第20話 愛と絆の奇跡! 神域に響け、涙雨の巫女の歌!
「ありがとう、萩乃。お前のおかげで、俺は俺自身を取り戻すことができた。…さあ、行こう。我々の手で、あの忌まわしい影を、完全に祓うのだ!」
「はいっ、水晶様!」
水晶様の力強い言葉に、私は満面の笑みで頷き返す。もう、怖いものなんて何もない!
覚醒した水晶様を先頭に、私たち四人は、禁足地の最深部、邪悪な気配の根源たる「神喰らいの影」へと、最後の戦いを挑んだ!
「いくぞ、水晶! あの日の、そして今日までの借りを、まとめて返してやるぜぇぇ!」
巌固様が、まるで山そのものが動いたかのような雄叫びを上げ、大地を揺るがすほどの剛腕で巨大な岩盤を影に叩きつける!
「水様、巌様、萩乃さん、今よ! 影の動きが一瞬止まったわ!」
綾織様の鋭い声が飛ぶ。彼女の操る風は、影の放つ邪気を巧みに逸らし、私たちに攻撃のチャンスを作り出してくれる。
「萩乃、俺に力を! お前の清らかな祈りが、俺の龍気を増幅させる!」
水晶様が、その姿を天を衝く水龍のそれに変じさせ(あるいは龍神の強大な力を人型にまとったまま)、清冽にして万物を砕く激流のような神力で影を攻撃する!
(みんな、すごい…! これが、神様たちの本気の戦い…! 私も、負けてられない! この笛の音で、この祈りで、みんなを、この神域を、守るんだ!)
私は必死に笛を吹き鳴らし、祈りの言葉を紡ぎ続ける。その一音一音が、一言一言が、仲間たちの力となり、傷を癒し、そして「神喰らいの影」の邪悪なオーラを、少しずつではあるけれど、確実に削ぎ落としていく!
『まだだ…まだ終わらせん…! 我は喰らう…全ての魂を喰らい尽くしてやる…! 我こそが、真の神となるのだァァァ!』
追い詰められた「神喰らいの影」が、断末魔のような叫びと共に、最後の力を振り絞って、禁足地の闇そのものを凝縮したかのような、絶望的なまでの邪気を放ってきた!
そのあまりの力に、巌固様も綾織様も、そして龍神の姿の水晶様でさえも、一瞬動きを止められてしまう!
(まずい…! このままじゃ、みんなが…!)
その時、私の脳裏に、水見里で雨を降らせた時の、あの感覚が蘇った。ただ願うだけじゃない、ただ祈るだけでもない。心の底からの、魂そのものの叫び――!
私は、水晶様にそっと支えられながら、ありったけの想いを込めて、天に向かって歌い始めた。それは、楽譜も歌詞もない、私の魂が紡ぎ出す、即興の「歌」。
水晶様への愛、仲間たちへの感謝、生きとし生けるもの全てへの慈しみ、そして、この美しい神域と地上界の平和への切なる願い…。
私の目から、大粒の涙が止めどなく溢れ出し、その涙は、歌声と共に、まばゆいばかりの黄金色の光の粒子となって舞い上がった。その光は、禁足地の深い闇を優しく照らし、「神喰らいの影」の邪悪なオーラを、まるで陽光が雪を溶かすように、浄化していく!
『ぐ…おおおお…! こ、この光は…この温もりは…なんだ…!? 我の力が…溶けていく…! やめろ…やめろぉぉぉぉ!』
「神喰らいの影」の苦悶の叫びが響き渡る。
水晶様が、私の手を取り、その黄金色の光を自らの龍気に融合させる。
「今だ、萩乃! お前のその魂の歌で、あの影の心の闇を照らすのだ! そして、俺のこの力で、完全に浄化する!」
私と水晶様の力が一つになり、それはもう、ただの浄化の光ではない、愛と希望の巨大な奔流となって、「神喰らいの影」を完全に包み込んだ!
影の断末魔が、次第に穏やかな、そしてどこか安らかな声に変わっていく。
『あ…あぁ…これが…光…温もり…そうか…我は、ただ…寂しかっただけなのかもしれぬ……』
邪悪な気配は完全に消え去り、後に残ったのは、ほんの小さな、か弱い光の玉だった。それは、ゆっくりと天に昇っていき、そして…ふっと、安らかに消えていった。
***
禁足地を覆っていた重苦しい邪気は完全に消え去り、まるで嘘のように清浄な空気が満ちてきた。淀んでいた神力の源泉である聖なる湖は、その湖底からまばゆいばかりの光を放ち始め、みるみるうちに元の美しい瑠璃色の輝きを取り戻していく。
その輝きは、神域全体に広がり、力を失いかけていた神々は息を吹き返し、荒れ果てていた土地にも、みるみるうちに緑が蘇り始めた!
「やった…! 本当に、やったのね、私たち!」
綾織様が、目に涙を浮かべながら、私と水晶様に抱きついてきた。
「おのれら…なかなかやるじゃねえか…」
巌固様も、ぶっきらぼうな口調ながら、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。彼は水晶様の肩をバンバンと叩き、そして、私に向かって深々と頭を下げた。
「…フン。まあ、今回はこの小娘…いや、巫女殿の力がなければ、どうなっていたか分からんな。…礼を言うぞ、巫女殿。そして水晶…お前も、よくぞ戻ってきたな、悪友よ」
水晶様と巌固様は、どちらからともなく差し出した拳を、ゴツンと力強く合わせる。長年のわだかまりが、完全に解けた瞬間だった。
そして、水晶様は、私を優しく、でも力強く抱きしめてくれた。
「萩乃……お前がいなければ、俺は永遠に過去の闇に囚われたままだっただろう。本当に、ありがとう。お前こそが、俺の…俺たちの、光だ」
「水晶様…! そんな…私の方こそ、水晶様が信じてくれたから…みんなが助けてくれたから、ここまで来れたんです…!」
私たちは、どちらからともなく見つめ合い、そして、幸せを噛みしめるように、そっと唇を重ねた。
(水晶様…。よかった、本当に、本当によかった…! もう、一人で苦しんだりしないでくださいね…。これからは、どんなことがあっても、私がずっとずっと、そばにいますから!)
***
神域に真の平和が戻り、私たちは、巌固様や綾織様、そして他の多くの神々からの心からの感謝と祝福を受けながら、愛する水見里へと帰還した。
村では、響斗や小萩、月岡村長をはじめとする村人たちが、まるで凱旋将軍を迎えるかのように、それはもう盛大に出迎えてくれたのだった。
それから数日後。
水見里は、すっかりいつもの穏やかな日常を取り戻していた。社殿の縁側で、私と水晶様は、並んで座って、のんびりとお茶を飲んでいる。
「神域も、それはそれは大変でしたけど、やっぱり水見里が一番落ち着きますねぇ」
「ああ。だが、たまには巌や綾織が、騒々しく遊びに来るのも悪くないかもしれんな」
水晶様が、ほんの少しだけ、楽しそうにそう言った。
(ふふっ、水晶様ったら、すっかりお友達が増えて、本当はすっごく嬉しいくせに! これからも、神様も人間も、みんなで仲良く笑い合える、そんな毎日が、ずーっとずーっと続くといいな…!)
遠くの山々は、神域から吹いてくる清らかな風を受けて、穏やかに緑を揺らしている。そして、私たちの頭上には、どこまでも高く、どこまでも青く澄み渡った空が広がっていた。
私と水晶様の未来も、きっと、この空のように、明るく、優しく、そしてどこまでも輝き続けていくのだろう。
――【完】めでたしめでたし!――




