのような音が轟いた。


「ガッハッハッハ! 水晶! 萩乃殿! そして我が可愛い孫娘、雫よ! この山の神・巌固様が、極上の土産を持ってきてやったぞぉ!」


 現れたのは、相変わらず豪快で、岩のように大きな山の神・巌固様だった。そして、その肩に担がれているのは…って、えええ!?


「こ、これ…キノコ、ですか…?」

「うむ! この前、わしの山で見つけたちょっと珍しい『万年茸』じゃ! 雫の祝いにと思ってな! 精がつくぞぉ!」


 巌固様が「どうだ!」とばかりに地面に置いたそれは、私の背丈ほどもある、巨大で、しかもぼんやりと光を放つ、明らかに普通じゃないキノコだった。


(じぃじ、スケールが神レベルすぎるんですよぉぉぉ!)


「わーい! おっきなキノコさん! ありがと、じぃじ!」


 雫は大喜びで巨大キノコに抱きついている。水晶様は、やれやれといった顔でこめかみを押さえている。うん、これが私たちの平和な日常。


 その夜。

 すやすやと眠る雫の寝顔を見ながら、私はそっと水晶様の肩に寄り添った。雫は、楽しかったのか、寝息に合わせて枕の周りに小さな虹を架けている。


「雫、お祭りをすごく楽しみにしてましたね」

「ああ。…だが、あの子の力は、まだ本人にも制御できん。少し、心配だな」

「ふふっ、大丈夫ですよ。いざとなったら、お父様がパパっと解決してくれるんでしょう?」

「……当然だ」


 水晶様はそう言って、私の手を優しく握り返してくれた。

 母として、妻として、そして水見里の巫女として。この幸せな毎日を守るためなら、私は何だってできる。

 そう、この時は、まだ本気でそう思っていたのだ。

 雫の純粋な「お手伝いしたい」という想いが、やがて水見里全体を巻き込む、とんでもない大騒動の引き金になるなんて、夢にも思わずに――。


(次回、お祭り当日! 雫の力がまさかの大暴走!? 私たち、どうなっちゃうのー!?)

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